王を超えし者
坂田仁が共鳴者になったのは、二ヶ月と少し前のことだった。
彼は横浜から島へとやって来た。荷物は鞄一つだけだった。
彼の登録は他の共鳴者と同じだったが、神との適合は唯一無二だった。
オーディンが彼を個人的に選んだのだ。
「仁よ、我が誰か分かるか?」
仁はオーディンの姿を前に呆然としていた。その威容はあまりに圧倒的で、顔を見ることすら叶わなかった。
「は、はい、オーディン様。私を共鳴者に選んでいただき、光栄の極みです」
仁はオーディンに礼をした。
「立て、仁よ。王は誰の前にも跪かぬものだ」
「……王?」
坂田は立ち上がった。オーディンが振り返って彼を見たが、仁は直接その顔を見ることができなかった。
「お前には真の王となる潜在能力がある。だからこそ、我が自ら選んだのだ」
オーディンは自らの髪を一筋引き抜いた。そしてフーギンの羽根を一枚、ムーニンの羽根を一枚取った。
これらの羽根が、坂田仁の神具へと変わった。
「我はお前に栄光を託す、仁よ。我を失望させるな。王にふさわしいことを証明せよ」
「はい、オーディン様」
これが、坂田仁とオーディンの最初の出会いだった。
◇
この光景が、坂田仁がムーニンでジークを斬った瞬間、彼の脳裏に投影されていた。
「全父の犠牲」
は、恐ろしいほどの精密さで実行された。
一撃は二重だった。物理的な断裂と、精神的な崩壊が同時に起こる。
ジークは、起爆の重みの下で中枢神経が崩壊するのを感じた。
彼は膝をつき、戦戟の柄にしがみついた。それが存在への唯一の錨であるかのように。
口から血が溢れ出し、目に見えない二重斬撃の圧力の下で衣服が裂け飛んだ。
リンボで、タラニスは絶望のあまり両手で目を覆った。
その兆候は、完全で不可逆的な敗北を意味していた。
坂田は疲労困憊し、息を切らしながら、自らの神刀が光の柱となって融合し、手の中に全父――究極の儀礼用刀――が残るのを見た。
腹部の斬撃は、止まらない出血を引き起こしていた。
彼はゆっくりと立ち上がり、よろめきながら瀕死のジークへと歩み寄った。
「お前は、俺を限界まで追い込んだ唯一の男だ、ジーク」
ジンは血に染まった勝利の笑みを浮かべて言った。
「王の前に倒れる名誉を与えてやろう」
ジンは儀礼用の刀を振り上げ、最後の執行をしようとした。
ジークは意識が黒い深淵へと消えゆく中、必死に己の武器の本質を呼びかけた。
(張……剣が欲しい……戦戟は重すぎるんや……意識が……飛びそうや……)
『ならば。』
張は古の静けさで答えた。
『その真の名を呼べ。原点へ戻れ。』
(原点? なら、それは……)
坂田は、ジークの命を消し去るための慈悲の一撃を振り下ろした。
「――さらばだ」
王はそう宣告した。
「メ……レニス……」
ジークは囁いた。
現実のスクリーンが、永遠にも感じられる一瞬、黒く染まった。
乾いた金属的な斬撃音が、スタジアムの静寂を引き裂いた。
リンボで、タラニスは両手で口を覆い、震えていた。
「お、終わったのか……?」
焦点がアリーナへと戻る。
坂田は祝っていなかった。
彼の顔には、絶対的で無限の不信感が刻まれていた。
彼の儀礼用刀は、ジークの頭からわずか数センチのところで止まっていた。
しかし、メレニス――元の錆びた剣――が、ありえない反撃で王の胴体を完全に貫いていた。
「王は……一人だけでええねん……忘れたんか……?」
ジークは最後の力を振り絞ってそう言い、目を白くさせて前に倒れた。
風が観客席を駆け抜ける音が聞こえるほどの、深い静寂が数秒間続いた後――
「――両者、倒れました!」
アナウンサーが叫んだ。その声は狂気の悲鳴と化して裏返っていた。
「先に立ち上がった者が勝者です!」
二人にとって、一秒一秒が永遠に感じられた。
坂田仁は砂に手をつき、重力と出血に抗いながら、神の権利によって己のものと信じる王座を取り戻そうとした。
