六田ジーク vs 坂田仁
決戦が始まる前、ソマーズ琴は観客席で録画しながら、ジークを応援していた。
しかし、琴は坂田仁のことを思い出した。
「確か、一ヶ月ほど前だったか……彼の戦いを見たことがある。また会うかもしれないと思って、報告書を書いておいたけど……まさかここで会うとは……。くそっ」
琴は自分の報告書に書いた内容を思い出した。
坂田仁は、予想されるような普通の新人ではない。
彼はオーディンに個人的に選ばれ、「全父の犠牲」と呼ばれる神具を授かっている。それはフーギンとムーニンという二振りの神刀で、その起源を象徴する和の美学のもとに鍛えられた。
彼の戦闘スタイルは、三幕からなる死刑宣告だった。
第一に、フーギン――青い刀は、目に見えない斬撃によって刻印を刻む。物理的な傷は生じない。
第二に、ムーニン――赤い刀は、斬ることによってその刻印を起爆させ、与えたダメージを増幅させる。
そして最後に、二振りの刀は一振りに実体化する。全父――勝利を象徴する儀礼用の黒い刀。
坂田は、第二の刻印を生き延びることができない者を、徹底的に軽蔑していた。
その戦闘スタイルは、方法論的でありながら致命的で、並の共鳴者とは一線を画す格の高さだった。
「くそっ、ジークさんに刻印のことを警告しないと……」
突然、スタジアムは異様な速さで埋まり始めた。
オーディンの共鳴者が決勝戦を戦っているという噂は、小倉市の中心部に火薬のように広がっていた。
最初は完全に空だった観客席は、今や何百人もの観客で沸き返っていた。彼らは、王が新たなトロフィーを手にする瞬間を見たがっていた。
◇
ジークは、足元の地面が傾いていくのを感じていた。
ジョーダン・スミスの凶暴なフックによる蓄積されたダメージが、ついに代償を求め始めていた。
持続する吐き気。視界の端が霞む。フェイントのたびにバランスが崩れる。
坂田は、捕食者の鋭さで、それにすぐに気づいた。
「――始め!」
審判が宣言した。
坂田は外科医のような精密さでジークを測り始めた。二振りの刀が銀の弧を描き、脅威的な音を立てて空気を切り裂く。
坂田仁は二刀を顔の前で交差させ、恐ろしい速度で踏み込んだ。
完璧な技術で繰り出された袈裟斬りを、ジークは明らかな苦労と共に防いだ。衝撃が腕から肩まで駆け抜けるのを感じながら。
その衝突を利用して、ジークは素早い反撃を試みた。ジンの右手を狙い、それが彼の利き手で制御点だと推測した。
「無駄だ」
坂田は手首の優雅で流れるような回転で突きをそらしながら言い放った。
「俺は両利きだ。お前はただの素人が神に届こうとしているだけだ。俺に触れることすらできん」
ジークは怒りで歯を食いしばった。冷や汗がうなじを伝うのを感じる。その言葉は確かに彼を蝕んでいた。
圧倒的な戦術的不利だった。
錆びた一振りの剣の限られた間合い 対 二振りの神刀の致命的な汎用性。
彼は必死にスミスとの戦いを思い出し、王の構えに隙を見出そうとした。しかし坂田は隙を見せなかった。
ジンの動きは一つ一つがリズミカルで、終わりのない鋼の舞踏のようだった。
「お前の勝利に何の道理もないと気づかんか?」
二人が間合いを取るために同時に後ろへ跳んだ時、坂田が言った。
「降参しろ。今、自分の立場を受け入れた方が、お前の精神衛生のためだ」
「降参?」
ジークはアリーナに血を吐き出し、冷徹な視線を相手に固定した。
「お前みたいな信念持っとる奴の前で、倒れるわけにはいかんのや」
「信念? お前は俺を何も知らん!」
坂田の声が上がり、一瞬だけ冷静さを失った。
「この世界の重みを理解する唯一の方法は、お前を真っ二つに斬ることだ。――覚悟しろ!」
ジークは不利な状況から防御に徹していた。
ジンは攻め続けたが、どれも有効ではなかった。
武器の衝突が二人を数センチの距離で対峙させた。
「お前の女々しい友達が、お前より楽に済むことを知って喜ぶがいい、ジーク!」
これはジークの誇りを打ち砕いた。
彼は防御の構えを捨て、全力で攻撃を始めた。
ジンはその重い斬撃をかわした。遅いが、威力は絶大だった。
「山の悪口を言うのは許さん!」
ジークは斬り上げを放ったが、坂田はぎりぎりでかわした。彼の髪の一部と、王冠が宙を舞った。
その容貌と王冠は、坂田にとって最も大切なものだった。
傷ついた二つのエゴが、次元の異なる決勝戦で激突していた。
ジークはもう一撃、今度は袈裟斬りを放ったが、それは小倉の王の二刀によって防がれた。
ジンはその一撃の重みを利用し、ジークを地面に叩きつけた。
ジークは無防備で、開いた姿勢を取っていた。
小倉の王はそのミスを見逃さなかった。そして――
ザシュッ!
