『支配者はやっぱり普通ではない』
魔法があると知った日から一週間。
あの後、魔法の存在に興奮した私は意識を失って倒れた。らしい。
らしいと言うのは、私がそれについてあんまり覚えてないからだ。
目が覚めたら二日経っていて、それまで高熱に魘されていたと聞いた。
そして今回もまた、アレクから外出禁止令を出された。
もうお約束のようになってしまっている。おかしな話だが、アレクの過保護にももう慣れた。
あ、でも以前と違う事が一つだけ。
「アレク君、この文字ってさっきのとは違うの?」
「うん?ああ。これは、」
アレクが文字を教えてくれるようになったのだ。
私が魔法に興味を示したら、まずは文字の読み書きを覚えようと言われた。確かにその通りなので、私は大人しく従っている。
まあ、私は文字と魔法がどう関係するのか知らないんだけど。
でもこれで家にいて暇ということはなくなった。
文字の勉強が終わった後、私は明日の事についてアレクと話す。
「明日はもう畑に行ってもいいんだよね?」
久しぶりの外出で嬉し過ぎて、弾む声を抑えられない。抑える気もないんだけど。
「いいよ。僕と一緒に行こうね。」
「うん!」
アレクの言葉に私は思いっきり頷く。
そうしてその日も平和に過ぎた。
―翌日
楽しみ過ぎて落ち着きのない私を思ってか、アレクが朝から畑に連れて行ってくれる事になった。
それを聞いて私は実際に飛び上がって喜んでしまった。お陰でアレクにちょっと迫力のある笑顔で見られることになる。反省。反省。
「畑もうできてるかなー?」
私は畑へ向かう道すがら、いつものごとく抱き上げられた状態でにこにことアレクに話しかける。
「そうだね。もうできてると思うよ。」
アレクはそんな私に優しげな微笑みを浮かべてそう答える。
「やっぱり?えへへ。楽しみだなー。」
私はその答えに、益々楽しい気分になった。
畑が完成してるなら、後は収穫を待つだけだ。やっとグレイ達の飢えをなくせる未来が見えてきた。
「あ、でもまたゴキャブリ出てるかも?魔法見れるかな?」
私はこの前の事を思い出してアレクに聞く。
「どうだろうね。でも大体は朝一で処理するから。いないと思うよ。」
「…そっか。」
アレクの答えに、私は嬉しいような。残念なような。ゴキャブリは嫌だけど、魔法は見たかったなあ。
そんな不思議な気持ちになった。
それからは二人で色々な話をして歩いた。そしたらいつの間にか畑へ到着していて驚いた事をここに報告しておこう。
「わあ〜。本当にできてる!すごい!」
それが完成した畑を見た時の私の感想。心の底から思ったことだ。
「畑を完成させてくれてありがとう!」
私は久し振りに会った皆に満面の笑みでそう言った。
それに対して皆は笑顔で頷いてくれる。
「エミリーが倒れてる間に終わるように頑張ったよ。この前は余り構ってあげられなくてごめんね。」
グレイがそんなことを言う。
私が放ったらかしにされていじけていたのに気づいていたらしい。
私はグレイに小さい声で大丈夫だと言いながらも、自分がまるで駄々っ子のよで恥ずかしくて、顔が赤くなっていくのを感じた。
それを気づかれたくなくて、隠すように数歩だけ皆より前に出た。そして改めて畑を見る。
それで思ったけど、やっぱりすごい。
元々少しは知識があったとは言え、異世界と地球では育て方も違う。アレクにいつだったか確認したから、それは間違いない。なのに出来栄えが地球で見たのと遜色ないのだ。
私は素直に感心する。
そんな風に畑を眺める私の隣に、いつの間にかアレクが立った。
「どう?エミリー。君の望んだ畑になった?」
アレクは穏やかにそう問いかけてくる。私はそんなアレクを見ながら考えた。
そういえば最初からアレクは私のする事に余り反対しなかった。それどころか、殆どがアレクの協力なしではできなかったことばかり。畑作り然り。最近始めた文字の勉強然り。
こんな役立たずで、迷惑ばかりかける私の面倒を見てくれるのは何故だろうか。
私は何か分かるかもと、じーっとアレクを見つめる。
「?どうしたの?何かダメな所でもあった?」
何も答えない私に、アレクは何か失敗があったのかと悲しげに眉を下げた。
それに慌てたのは私だ。
自分の知りたいことがあったからって、アレクを悲しませるとかダメでしょ!
「いや、本当にすごいよ!完璧だよ!」
私は慌ててフォローする。
でも、言葉が何だか安っぽくなってしまった。
私は自分の語彙力?的な何かのなさにがっかりする。
でも私の思いだけは何とか通じてくれたらしい。アレクの顔には笑顔が戻った。
「そうなのかい?良かった。何かいけないことがあったなら、作り直させようと思ってたんだ。」
アレクは笑顔のままそんな爆弾発言をする。私は思いっきり固まった。
え?この畑を作るの大変だったはずなのに、それが私の意見で作り直させるってどういうこと?
流石にアレクのこの発言には戦慄が走った。過保護は別にいいけど、これはもう過保護っていうより、盲信…。いや、考えるのはやめよう。
「それよりアレク、収穫はいつできるの?」
私は踏み入ってはいけないものを感じで、それ以上は考えないことにした。そして同時に話題も変える。
「えっとね。収穫は確か通常は三ヶ月かかるよ。でも今回はリグルスとジーンがいるから、二ヶ月ぐらいかな。」
「そ、そうなんだ。」
私はアレクの答えに微妙な笑顔を浮かべる。
答えてくれたのはいいけど、なんでリグルスとジーンがいたら期間短縮するの?
私はわけがわからなくて、頭の中がその疑問でうまる。
「エミリー、不思議だって顔してる。そうだよね。この前初めて魔法見たんだよね。なら、今から見るものはエミリー驚くと思うよ。」
「そうなの?何するの?」
もしかして魔法が見れる!?
「ふふふ。内緒。」
どうやら期待が表情に出ていたのか、そこでアレクがいたずらっぽい表情で私にそう言った。
私はアレクの珍しい発言にキョトンとする。過保護なアレクが私にこんなことを言うなんて。
何故か微妙に感動してしまった。
「わかった!なら楽しみにしてる!あ、でもいつ分かるの?」
「直ぐにわかるよ。今からするからね。」
アレクはそう言うと、今まで後ろに黙って立っていた皆に視線を向けた。
するとそれだけで皆はアレクの言いたい事が分かったらしい。一斉に動き出す。
私はポカンと口を開けて驚きながら、その様子を眺めていた。
何故か上下関係が見える。
え、アレクって本当にスラムの子供?グレイもそうだけど、アレクはもっとスラムの子供らしくないよ。どっちかって言うと、お金持ちの子供みたいなんだけど。
私はそう思ったけど、結局それを口に出す勇気はなかった。




