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哀しみの向こう側  作者: たい焼きと宝石
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38.海戦


ナージャの艦隊から次々とジェットナージャが荒波を駆けていく。

海は深海の悪魔の海流操作で大荒れであるにもかかわらず、ジェットナージャは見事に機能していた。


「はっ。やるじゃねえか!たいしたもんだ。」


「当たり前だ。この程度でしくじっているようでは深海の悪魔に立ち向かうなど到底できん。

それよりそろそろ来るぞ。」


深海の悪魔はジェットナージャが発進して間もなく、触手を左右に振りながら大量のイカを飛ばしてきた。


「野郎ども!投げ網準備しろ!今日は大漁だ!」


「おおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!!!」


それぞれの船で船員達は飛んできたイカを見事に網で絡めとっていく。

彼らの表情は戦闘中とは思えないほど喜々としているように見える。

中には涎を垂らしているものもいた。


「こちらにも飛んでくるな。キース殿。

私達にも投げ網を。」


「ない。」


「はっ?」


「あれは一族の技をもってして操れるものだ。貴様らに渡したところで役に立たん。

自分らでなんとかしろ。」


「キース!てめえ後で覚えてろよぉ!」


3人はキースの言葉を聞くと文句を後回しに即座に動き出す。


「ディオ!シバ!大技を出す!二人にフォローを頼みたい!」


エシャロットはそういうと誰よりも前衛に立ち技を発動した。


「セイクリッドウォール!!」


船を覆うようにして透明感のある壁が発生すると着弾したイカが弾かれて海に落ちていく。

しかしながら壁を素通りしてくるイカも少なくない。


「やはり広範囲に広げてしまうと穴ができてしまうな。」


「いや。上等出来だ。残りはこっちで何とかする。」


「エシャロットはそれに集中して。」


シバは武器を高速回転させながら素通りしたイカを弾いていく。

だがエシャロットのそれとは違い、弾かれたイカは甲板に倒されるとすぐに起き上がり襲い掛かってくる。

それでもシバは足を止めず飛んでくるイカに一太刀浴びせていくことを繰り返す。


(あいかわらず頭のいいやつだ。

今俺らが優先すべきはイカの殲滅じゃねえ。船の安全だ。

エシャロットの行動から短時間で自分のやるべきことを瞬時に実行できるとはたいしたもんだよ。

ここまでお膳立てされりゃあ、俺も負けてられねえわな。)


ディオはシバに撃ち落された後ファイティングポーズをとるイカを素早く大剣で薙ぎ払っていく。

こうして3人の長い防衛戦が幕を開けた。




ジェットナージャが深海の悪魔までの距離を縮めると、それにつれて悪魔も行動を変える。

船とジェットナージャが攻撃範囲に収まりきらないため、イカによる弾幕はそれぞれに分散された。

加えて海流操作もより苛烈になっていく。

ジェットナージャの進軍も難航を極めていた。

しかしながら厳しくなる状況下での彼らの奮闘は、見事に3兄弟の存在を隠すことに成功していた。


長男ゴズは度々変わる激しい海流をバサロで泳いでいく。

彼は3人の中で最も早く目的の地点まで辿り着こうとしていた。


(さすがは深海の悪魔。泳ぎでここまで生命力を奪われたのは吾輩初めてである。

だが今回は吾輩たちの勝利である!)


深海の悪魔の真下。目の前には開閉しながら海流を作り出す巨大な口がある。

ゴズはタイミングを見計らい口に向かって身に着けていたボール状のものを放り込む。

口に取り込まれたのを確認すると自分も囮となるべくジェットナージャ部隊合流に向かった。



3男ポワソンはクロールで海流を泳いでいく。


(さすがは深海の悪魔。頭に大量の海藻が張り付くほどの海流を生み出すとは吾輩初めてである。

しかし今回は吾輩たちの勝利である!)


ポワソンはゴズと同じくボール状のものを口に放り込むと囮となるべく戻っていった。



次男メズは立ち泳ぎで海流を泳いでいく。


(さすがは深海の悪魔。ピーーがもろ出しになるほどの海流を生み出すとは吾輩初めてである。

BUT今回は吾輩たちの勝利である!)


メズはバズーカを構えるとタイミングを見計らって口に打ち込んだ。





どのくらいの時が過ぎたのだろうか。

シバ達はいつ終わるかもわからない防衛線を続けていた。

イカによる弾幕が分散されて以降、防衛の負担は減ってはいるものの船の幾つかは鎮められている。

しかし艦隊は深海の悪魔との距離をだいぶ縮めてはいた。

ジェットナージャが深海の悪魔の反対側まで到達していることにより弾幕の分散を維持している。


「ちっ!また船が沈められた。おい!キース!まだか!」


「黙って防衛を続けろ。」


「す、すまない。もうこれ以上は持ちそうにない。」


エシャロットが膝を着くと透明の盾が消える。


(この距離なら届くか?仕方ねえ!)


ディオは背中のブーメランを深海の悪魔に向けて投げつけた。

それにより触手の数本が切り落とされた。


「これで弾幕は減るが船が持たねえぞこりゃ。」


「エシャロット大丈夫か?」


「ああ、ありがとう。シバ。技はもう使えないが皆の盾くらいにはなれよう。」


「安心して。みんなよくここまで耐えてくれたわ。」


「お嬢!それでは!」


「ええ!作戦成功よ!」


先ほどまで深海の悪魔による海流操作で荒れていた海上が徐々に緩やかになってきていた。


「こりゃどういうこった。」


「深海の悪魔の口の破壊に成功したということだ。

そしてそれはすでに毒の混入も終えていることを意味する。

海流の足かせがなければイカの弾幕など我が船の足についてこれまい。

これより全鑑深海の悪魔に追い打ちをかけるぞ!」



キースの言うように艦隊はイカの弾幕をすり抜けながらぐんぐんと悪魔との距離を詰めていく。


「すでに射程距離に入ったな。全鑑砲門を開け!

全弾打ち込んでも構わん。散々ヤツのもてなしを受けたんだ。礼をくれてやらんとな。」


各鑑から大量の砲弾が悪魔に向けて発射される。

それまでその場を動こうとしなかった悪魔が艦隊から距離を取り始めた。


「目論見通りね。毒に加えて直接攻撃を受けて深海の悪魔が撤退し始めたわ。これで、」


「いかん!お嬢!」


一本の触手がカルア目掛けて横なぎに振るわれた。

キースはカルアを突き飛ばすと替わりに触手に軽々と船の外に飛ばされた。


「キーーース!」


「おじょおお!俺のことはいい!足を止めるな!進めえええーー!」


鬼気迫る言葉を残しながらキースは暗い海の波に消えていった。


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