フーギンが、ジークの腹部から胸部にかけて完璧な斜線を描いた。
傷から血は噴き出さなかった。服も無傷のまま。しかしジークは、霊安室のような冷気が中枢神経を駆け巡るのを感じた。
刻印は刻まれた。彼の意識は今、オーディンの審判に鎖で繋がれた。
琴は第一の刻印が完了するのを見ていた。
「ジークさん! 赤い刀で斬らせないで!」
彼女は全力で叫んだが、その声は観客の喧騒の中に消えた。
坂田の表情が一変した。
慈悲は消え去り、代わりに血に飢えた狂喜が彼の顔を歪ませた。
彼は完全なる勝利まであと一歩だった。
ムーニンを掲げた。その刃は深紅のエネルギーで震え、とどめの一撃を待っていた。
差し迫った死の瞬間、ジークにとって時間が止まったかのようだった。
メレニスの殺意の声とは異なる、ある声が、鮮明で力強い響きと共に彼の精神に反響した。
『若き戦士よ……吾が名を唱えよ……』
ジークはリンボでのタラニスの言葉を思い出した。
「禁断の声でない声を聞いたなら、交渉して唱える許可をやろう」
『若き戦士よ……吾が名は張。唱えよ。変換と張。この狂乱を生き延びる唯一の機会であろう……』
坂田はすでに彼の上にいた。
ムーニンの鋼が容赦なく降り注ぎ、刻印を起爆させ、ジークの意識を永遠に消し去ろうとしていた。
最後のミリ秒、ジークは肺に空気を満たし、スタジアムの基礎そのものを揺るがすかのような力で叫んだ。
「――変換:張!」
ドン!
白い煙と純粋なエネルギーの轟音が二人の戦士を包み込み、観客の視界から彼らの存在を消し去った。
爆風は強烈で、前列の観客を後ろへ吹き飛ばした。
スタジアムは、煙が苦痛に満ちた緩慢さで晴れていく間、墓場のような静寂に包まれた。
◇
リンボで、古びたテレビの前で、タラニスはゆっくりと立ち上がった。
何世紀もの時を経て初めて、本物の、野生の勝利の笑みが彼女の顔を照らした。
「ついに……」
女神は囁いた。その目は新たな輝きを放っていた。
「お前の真の姿を見せてやれ、小僧」
◇
煙は苦痛に満ちた緩慢さで晴れていき、あらゆる物理的・形而上学的論理に挑戦するシルエットが現れた。
ジークは、トーナメントを始めた時の錆びた剣を握ってはいなかった。
代わりに、彼は神聖な圧力の下で震える堂々たる戦戟で、ムーニンの致命的な降下を防いでいた。
金属は軋んだが、ジークは一ミリたりとも後退しなかった。
新しい武器の柄に体重を預け、彼は立ち上がった。純粋なアドレナリンの奔流が視界を晴らし、慢性的な疲労を、目に燃える獰猛な野心に置き換えていた。
坂田は、自分のとどめの一撃が阻まれたことに苛立つどころか、スタジアム中に響き渡る真の歓喜の笑い声を上げた。
それは傲慢な嘲笑ではなかった。何世紀もの退屈の末に、ついに己の格に合う獲物を見つけた捕食者の叫びだった。
「ははは! これだ!」
ジンは狂気の輝きを宿した瞳で叫んだ。
「まさに俺が求めていたものだ! ジーク、お前は王の前に倒れる名誉を得る! 俺たちの限界を超えようぞ!」
ジークは答えなかった。
静寂が、彼の新たな鎧となった。
彼の精神の中で、歩兵はついに敵陣に到達し、と金へと成り上がっていた。
戦戟は戦場を完璧に均衡させた。二振りの刀に対抗する長い間合い、そして地面を震わせるほどの衝撃力。
彼は再び張の声を呼びかけようとしたが、返ってきたのは沈黙だけだった。
構わなかった。
相手の首筋に狙いを定め、彼は新たな力で突進した。
戦戟は鋼と風の旋風と化した。
坂田はこのトーナメントで初めて後退を余儀なくされた。二刀の構えが、ジークが柄で生み出す優位なてこの原理の前に崩れ始めていた。
ミリ単位の隙を突き、張の穂先がジンの防御を貫き、その腹部に突き刺さった。
深い傷ではなかったが、王の威厳を揺るがすには十分だった。
『――お前は王だ……最強の……我を失望させるな。』
オーディンの言葉が、炎の鞭のように坂田の精神に響いた。
彼は瞬時に冷静さを取り戻した。
ムーニンの深紅のオーラが、目を焼くような強烈さで爆発し、観客は思わず目を覆った。
「――ムーニン、斬れェェェ!」
王が轟いた。
スタジアムは神聖な輝きに包まれた。
坂田はフーギンの刻印を起爆させるための最終撃を放ったが、その軌道は突然中断された。
視界が戻った時、彼は恐ろしい光景を目にした。ジークが戦戟の湾曲した首で、ムーニンの刃を引っ掛けていたのだ。
農場で鍛え上げた肩による残忍な一撃で、ジークは王から武器を奪い、赤い刀をアリーナの円の果てへと宙に舞わせた。
坂田は無防備になった。彼の指が虚空を掴んだ。
『全父の犠牲』を完成させるには、あの刀が必要だった。
必死で、彼は不規則な動きを始め、相手を欺くために完全な身体的弱さを装った。
「王だと? 自分が王だと思っとるんか?」
ジークは轟いた。決定的な水平斬りを放つために戦戟を掲げながら。
「王ってうるさいんじゃ! お前はただの下僕やろ! 本物の王やってんなら――俺を倒してみろや!」
しかし、それは見事な罠だった。
坂田は戦戟の破壊的な薙ぎ払いの下をくぐり、アリーナを転がり、間一髪でムーニンの柄を握りしめた。
ジークは体勢を崩していた。右から左への一撃に全力を注ぎ、右の脇腹を完全に露出させていた。
「――ムーニン、斬れ!」




