『今日はアレクがおかしい』
それから暫くは皆の様子を見ていた私だが、そこである事に気づく。いや、気づいてしまった。
私だけ仕事してない!って。
アレクとグレイは指示を出しながら何かの話をしてるし、リグルスとジーンは二人共白い服に着替えてこちらも何かの準備をしている。他の皆も、あのシュリエ達ですら祭壇みたいなのの設置をしていた。
私は慌てて、仕事を貰うためにアレク達に駆け寄る。
近づくと、二人の会話が耳に入ってきた。
「そうだな。なら今回は私が中央に立とう。二人は私の両隣でいいだろう。」
「なら俺は祝物を捧げます。」
「ああ。あの二人には祝願を覚えてもらわなくては。」
「はい。俺、伝えてきますね。」
そこでグレイがこちらを振り返った。いきなりの事で私はビクッと固まる。
良く聞き取れなかったけど、これは盗み聞きって疑われたかも。どうしよう。
私は視線を彷徨わせた。
「あれ?どうしたの?エミリー。」
アレクもグレイの様子で私の存在に気づいたらしい。
アレクまで加わったことで、私は益々焦る。
「う、ん。何でもないの。どうぞご自由に。」
やっと出てきた言い訳はそんな言葉だった。
いや、何をご自由に!?
私は自分の言ったことの意味のわからなさに自分でツッコミを入れた。
「うん?エミリー?」
アレクが困ったような表情で私を見る。
私は思った。そりゃそうだよねって。
「ううん。何でもないのよ。お話の邪魔してごめんね。」
だから私は誤魔化すことにした。こういうのは話題をそらした方が勝ちだ。いや、なんと勝負してるのか分からないけど。
「そう?」
アレクが不思議そうにそう聞いてくる。私はそれに全力で頷いた。
そしてここに来た目的を果たす為、本題に入る。
「あのね、私手伝いがしたくて来たの。なにかさせて?」
私はそう言ってコテンと首を傾げた。
ちょっとあざとかったかもしれない。初めてこの仕草をしてみたけど、中々に精神的にくるものがある。これは二度と使えないな。
私は頑張って表情を作りながら、そんな事を心の中で考える。
そうしてアレクの様子を伺ってみると、アレクは何故か目を見開いて固まっていた。
えっ?どうしたの?
流石に予想外の反応で、私は戸惑ってしまう。
そしてこれは表情にバッチリと出ていたようで、グレイがフォローのようなものを入れてきた。
「アレクさんはエミリーの余りの可愛さに驚いただけだよ。いいかい、エミリー。アレクさんや僕相手ならいいけど、他の人にそんな可愛い仕草をしてはダメだよ。」
いや、フォローか?これ。
グレイは真面目に言っているらしいけど、私が可愛いとか幼女なのだから当たり前だし、それだけでアレクが固まるとかありえないと思うんだけど。
………いや、過保護なアレクならあり得るかも?
私はどういう反応をすればいいのか分からなくて、愛想笑いを浮かべた。
「そ、そうなんだあ。ありがとう。」
そう言って笑う私に、グレイは満足そうに頷いた。
少し罪悪感を感じたが、これは仕方ない事だと自分を納得させる。
そしてそんな私の葛藤など知らないだろうグレイは、何かに気づいたように表情を変えた。
「あ、そうだ。僕、用事があるから行くね。じゃあまた後で。」
そう言って慌てた様子で走って行く後ろ姿を私はポカンと見送った。
え?放置するの?この状況で。
私は釈然としない気分になる。だけど、もう去ってしまったグレイに何かを言えるわけもなく、結局はため息をつくだけしかできなかった。
と言っても、いつまでもそうしているわけにはいかない。そろそろアレクを正気に戻さなくては。
私は改めてアレクの方へ視線を向けた。
「アレ………わぎゃ!?」
正気に戻そうと呼びかけながら振り向いた先には、アレクが屈んでいた。しかも頬杖をついた状態で、視線がバッチリ合う高さに顔がある。
驚いて変な悲鳴を上げた私は、素晴らしい反射神経でその場から飛び退った。
ななな、何でいるの!?よりによって真後ろに!
混乱する頭を抱えて、何とか状況を理解しようとする。
そんな私の様子に、アレクが悪戯っぽい微笑みを浮かべて言った。
「ふふふ。驚いた?」
私はその言葉に愕然とする。
あのアレクが私を驚かした?え?あの過保護なアレクが?
私は別の意味で驚きすぎて無言になる。
「…………。」
「あ、あれ。ごめんね。やっぱりするんじゃなかったよね。」
何も反応しない私に不安になったのか、アレクがオロオロとし始める。
私はそれを見て思った。
珍しいアレクだ。普段大人びてるけど、こういう反応は普通なんだな、って。
でも、そのお陰で怒りもわいてこない。私は仕方ないなあという気持ちで、アレクを許す事にした。
「アレクくん、大丈夫だよ。ちょっと驚いたけど!」
まあちょっとの嫌味を言うぐらいは許されるだろう。
「そ、そう?」
「うん!大丈夫!それよりも、私に何かさせて!それで許してあげる!」
尚も不安そうなアレクに、私は満面の笑みでそう提案した。
許す為の交換条件みたいになったけど、これでアレクも気が楽だろう。
「えっと?確かお手伝いがしたいんだったっけ?」
「うん!」
私の言葉にアレクは少し悩むように眉値を寄せた。
「手伝い…。あー。あ、そうだ。なら、今からする儀式で一緒にお祈りしてくれる?」
「…儀式?お祈り?」
私は聞き慣れない言葉に首を傾げる。
すると、アレクが突然自分の手で目を押さえだした。
私はその突然の奇行に目を見開く。
だけど、どうしたか聞く前に直ぐに普段通りに戻ってしまった。だからそれ以上聞くことは出来なかったけど、今の一瞬で本当に何があったのか。
「あ、そうだ。さっきの質問だけど、儀式っていうのはね、収穫がいっぱいになりますようにって天上に御座す方々にお願いする事だよ。その行動の中にお祈りっていう行程があって、祝願っていうんだ。」
私が色々と考えている間に、アレクが私の質問に答えだした。
私はそれが余りにいきなり過ぎて驚く。
アレク、流石に立ち直りが早すぎです。私がついていけません。
私はそんな事を思った。
…いや、実際は説明が幼児向けだから理解するのも簡単だったけど!めっちゃわかり易かったけど!
でも文句の一つも言いたくなるのは仕方ないと思うの。
まあそんな事を実際に口にする事はないけどね。
「ありがとう!」
私は笑顔でお礼を言った。




