『国への疑念が生まれるのは一瞬だ』
私がグレイを連れてきたのは、アレクが手配してくれた畑だ。勿論働き手というサービス付きである。
「これは…」
私の説明にグレイは驚きで言葉も出ないようだ。
私は自分が用意したわけでもないのに何だか少し誇らしい気持ちになり、えっへんと胸を張った。
「さあ、グレイくん。これで、畑について協力してくれますね?」
私が少し偉そうに言うと、グレイはそれで我に返った。まだ少しぼーっとしながらも、しっかりと頷く。
その反応に私も満足して頷き返すと、早速働き手の人達を紹介する事にした。
あ、ついでに言うと、どうやって土地を見つけたとか、働き手を集めたとかはもちろん聞いていない。私は知らなくていい事もあると理解している大人だからね。
まあ、だから私自身は働き手の名前を知らないわけで、ここだけはアレクに頼ることになっている。
私はアレクに視線を送る。アレクはそれに頷き返してくれた。
これだけで意図を理解してくれるんだから、本当にアレクは凄い。
「茶色で大きい方がリグルス。小さい方がジーン。赤の短髪がレージ。赤の長髪がリリス。緑がフック。」
アレクが紹介を始めた。
女の子もいるんだ。仲良くなりたいなぁ。私はそんな事を頭の片隅で考えながらも、眉間にシワを寄せてバレない程度に首を傾げる。
何か紹介大雑把、ていうかそれ見分け方じゃね?個人の紹介皆無って、もしかしてアレクって……。
いや、考えるのはやめよう。
私は何か深みに嵌りそうな予感がして、そこで思考をシャットアウトする。
気を取り直して、畑についての話し合いをする事にした。
「えっと、自己紹介はまた時間がある時にします。今日は畑についての話し合いをしましょう。ではグレイくん、代表として話し合いの進行をお願いします。」
私はグレイに視線を送った。
すると、グレイは驚いた顔で私を凝視してくる。
まあ、突然の指名だから驚くよね。でもね、私は幼女なわけで、毎日ここに来れるわけではないんだよ。明日は仕事始めの予定だから来るつもりではいるけれど、その後は三日おきにしかこれない。
だから知らない人に任せるよりも、私的にはグレイに任せたいわけで。なのでそんな有り得ないって目で見られても、意見を変える気はないよ。
私はそう言う思いを持って、グレイの目を見つめ返す。
すると、意外にもグレイは直ぐに折れた。それに少し驚きながらも、私は気づかれないようにそっと胸を撫で下ろす。
「エミリーの指名で、今日から僕が代表となりました。グレイといいます。よろしくお願いします。ではまず、畑についての話し合いを―――」
どうやら話し合いは無事スタートしたようだ。私はその様子を眺めながら、心の中でグレイに賛美を送る。
まさか素人、しかも一番年下がきちんと話し合いの進行ができるとは私も思っていなかった。ほぼ無茶ぶりのつもりだったのに、上手に話もまとめているようだし、言葉遣いも丁寧。
もしかしてグレイっていい所の出なのかな?スラムで敬語使える人なんて、アレク以外見たことないよ。
はっ!ってことは、アレクもいい所の出なのは確実じゃん!というか、何で礼儀正しい優秀な人間がスラムなんかにいるの!この国ちょっとおかしいのでは?
私は冗談半分にそんなことを考えていた。でも、考えれば考えるほど、冗談で済まされる問題ではないような気がしてくる。
私は深みに嵌りそうなので、これについても思考をシャットアウトする事にした。
何か思考のシャットアウト、今日多くない?
何だか疲れた私は、今日はもう考えることはやめにすると決めた。
その後は、グレイ達の話し合いの様子を眺めながら、未だ私を抱えているアレクと偶にお喋りしたりして時間を潰す。
一時間程してやっと話し合いが終わると、グレイが今日は解散と言ったことでその場はお開きになった。
私が「今日は話し合いをする」と言った、言葉の意味を正確に理解していたらしい。
私は笑顔で皆に手を振ると、グレイ達が見えなくなった所でどうにか地面に降ろしてもらい、その日は手を繋いで家に帰った。
家にたどり着いた頃には夕方の五時を少し過ぎていたので、そのまま夕食をとり、その後直ぐに体を洗って寝巻きに着替えた事までは覚えている。しかしその後の事は全く記憶にない。
私は自身で思っていた以上に疲れていたのだろう。
だから多分寝落ちたんだと思う。
だって朝には何時も通り布団で目が覚め、隣ではアレクが寝ていたのだ。
少し驚いたが、初めてアレクの寝顔なんて見たから少し楽しかった。
アレクが目を覚まして視線がバチッと合った時には、心臓が破裂するのではと思うぐらいにドキッとしたが。
でもやっぱり起きたとき、隣に誰かいると安心するなと改めて思った朝だった。




