『神様は実在するらしい』
結局あの後、目を開けた私は熱がある事がアレクにバレて、またもや一週間の軟禁生活を余儀なくされた。
まあ監禁にならなかっただけマシかもしれない。私はそう思い込むことにした。
そして現在。
私は一週間ぶりに畑へ来ていた。今回はアレクも仕事が休みのようなので一緒にいる。
私が熱出してた間もずっと付きっきりだったし、そんなに仕事休んで大丈夫?とは思ったが、まだ小さい私がそんな事聞いたらおかしいから聞かないけどね。
そしてもう一つ疑問に思った事がある。
それは、今回私が畑に来ると何故だが作物が実っていた事だ。
前世なら作物収穫まで何ヶ月もかかるはずなのに、ここは魔法のある異世界だから常識が違うのだろうか?
まあ私がそんな事を思っても、今は大人しく様子を見守っているしかないけど。
私はアレクにこの木影から出ないように言われているのだ。だからここから動くわけにも行かないし、前のように土いじりでもしようものなら、アレクがこちらへ飛んで来るのが予想できる。
なので収穫がどんなに忙しそうでも、私は手伝えなかった。まあ私は病み上がりだから、アレクの心配もわかるしね。
そういう理由で、私は暫くは木陰で大人しく座っていた。
でも、数時間が経つ頃。私は流石にその作業の長さに心の中で叫び声を上げた。
……いつ収穫終わるの!?というか、本当に多すぎない!?もうここに来て何時間も経ってるんですけど!?
私は我慢の限界が来て、その場でスッと立ち上がった。
すると何故か、それに直ぐに気づいたらしいアレクがこちらへ走り寄ってくる。私はその行動に驚いて、その場で目をパチパチと瞬かせた。
いや、気づくの早くね?もしかしてずっと見張ってるの?…怖いんですけど!
私は声に出して叫びたいのを心の中で何とか押し止める。
しかしそんな私の心の叫びを知らないアレクは、私に近づくと、私の身長に合わせるように屈み込んだ。
「どうしたの?疲れた?もう帰る?」
アレクは心配そうに私の目を見てそう聞く。私はそれに慌てて首を振った。
「ううん。帰らないよ。まだ収穫終わらないのかなと思っただけだから。」
「ああ。ごめんね。どうやらこの状態は一昨日からずっとらしくてね。みんな交代で睡眠を取りながら、一日中収穫しているんだって。収穫しないと、いつの間にか畑以外にもできてしまうらしいよ。」
私はアレクの言葉に目を丸くする。
それはいくら何でも有り得ないのでは?これが三日間続いてるという事は、ジャモがどれだけの量になっているか。
「収穫したのはどうしてるの!?」
私はつい詰め寄るように聞いていた。そんな私に驚きながらも、アレクははっきりと答える。
「えっと。それはあの建物に全部入れているらしいよ。」
そう言って示された建物は、このスラムでは中々にきれいな小屋だった。
そうか。食料は大事だから、住む所よりも食料保存先を優先するのか。
私は今は関係ない事なのに、それに心の底から感心した。そしてその小屋に行きたいとアレクに伝える。
「アレク、私をあそこに連れて行って。」
「うん。いいよ。」
あっさり許可が降りた。
私はそれに心の中でホッと胸を撫で下ろすと、アレクが抱き上げて歩き出したのに大人しく従う。
いやぁ。抱き上げられる度に思うけど、慣れって怖いわ〜。
「エミリー、着いたよ。」
「…はっ。」
微妙に意識がトリップしていた私は、アレクの言葉で現実に引き戻された。
「アレク君。ありがとう!」
私は地面に下ろしてもらい、お礼を言うと扉の開いていた小屋を覗き込む。
「…これは…凄いね。」
私は小屋の中の光景に呆然としてそう呟いた。
ジャモが天井に付きそうなほど積み上げられていて、しかもそろそろ小屋に入らなくなりそうだったのだ。驚くのも当たり前だろう。
「エミリー?本当に大丈夫?」
小屋の前で黙って立ち尽くす私に、アレクが心配そうに声をかける。私はそれにぎこちなく笑って頷いて、質問した。
「これ、収穫いつ終わるかわかる?」
私の問いかけにアレクは少し考えてから答えた。
「いや、後暫くは続くと思うよ。これは恐らく儀式のせいだね。」
「儀式?」
私の頭の中には、一週間前にしたあの凄い儀式が思い浮かぶ。
「そう。祝願の儀式だよ。あれは、天上の御方々に豊作をお願いする儀式だったんだけど、今回は大地の資格保有者が二人もいたからね。願いが届きすぎたんだろう。」
「そうなの?」
「うん。それしかないね。…………本当は資格保有者が二人いても、ここまでなる事はないんだけどね。」
私はアレクの説明に納得する。流石魔法異世界。神様が本当にいるっぽい。というか、あの儀式にそんな効果があったんだ。
最後は何て言ったか聞き取れなかったけど、アレクが何かを考え始めたから聞き返せない。資格保有者が何かも聞きたかったんだけどな。
「エミリー。そろそろ木陰に戻ろうか。」
「あ、うん!」
考え事が終わったらしいアレクが私を抱き上げた。
私はさっきの事を聞くチャンスだと思って、口を開く。
「ア「アレクさん!収穫量が突然増えました!支援をお願いします!」
グレイに遮られました。しかも何かヤバそうな雰囲気で口を挟めない。
「それは本当か!?」
「はい!とても収穫が追いつきません!」
「分かった!すぐ戻る!…エミリー、ごめんね。一人で木陰まで行ける?」
「え、うん!大丈夫!」
私はその場の雰囲気に押されて反射的に頷いた。
そんな私にアレクは申し訳そうな表情で謝る。
「本当にごめんね…。」
「ううん!いいから!早く行ってきなよ!…大変なんでしょ?」
私はアレクの背中を押して、最後にグレイへ視線を向ける。
それにグレイは少し眉を下げながらもしっかりと頷いた。
「そうだけど。ごめんね、エミリー。」
何で二人共謝るの?私はそんなに寂しそうな顔をしているだろうか?
私はそう疑問に思いながらも、グレイからの謝罪に首を振って大丈夫だと答える。そして今度はグレイの背中も押して、畑へと戻るように促した。
「ほら!二人共早く行って!皆大変そうだよ!」
私のその言葉に二人は頷くと、畑へ向けて走り出した。
私はその後ろ姿を黙って見送る。
なんかさ、私が行かせたんだけどさ、胸の辺りがモヤモヤするな…。いつも過保護すぎるアレクが、今回は私を後回しにしたからかな。アレクは私の……ははは。何言ってんだろ。
ていうかさ、大地の神様だか何だか知らないけど、貴方が変な事するせいで私がこんな気持ちになってるんだけど!
私はこんな自分にはなりたくなかったのに!何が収穫が一日中よ!そんなの祝福じゃなくて呪いじゃない!せめて一ヶ月に一回くらいにしなさいよ!
私は心の中で、有らん限りのこの気持ちを神様に向かってぶつけた。
だが全て叫び終わった時、私の心に最初に浮かんだのは虚しさと申し訳なさだった。
…何やってんだろ私は。ごめんなさい、神様。完全に八つ当たりでした。
私は心の中で謝罪した。
そして私は自分の余りの嫌さ加減に口元を歪め、肩を落としてため息をつく。
しかしずっとここにいるわけにもいかない。私はそのままアレクに言われた通り木陰に戻る事にした。
その時だった。
私の耳にありえない台詞が聞こえてきたのは。




