28.共闘
目の前に広がる湖の前に一人の青年男性が立っていた。
髪は灰色、目は黒色に瞳が赤。肌の色は薄い紫、黒のマントに包まれた格好は、まるで蝙蝠が羽を閉じている時のようである。
彼の周囲には大量の魔物が集まっている。
「おい。こりゃあ、まじいぞ。
ありゃ。ヴァンパイアだ。しかも並みの奴じゃねえ。
下手すりゃ、魔神クラスだ。人間がどうこうできる存在じゃねえぞ。」
「だが貴殿は・」
「ばっか!あの時とは状況が違う!」
「お姉ちゃん!!」
エシャロットの背に隠れていたタパタが、一歩前に出て前方を驚いた表情で見ている。
タパタが動いたのがきっかけか、集団から3体の魔物が襲ってくる。
エシャロットが防ぎ、ディオが切り伏せる。
その後一行がもう一度ヴァンパイアの姿を確認すると、彼のそばに大きな水晶のようなものが置いてあった。
その中に20くらいの年の女性がいた。
「あれがお前の姉ちゃんだってのか?」
「うん、間違いないよ。」
「だが、どうする?」
「まいったな。敵さんはもうやる気満々って感じか。」
それまでじっとヴァンパイア観察していたシバが口を開く。
「彼はとりあえずは大丈夫だ。」
「なんだと!マジで言ってんのか?」
「皆落ち着いて聞いてくれ。
ここにいる者たちは皆、写魔の影響下にある。
そしてあのヴァンパイアはその中で抵抗し、それと同時に周囲の魔物を押さえつけている。
襲ってきている魔物は彼の支配を逃れた者たちだ。」
【ほう。この状況を短時間で見抜くとはなかなか大したものだ。
なれば、わかろう。それ以上足を踏み入れれば貴様たちの命はない。
我もいつまで持つかわからん。
早々に立ち去るがいい。】
「それはできない。あなたのそばにいる水晶の中の女性は彼の姉だ。
まして、この状況を生み出したのが写魔であるなら、ウルガ族として見過ごすことはできない。」
「この状況をどうにかできるというわけか?
さきほどの洞察力といい、もしや貴様は人の世界から別れた人間たちか?」
我もマリアの弟には興味がある。
だがこれは賭けだ。
貴様一人では無理であろう。
我に纏わりつく怒りを何とかして見せろ。
我もそちらに力を尽くす。
だがその間、周囲の魔物は我の手を離れるぞ。」
「ディオ、エシャロット頼みたい。」
「わかったよ。了解だ。
どのみち俺たちは写魔に関してはどうすることもできねえからな。」
「タパタは私のそばを離れるな。」
「うん!わかった!」
ヴァンパイアがマントを開き、両手を左右にそれぞれかざすと魔物が襲い掛かってくる。
ディオとエシャロットはシバとタパタを守るように行動していく。
シバは魂鎮めを続ける。
ヴァンパイアは自らに定着しかかっていた怒の感情を強引にはがそうとしている。
ヴァンパイアは写魔に次いで感情の制御に長けた種族である。
魅了などは彼らの代名詞といっていい。
このヴァンパイアは種族特性の恩恵もあって、何とか寸前で抵抗できていた。
もっとも力のないものなら関係なく取り込まれているが。
【真、写魔とは厄介な存在であるな。魔神が取り込まれるわけだ。】
(な、んだと?)
ヴァンパイアの独り言を聞いたディオに隠していた怒りがこみ上げる。
その瞬間周囲に立ち込めていた怒の感情が、ディオに流れ込んでいく。
「あああああああああああああー!」
「ディオ!どうした!」
エシャロットの声に魂鎮めに集中していたシバが異変に気付く。
(怒りが食いついてしまったのか。
怒りの魂鎮めは一人では無理だ。
いや、できたとしても戦闘力の高いディオを相手にやる暇はない。
ならば、やることは一つ。
怒りを発散させてやればいい!)
怒りに取り込まれたディオが大剣を振りかぶる。
エシャロットがディオの動きを目で追う。
≪ザシュッ!≫
振り下ろした大剣の前に血飛沫を上げながら、後ろに倒れようとしているシバがいた。
「シバーーーーーーーー!!」




