『子供とは元気なもの』
この攻防はいつ終わるのだろうか。
先程から一言も話さない少女を見て、私はそんな事を考えていた。
これは私から話しかけなくてはダメなの?それともずっとこのまま?
そう思いながらも、顔には出さないように必死で笑顔を作る。最近ダメ出しされてばかりの笑顔だが、私は諦めない人間なのだ。いつか完璧な笑顔を取り戻してみせると思っている。
って、今は現実逃避している場合ではなかった。私は改めて少女に視線を向ける。
「え、っと?」
声をかけようとして、少女の名前を知らない事に気づいた。私はどうしたらいいのかわからず、困惑する。
少女はそんな私の様子に気づいたのか、それとも気づいていないのか、私の声を聞くとニッコリと笑った。
「あたしはシュリエっていうの!四歳よ!一人で遊んでても楽しくないでしょ?こっち来て一緒遊ぼ!」
「えっ!?」
突然立ち上がった少女―シュリエは私の手を引いてどこかに走り出す。そのせいで半ば引きづられている形の私には気づいてはくれない。
私はシュリエの腕を掴んで、止まるようにお願いする。
「ちょっ、いた「マルク!ガレン!連れてきたよ!」……い、よ…」
話してる途中で私の言葉は遮られた。そのせいで結構小声になってしまったのだけれど、これは聞こえただろうか?
私は少しイラッとしながらも、一応確認の為、シュリエの顔を見上げた。
「おお〜。なら、そいつ連れてこっち来い!」
「うん!分かった。」
どうやら聞こえてなかったらしい。グレイが連れてきた他の子供達との会話でそれがわかった。まあ予想通りだからいいけど。
というか、女の子以外は仕事与えられてたよね?それはどうしたのよ?私は仕事貰えなかったのに!
私はそんな事を頭の隅で考えながらも、子供相手に注意しても意味ないかと小さくため息をつく。それでイライラが消えるわけではないけど、少しは平常心が戻ってきた。
でもそれとこれとは別で、腕が痛いのは変わらない。私はもう一度止まるようにお願いする為に、声を上げようかと考える。
だがそれとほぼ同時に、シュリエが足を止めた。どうやら目的地らしき場所についたらしい。
私は離された腕を見て、少しモヤモヤしながらも、ホッと胸を撫で下ろした。
そこで視線を感じて、私はゆっくりと顔を上げる。すると、そこにはこちらを見つめる三つの視線。
一つはシュリエのもので、残り二つはシュリエよりも少しだけ背の高い男の子達がいたのだ。
私は少しだけビクッと体を揺らす。
「なぁお前、グレイの言ってた奴だよな?俺達を助けたとかいう奴。」
「え?これが?嘘っしょ?」
「本当よ!グレイが言ってたんだもん!」
怒涛の勢いで話す子供達に私は少し後ずさった。
シュリエはともかく、最初の二人は初対面なのに……。
あまりの遠慮のなさに、私は眉間にシワを寄せた。
流石子供である。自分のことしか考えていない。しかも本人が目の前にいるのに、そんな話をするのはダメでしょ。まあ子供に言っても仕方ないから言わないけど。
私はそんな事を考えながらも、何とか引き攣らないように笑顔を作る。
「あ、はは。私はエミリーっていうの。初めまして?かな」
挨拶の声が少し硬くなったけど、それは見逃してほしい。
「あ"?俺はガレン。」
「俺っちはマルクだ〜よ!」
「あたしはシュリエ!」
シュリエ、それはさっきも聞いたよ…。私は心の中で力なく突っ込みを入れる。
というか、挨拶から滲み出るヤンキー感とチャラ男感。どっちも明るい茶髪だからそう感じるだけかもしれないけど。
今の私の笑顔には、諦観が浮かんでいるかもしれない。
「おい、今からお前は俺らの子分だ!着いてこい!」
ガレンはそう言うと、私の腕を掴んで走り出した。シュリエと行動が全く同じだ。
一方の私は、ガレンの突然の宣言に面食らっていた。
いきなり子分宣言!ありえない!しかも腕を引っ張るな!痛いって!
こっちの男の子には年下の、しかも女の子への優しさはないのー!?
私は心の中であらん限りの絶叫を上げる。
え?何で声に出して言わないのかって?
そんなの決まってるじゃない!この手の子供はどうせ言ったって聞かないのよ!そんなの前世で経験済みよ!
そこまで叫んで、ふと私はある疑問を抱く。
……あれ?私前世でそんな体験したっけ?
前から言っているが、私は前世の知識はあっても、自分についての記憶は殆どない。それなのに今、一瞬だけ頭をよぎった記憶。これは何?
私はそれについて考えようとして、でも止める。私の何かが警告を鳴らしてた。これ以上はダメだって。
少し興味はあったが、私は自分の直感を信じている、だからその警告に大人しく従い、考えるのを止めることにした。
それに心の底から言うけど、今は私それどころじゃない。
この子供ヤンキーが腕を引っ張ってくるから、超高速で足動かさなくてはいけないのだ。少しでも歩くスピードを緩めると、転びそうになる。
なので私はそれから暫く、余計な事を考えないようにして、足を動すことに集中した。
結局、その後連れて行かれたのは見覚えのない場所で、帰ることを断念した私は子供達の遊びに付き合った。
最初は鬼ごっこから始まり、木の棒でのチャンバラ(やばいくらい痛かった)、泥団子での泥合戦(服が終わった)、最後に取っ組み合い(流石に見学した)。
全てが終わった頃には、あと少しで日が暮れそうな時間になっていた。
急いで畑に戻ると、作業を終えたらしいグレイと仕事を終えたアレクが二人で並んで立っていた。
私の泥だらけの服に驚いたのか、目を見開いているアレクに私は眉を下げて謝る。
アレクは怒らなかったけど、笑顔が今まで見た中で一番黒かった。
私はその微笑みを見て、心の底から思った。
もう二度と、子供なんかとは遊ばない、と。




