『儀式は不思議』
私は少し離れた場所からアレクとグレイの儀式準備の様子を見守る。
二人の準備が終わったら、いよいよ儀式のスタート。それまで邪魔にならないように、私は離れたところで待っているようにとアレクに言われた。
なので私は暇なこの間に、さっき説明を受けた今回の儀式についておさらいをする。
今回行うのは、天上に御座す方々(神様ことだ)に収穫期間短縮をお願いする儀式。
主祭司のアレクを中心として、福祭司のリグルスとジーンが両隣に立つ。グレイは儀式の途中でアレクに祝物(お供え物。この場合は収穫目的物)を渡す役。そして私は、アレクの後ろにいて合図と共にお祈りをする役。
お祈りの格好は、両膝をついて両手を開いたまま、ピンと伸ばして地面に付けるだけ。
しかも私以外の皆も同じ事をするらしい。ぶっちゃけいてもいなくても変わらない役である。
「エミリー。儀式を始めるよ。」
私が密かにやさぐれていると、アレクから声がかかる。私は「うん!」と返事をして、急いでアレクの元へ駆け寄った。
「緊張してる?」
アレクは近くまで来た私を抱き上げると、覗き込む読むようにそう聞いてくる。心配ですとありありと顔に書いてあった。
私はそのわかり易さに笑いそうになるのを必死に堪えて、否定する為に首を横に振る。
「うーん?してない、かな。」
だって私がするのはいてもいなくても変わらない役なんだから、緊張する訳がないのだ。
「そっか。よし。なら儀式を楽しんで。」
アレクはそう言って私を地面に下ろした。私は地面にしっかりと足をつけると、改めてアレクを見上げて頷いた。
「うん。アレク君も頑張って!」
胸の前で小さく握りこぶしを作って応援する。
「分かった。頑張るよ。」
アレクは私の言葉に微笑んで頷くと、表情を真剣なものに変えて儀式の場所に立った。
「それでは儀式を始める。」
位置についたアレクがそう言うと、右手に杖のようなものが出てきた。先端には鈴のような物が三つついている。
私は始めてみたアレクの魔法に、目を輝かせて注目した。
「神々に祝願を」
アレクが静かな声で言った。すると空気がいっきに張り詰めた感じがした。
『祝願を』
リグルスとジーンがアレクに続くように言う。
「大地の神ローフェン」
『眷属神ルトー』
私はここであれ?と首を傾げた。神の名前なんて初めて聞いたのに、どこか懐かしい感じがしたような気がしたのだ。
だけどそれを感じたのは一瞬で、私の疑問とは別に儀式はそのまま進んでいくから、それを疑問に思った事すらも直ぐに忘れたのだけど。
「天上に御座す二の神々に」
『我らが祝願を捧げましょう』
アレク達の言葉が終わる。
最後にアレクが杖を一度揺らすと、辺りへ鈴の音が広がり、その間にグレイがアレクへと祝物を渡すのが見えた。
「祈りなさい」
祝物を受け取ったアレクが一歩前で出てそう言った。私はそれを聞き、指示されていた通りに祈りを始める。
「御心に叶うよう、我らが願いの対価を捧げます。」
アレクは歌うように神への言葉を述べながら、ゆっくりと祭壇へ近づいていく。私はギリギリ見えるアレクの靴でその様子を知る。
祭壇の目の前へ辿り着いたアレクは一度膝を折ると、恭しく祝物を置いた。
「神に願いを。神に誓いを。神に祈りを捧げましょう。」
アレクは最後にそう言うと、私達と同じように祈りの姿勢に入る。ただしアレクは私達とは違い、片膝をついた状態で杖を掲げる姿勢をとっていた。
私はそこまで確認して、アレクからそっと視線を外す。
折角だし、この世界でも神頼みっていうのをやっておこう。こんな儀式はそうそうできるものじゃないと思うし。
そう考えて、先程聞いた神の名前を頭の中に浮かべる。
(ええと。確か大地の神ローフェン
と眷属神ルトーだっけ?えっと、御二方にお願いいたします。畑を豊作にして下さい。あ、あと、あの気持ち悪い虫が二度と現れないようにして下さい。ほんっとうにお願いいたします!)
私はそこまで祈ってから、はたと我に返った。
やばい。ヒートアップしてしまった。あのキモい虫を思い出したら止まらなくなった。
私は誰にでもなく心の中で言い訳をしながら、少し反省する。
そしてそれから暫く沈黙の時が続き、流石に疲れたと私が思い始める頃になって、ようやくアレクが立ち上がった。
「儀式終了!」
アレクのその一声で、私も含めた皆が一斉に姿勢を崩す。
私はそれを見て、やっぱり皆も疲れたのか。自分だけではなかったと密かに安堵した。
「エミリー。大丈夫かい?」
暫く地面に座り込んで休憩していた私の目の前に、いつの間にかアレクが立っていた。
「私は平気だよ。アレク君こそ大丈夫?」
私は少し驚きながらも、大丈夫だと頷く。そして逆にアレクを心配するように見つめた。
今日は一番アレクが大変そうだったから。
「僕は大丈夫だよ。」
私の心配にアレクはニコニコと笑顔でそう返事をすると、また私を抱き上げた。
私はそれにぎょっとする。流石にアレクでも少しは疲れているはずだ。私は慌てて下ろしてくれるように頼んだ。
「ダメだよ。」
私のお願いに対するアレクの答えは簡潔だった。私はその一言に撃沈され、それ以上は何も言わない事にした。
「じゃあ僕達は片付けがあるから。ここで待っててね?」
アレクはそう言うと、私を祭壇から少し離れた場所に下ろす。
私はそれに頷いて、アレクが迎えに来るまで、片付けをしている皆の様子を眺めてそこで待っていたのだった。




