23.我が名はエシャロット=フリューゲル
王都を出た一行は、北東へと進路を取りながら近場の町や村を訪れていく。
何か変わった事がないか写魔の痕跡を調べていた。
ウルガ族の里の襲撃、ゴリさん達を復活させた写魔、そしてその写魔を追う一人の人物。
イーダの解を得るための旅であったが、他に写魔がいて、世界に害を及ぼすのならそれに対処するのはシバの使命である。
行く先々で何日か情報収集、何もなければ次の町へ、といった行動を一行は繰り返していた。
旅の途中の野営では、シバがエルと一緒に獲物を狩りに行き、エシャロットが飯の支度をする。
ディオは携帯用の酒を飲みながら、飯ができるのを待つという役割が確立していた。
初めての野営の時、ディオが飯を褒めたことがある。
<へえ、美味いじゃないか。お前さんいいお嫁さんになるんじゃないか?>
それを聞いたエシャロットはキャーキャー言いながら喜んでいた。
(たぶんそれ違うぞ。俺はあくまで飯を褒めただけだからな。)
ある時、行き先が同じだからと、道中町へ向かう一家族の馬車の護衛をした。
何度か襲撃を受けたものの無事町に辿り着く。
別れ際に年頃の娘が頬を赤らめながら、エシャロットに手紙を渡した。
<へえ~、ラブレターじゃねえか。やるなあ。
これで目的の半分は果たしたな。>
ニヤ付きながら言うディオの言葉に、エシャロットは肩を震わせた。
そして一言叫び声をあげ、泣きながら街の中へ駆けて行った。
「ディオのばかやろおおおおおー!」
その後ろ姿は、男性顔負けの洗練された見事な走りだった。
町村に滞在する場合3人は、宿を同じにした別行動をとっている。
エシャロットは情報収集をこなしながら、恋する相手を探すのが日課である。
彼女の好みは素朴な青年っといった感じらしい。
ディオは彼女の奇行に出くわしたことがある。
酒場で一人酒を飲んでいたら、彼女が現れた。
気弱そうな青年の襟元を掴みながら、真剣な表情で何かを訴えていた。
(カ、カツアゲにしか見えん。)
そんな彼女にある日衝撃の出来事が起こる。
一人で町を歩いていると、自分より少し年上であろう男性から声をかけられる。
その男性は落ち着いていて、優しそうな好青年であった。
話の内容は、今から町はずれの森に花を摘みに行くのに付き合ってほしいとのことだった。
(こ、これは噂に聞くデートのお誘いか!!)
二人は森の中に入り目的の場所へと向かう。
エシャロットは道中ずっと舞い上がっている。
たまに襲ってきた魔物をにやけた顔で吹き飛ばす。
やがて花の咲いている場所へと辿り着いた。
「あ!あれです。ありました!」
「ほう、素晴らしいきれいな花だな。
何という花なのだ?」
「アイビーンといいます。別名命の花とも呼ばれてるんです。」
(ああ、私とこの男性との恋が今から始ま)
「これで家内にこの花を見せてあげられる。」
「ヘッ?」
「ありがとう。あなたのおかげだ。」
らなかった。
エシャロットの脳内に思い描いていたものが、音を立ててひび割れていき、やがて砕け散る。
彼女が絶望の中にいることに気づかず男性は話をする。
「家内は生まれつき体が弱いんです。
最近この花を知る機会があって、家内が見てみたいって言ったんです。
よかった。見つかってよかった。」
涙ながらに話す男性を見たエシャロットは、小さなため息を一つつくと、笑顔でこう言った。
「奥方を私にも見舞わせてくれないか?」
町に着いてから男性の案内で彼の妻を見舞う。
エシャロットは男性が、妻のために一生懸命この花を探したことを彼女に伝える。
二人はアイビーンの花を笑顔で見つめている。
エシャロットは、その光景を目にできたことを嬉しく思いその場を後にする。
(二人とも。幸せにな。)
沈んでいく夕日を背に、エシャロットは一人宿に戻っていった。




