18.約束
数年が過ぎ里が滅んだ。
その後始末が終わったのは事件発生から1年後。
シバは里の者を見送り、自らも旅に出る。
妹と従者のサクヤを連れて。
彼女らには移転先の村からチャロの世話をお願いした。
チャロのいる場所に向かって歩くと、妹の具合が急に悪くなった。
「若、アヤメ様が!」
「わかっている!落ち着け!」
シバの妹であるアヤメは、一族に備わるはずの力を持たずに生まれた。
彼女は写魔とのつながりが持てない。
結界内の里の中では、魔素が外の世界に比べて薄くなっている。
アヤメは魔素に免疫がない体質と、外の世界の濃度の高い魔素の影響で拒絶反応を起こしている状態だった。
具合の悪いアヤメを背負いながら、一行はチャロのもとに辿り着く。
【チャロすまない。
この子は俺の妹のアヤメだ。前にも話しただろ。
道中体調を崩した。危険な状態だ。
効果のありそうな薬草を取ってくるから、その間看ててくれ!】
【シバの大事な妹。アヤメ。】
サクヤに水を汲んでくるように指示をし、この辺一帯に秘匿の法を使う。
(効果がどの程度あるかはわからないが、やるしかない!)
シバは薬草を取りに駆けていった。
シバとサクヤは、ほぼ同時にアヤメのもとに戻った。
そこには先ほどまでの状態がまるで嘘であったかのように、寝息をたてているアヤメがいた。
シバはアヤメの状態を診断する。
(体内に入り込んでいた魔素が、消えている。。)
危険域に達していたためか、現在のアヤメはその体に小さいながらも魔素への抵抗力を身に着けていた。
(チャロはどこだ?)
安堵と同時に不安が沸き起こる。
サクヤのそばにアヤメ付け、シバはチャロを探しに行く。
程なくして駆けているシバに長い影が襲ってきた。
シバは軽やかに宙を舞い影を躱すと、影の来たほうへ目を向ける。
チャロがいた。
シバはすぐさま魂鎮めに入り舞を行う。
魂鎮めは対写魔の技ではあるが、魔素にも効果はある。
いくつもの巨大な枝がシバを襲ってくる。
時には上から、時には地面から。
それを躱しながら魂鎮めを続けるシバ。
長らく戦闘を続けた彼は一つの答えを出す。
(もうチャロは戻せない。)
今のチャロに以前の愛くるしい姿は既にない。
大地に根を張り、体は大木のように肥大化している。
眼は真っ赤に染まり、苦しそうに雄たけびをあげている。
だがシバの目には以前同様のチャロが見えている。
笑った顔。
怒った顔。
泣いた顔。
楽し気な顔。
【約束守ってくれたんだな。】
チャロはアヤメから魔素を自分の意志で取り込んだため、魔素が体に完全に定着してしまっていた。
アヤメから離れた場所にいたのはアヤメを傷つけないため。
【今度は俺が約束を果たす番だな。】
刀を構え、シバはチャロに向かって駆けていった。
最後の斬撃が異形に通る。
刀が折れるとほぼ同時に、異形の大木がその形を崩していく。
その中から解放された魔素が大気中に戻っていく。
最後にひときわ大きな光が上に上がっていく。
【チャロ。シバとの約束守れた。やっと役に立てた。よかった。
シバ。チャロとの約束守ってくれた。よかった。
シバとチャロともだち。】
シバは光にチャロの笑顔を見た。
それに答えるように笑顔を向けた彼の頬には、とめどなく涙が流れていた。
光が消えると雨が降り出した。
シバの涙を隠すように。
二人の元に戻ったシバはアヤメが目を覚ました後、二人を町へと送り出す。
残ったシバはチャロがいた場所に折れた刀を地面にさす。
脇にチャロの体より人回り小さいぐらいの木を置いて、シバはその場をあとにした。
「それはチャロの核だ。
そして二人に見えているものはチャロの想い。
普通はここまではっきりとは感じ取れないけど。
時に感情は物に、人に宿ることがある。
それがメルダが感じてきたものだ。」
「つらい話をさせちまったね。」
「そんなことはない。
チャロがいたことを誰かに話せたのは嬉しいことだ。
メルダ。あなたのおかげで彼女の想いが形になった。
俺はこれからチャロと旅ができる。そう思っている。」
そういったシバの顔は誰が見ても笑顔だった。
号泣しながら書きました。伝わってるといいなあ。