ジークも背中を起こそうとした。しかし、筋肉は脳の命令に応えなかった。
絶望的な一瞬、二人とも半ば立ち上がっていた。スタジアムの光の下、二つの壊れた影。
そして、王は倒れた。
坂田仁は前方に重く倒れ込み、完全に意識を失った。
【――勝者、六田ジーク!】
スタジアムの轟音は耳を聾するほどだった。
ジークは疲労の霞を通してその発表を聞き、純粋な満足の笑みを最後に唇に刻んで、意識の闇へと沈んでいった。
【六田ジーク、7分51秒で坂田仁を破る】
トーナメント最長試合。
第173闘技場は、前例のない興奮に包まれた。
三つの観客席から、豪雨のように降り注ぐ拍手。
その少数の観客たちは、小倉州の質素な施設で、エリートにふさわしい戦いを目撃したのだった。
この出来事は、観客の記憶に刻まれるだろう。トーナメントの低い格付けのため、生中継はなかったのだから。
琴とウルライス――すでに山と共に観客席にいた――はアリーナに飛び降り、ジークを医務室へ運んだ。
山は、自分の対戦相手が想像していたような怪物ではなく、限界に挑む戦士だったのを見て、自らの傷を顧みず坂田仁を運ぶ役を買って出た。
こうして、小倉州のトーナメントは幕を閉じた。
◇
第173闘技場を麻痺させ、二人の勇敢な挑戦者の共鳴でアリーナの基礎を震わせたあの心臓が止まるような決勝戦の後、ジークの世界は病院の真っ白な闇へと消え去った。
その崩壊は物理的なものだけではなかった。一人の女神と一人の戦士の意志を、死すべき肉体で支えた代償――彼の中枢神経が支払った代償だった。
十六時間後、ジークはついに目を覚ました。
◇
■ 2022年8月8日
彼は小倉総合病院の一室にいた。
消毒液の匂いと、機械の規則正しい電子音が、最初の迎えだった。
彼は苦労して目を開けた。最初に見えたのは、傍らに座り、愛用のノートを片手に完全な集中で見つめる琴の姿だった。
「……琴?」
「ジークさん! やっと目が覚めたんですね!」
「どう……トーナメントはどうなったんや、琴?」
ジークの声は、乾いた掠れた囁きとして出てきた。
「お前は負けたっす。俺が勝利を収めることになったっす」
隣のベッドから、聞き覚えのある、弱々しい傲慢さを帯びた声が響いた。
ジークはゆっくりと首を巡らせた。動かすたびに全身の筋肉が痛んだ。
そこには坂田仁がいた。王は、現代のミイラと化し、足先から頭のてっぺんまで包帯に巻かれていた。
ジークの心臓は胃の底まで沈んだ。
あの戦い、あの痛み、そして張の変換……すべて無駄だったのか?
ジークはため息をつき、苦い諦念と共に目を閉じた。
「まあ……おめでとう、坂田。どうやらタラニスとの賭けに負けたみたいやな。スコットランドに帰って共鳴を諦めなあかん……でもまず飛行機代が必要や。しばらくはここで何でもして働くわ。馬小屋の掃除でも、荷物運びでも」
琴はノートから顔を上げ、坂田を見た。
ほとんど気づかれないほどの合図を送った。非難と圧力の入り混じったものだった。
王は、包帯に覆われていない唯一の顔の部分をしかめながら、苛立ちのため息をついた。
「冗談っすよ、バカ。お前の勝ちっす」
ジンは窓の方へ視線をそらしながら唸った。
「どうやら俺がお前より一秒早く意識を失ったらしいっす。まあ……俺にとっては引き分けみたいなもんっすけどね。運命がただコインを投げて、お前の側に落ちただけっす」
琴は再び坂田に視線で圧力をかけた。まるで、いたずらの後に子供に謝罪を強要するかのように。
「ああ、そうだ……さっきの態度はすまなかったっす、ジーク。王としてあるまじき行為だったっす」
ジンは渋々付け加えた。
(まだそんなこと言うとるんか……)
ジークは思った。
