32.東へ
3人は進路を東に取りながら旅を続ける。
東に向かうのは、エシャロットの頼みを実行に移すためである。
エシャロットが王都アルメキアで、ディオに再会した時一つの頼みごとをしている。
それは火竜の鱗を手に入れるのに付き合ってほしいというものだった。
その時ディオは同行者のシバに聞けと言ったのだったが、今は写魔の足取りが掴めていない状況なので丁度いいという話になった。
竜はこの世界の生態系の頂点と言われれている。
非常に長寿で、高い知性と強靭な肉体を持つ彼らはまさに最強の生物であった。
その中でも環境の影響か、性質が特化した進化を遂げた者たちがいる。
火竜もそういったものの一つであった。
火竜の希少性に加え、その鱗はまさに神秘。
鱗の中に炎が宿っているように見える。
エシャロットはこの鱗で作ったペンダントを、ロザリー王女の結婚祝いにするそうだ。
自分の儚く散った恋心を、そうすることでいい思い出にしたいと彼女は言った。
だが人がこの鱗を手にできるのは、まれにかの者が狩りで落としていく幾つかでしかない。
意図的に手に入れるには、持ち主に直に譲り受けるしかないのである。
竜は人と敵対しているわけではないが、生まれ持つ能力のためか他種を見下す傾向にある。
加えて竜にそのつもりがなくとも、人にとっては害になりえる行動というものも少なからずあった。
故にエシャロットは、戦闘能力の高い同行者としてディオに白羽の矢を立てたのだった。
「お前さんのお目当ての火竜は、大陸を離れた南東の島を根城にしている。
船に乗らなきゃいけねえな。
っつうことで港町マリナードに向かう。」
「了解した。それでマリナードとはどんな町なのだ?」
「位置的には大陸の最も東にある町だな。
町の特徴としては住んでる人口は少ねえが、大量の人でいつも賑わってるぜ。」
「ん?どういうことだ?」
「そこにいる連中はみんな仕事がらみってことさ。
商人、傭兵、そんでもってそれをもてなす人間がほとんどだ。
内地の町はほとんどが国に管理されてる。
商売にしろ戦闘行為にしろだ。
だからギルドが発行してるクエストもうまみが少ねえ。
内地で満足できない奴はこういう僻地で稼ぐのさ。
このマリナードってところはそんな中でも毛色が違っててな。
この町の舞台は海だ。」
「海か。実際に目にしたことはないのだが。
大陸がなくすべてが水だったよな?」
「ああ、一応底がある場所もあるみてえだけどな。
海についてはまだまだ人が知る情報は少ない。
まさに未知の塊だ。
危険も多いがな。
だがそれだけに当たるとでけえぞ。
海から持ち出された物は、大陸の生活の土台になる物ばかりだ。
俺も一時期その町で仕事してたことがある。
いい町だぜ。
荒事も多いがそれも飯のタネになるしな。
なにより自由だ。
マリナードのことを[希望と自由の町]なんて謳ってるやつもいる。」
「いい響きじゃないか。
私は自由とは無縁だったからかな。
別にそれについて不満に思ったことはないが、いざそれに触れることができると思うとワクワクするな。」
「シバ、お前さんも楽しみにしてるといい。
旅ってのは本来楽しいもんなんだからな。」
「うん。俺もエルも皆と楽しみたいと思うよ。」
「それでいい。エシャロットもここでなら新しい恋ってやつが見つかるんじゃないか?」
「な!そ、それは本当か!絶対!絶対だな!
シバ、傷はもういいだろうか。
少し急ぎたいのだが。」
(絶対とは一言も言ってねえ。ってか目が怖えよ、お前。)




