13.ディオの酒と女騎士
ディオは以前よく使っていた酒場で一人飲んでいた。
王都の中心ではなく外れに佇むこの小さな店は、客が少なく静かで落ちついて飲めるからだ。
(メルダに依頼があったとはいえ、この街に来たのはやはり失敗だったか。)
この王都は自分を知る人間が多すぎる。
街を歩けばみな自分を見ると昔の名前を口に出す。
過去は変えられない。自分からその名を名乗らないのが彼のできる唯一の抵抗だった。
(事実を知ってなおアイツは俺をディオと呼び続ける。
これは俺とアイツの二人の旅だ。
適当につけた名前だったが、悪くねえか。ああ、悪くねえ。)
口の端を僅かに上げるとディオは杯を煽る。
「傭兵王ディスト殿とお見受けするがいかがか?」
「おりゃ王様なんぞなったことねえし、ディオって名乗ってるんだがな。」
そう言いながら顔を上げたディオは観念した。
「やはりそうではないか!
貴殿も人が悪い。久しいな。
壮健であったか?ん?少し痩せたか?」
ディオの席の前には直立不動の女性の騎士が立っている。
ブロンドの髪を一つに束ねた20代前半の彼女は、白銀の鎧を身に纏い同じく白銀の剣を腰に収めている。
装備はどちらも模様が描かれており、性能は勿論のこと芸術的価値も高そうである。
ディオは彼女を席につかせ店員にグラスを持ってこさせる。
「飲むだろ?」
「頂こう!」
「へえ、すんなりとは意外だな。あの御堅い団長様がな~。」
「それを言われると耳が痛いな。
務めとはいえ、貴殿にはいろいろ無礼を働いたと反省している。
貴殿はどうしていたのだ?
貴殿が姿を消して以降わが国だけではない。
他の国々でもちょっとした騒ぎになったんだぞ。」
「まあ、いろいろだ。」
「昨日神官任命の儀で監査役の神官が貴殿を見たという情報を掴んでな。
心当たりをあたっていたところここで会えたというわけだ。」
「なるほどな。で、なんか俺に用あんのか?」
「できれば王宮に来て陛下に顔を見せてあげてほしい。
王妃様も姫様も貴殿に会いたがっている。」
ディオはこの国の中心人物たちを思い浮かべて顔を顰める。
「フッ。そんな顔するな。
それにこれは頼みであって、命令ではない。
それと私が個人的に貴殿に頼みがあるんだが聞いてもらえないだろうか。」
「聞かなきゃわからん。とりあえず話は聞いてやる。」
「今この国には大きな動きがある。
まだ公にはしてないし、準備をしている最中だ。
それは王政の撤廃、民による法治国家の樹立だ。」
「はあ?」
「無論これはすぐにできることではない。
何年後かもっと先になるかわからないが。
きっかけは姫様の結婚話だった。」
<ロザリーお前ももう結婚考えなきゃいかんな。どうしたい?>
<パパ、私テルミオと結婚したい。>
<だれだっけ?それ。>
<あなた、確かエシャロットの幼馴染でロザリーと3人で仲良かった子ですよ。>
<ああ、アイツね。>
<お、お待ちください。
テルミオは私と同じく平民の出。
姫様との結婚はその。。>
<テルミオも同じこと言ってたわ。
何とかならない?パパ。>
<何とかも何もすりゃいいじゃねーか、結婚。
俺がいいっつってんだから。
ついでに王政もやめちまうか。なんか飽きちゃった。
これにて一件落着ってな。ダーハッハッハッハハッハ!>
ディオの顔は酷く歪んでいる。
(シバに会うまでは異常な筆頭は間違いなくこの王だ。
頭がおかしい。
なんだこの連中の会話。
王族要素がまるでねえ。)
目の前では顔を下に向け肩を震わせている団長がいる。
気持ちはわかる。
頭のおかしい連中に好き放題やられりゃそうなる、そう思って見ていたのだが
「私は失恋した。」
「は?」
「テルミオには私も想いを寄せていたんだ!」
「お、おいちょっとま」
「だが二人は既に想いを通わせている!
私はテルミオへの想いに蓋をし二人を祝福しようと思っている。
そして決めた!
騎士の職を辞して新たな恋を見つけることを!」
(お前さんもそっちにいっちゃったんだな。)
右手に拳を握り新たな決意を口にした彼女を見ながら、ディオは哀しそうに杯を煽った。