「ただ知っておいてほしいのは……金の刀のあの子を本当に殺すつもりはなかったということっす。ただ、勝利を確実にするために、死ぬほど怖がらせたかっただけっす。――王は恐れられなければならん。だが……どうやらやり過ぎたようだ」
ジークは乾いた笑いを漏らしたが、それは痛みのしかめ面に変わった。
「まだ王とか言っとるんか? よく聞け、アホ。本物の王は自分でそんな名乗り方せえへん。恐怖だけでなく、敬意によってその称号を勝ち取るもんや。そろそろ雲の上から降りる時やで」
坂田はジークの言葉に怒ったが、戦う気力はなかった。
「黙れ、バカ、もう少し寝るっす」
彼はそう呟き、白いシーツを眉の上まで被せた。
「せめて正直者やな」
ジークはそう認め、安堵の小さな笑みを浮かべた。
そして友人に向き直った。
「琴、トーナメントの賞金はどうなったんや? 借金を返さなあかんし、それに……服はシュレッダーにかけられたみたいや」
「意識を失っていたから、司会の女性が私に渡してきました」
琴は眼鏡を直しながら説明した。
「ずっとあなたと一緒にいたから、私が代理人か何かだと思われたみたいです」
「いくらやったんや?」
「ええと……五万円です」
続いた沈黙は墓場のようだった。点滴の滴る音だけがそれを破った。
「五万円?」
ジークは信じられずに繰り返した。声が一オクターブ上がる。
「この病室の代金を払うだけで、あと百回はトーナメントに出なあかんやないか! ぼったくりや!」
「それなら心配いりません」
琴はプロフェッショナルな冷静さで彼を安心させた。
「共鳴委員会が、参加者の医療費の九割を負担しますから」
「ほんまか、琴? じゃあ、いくら払えばええんや?」
「薬代、包帯代、食事代を合わせて……ちょうど四万九千九百九十九円です」
ジークは天井を見つめ、その皮肉を処理した。
彼の賞金は、医療制度によって記録的な速さで食い尽くされ、手元に残ったのはわずか一円だった。
「でも、良い知らせがあります」
琴は、栄光の音を鳴らす布袋を取り出しながら付け加えた。
「有志寄付という制度があります」
「有志寄付?」
「はい! 観客が、最も心を打たれた共鳴者にお金を寄付するんです。ジンはもう自分の分を受け取りました。そして、これ……これはあなたの分です」
「いくら入っとるんや?」
「四十五万二十五円です。ちなみに、二十五円は、観客席で寝ていたホームレスの春田さんがくれました。あなたの粘り強さが、彼の若い頃を思い出させたそうです」
「ほんまか!? やった!」
ジークは感激のあまりベッドから飛び起きようとしたが、腹部の激しい痙攣が彼を悲鳴と共にマットレスに戻した。
「落ち着いてください、チャンピオン。まだ十六時間しか入院していないんですよ。筋肉繊維がまだ悲鳴を上げています」
ジークは厳かな仕草で、琴に布袋を差し出した。
「これ、受け取ってくれ。服と出費の借りや。本当にありがとう。お前の助けがなければ、一戦目も勝てへんかったわ」
「今はそんなこと気にしないでください」
琴は手を振ってお金を拒否しながら微笑んだ。
「このトーナメントの取材記事で、私のコラムは飛ぶように売れますから。生中継がなかったから、アリーナで何が起きたかの詳細を知っているのは私だけの記者なんです。あなたの活躍のおかげで、私のキャリアは飛躍しますよ」
数時間後、看護師が二人に退院を告げた。
琴は、ジークがトーナメント前に着ていた服――古びた冬の装い――を丁寧に取っておいてくれた。二人は出発の準備をした。
病室を出ようとした時、隣のベッドから坂田の規則正しい鼾が聞こえた。
◇
【第6話おまけ:坂田仁の場合】
ジークは後に知ることになる。坂田が「もう少し寝る」と言って、深く眠り込んでしまったことを。
病院は、延長された個室の料金を高級ホテル並みの価格で請求し、彼の有志寄付はすべて事務手数料で消え去った。
噂によれば、王は泣きながら病院を後にし、小倉の官僚制度を呪ったという。




