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RE/SONANCE  作者: ねずおあきとし
別離と心境編
16/26

ミルトンホテル ~落ちぶれた王との再会~

 受付の従業員は、満面の笑みを浮かべながら、片手をわずかに上げていた。目には届かない笑顔だ。まるで、来ない合図を待っているかのようだった。


 俺はその場で固まった。田舎の世界と厳しい訓練しか知らない俺にとって、都会の作法は未知の領域だった。男の手と顔を交互に見ながら尋ねた。


「えっと……何か?」


「ああ、どうやらこちらは初めてのようですね」


 従業員は口調を柔らかくしたが、手は下ろさなかった。


「この島では、サービス業の者にチップを渡すのが礼儀なんですよ。誰かが待っているように見えたら、たいていはそのためです」


 ジークの顔は提灯のように赤くなった。


「ほ、ほんますか? すんません!」


 彼は叫び、不器用にポケットを探った。


「はい、ありがとうございます」


 彼は千円札を二枚差し出し、恥ずかしさのあまり、ロビーへと飛び出した。


 受付係はゆっくりと手を下ろし、その二枚の紙幣を信じられないといった表情で見つめた。


(二千円……)


 男は眉をひそめて思った。


(一体どこでそんなに少ないチップを渡すんだ? せめて五千円は包んでほしかったところだ。)


 その批判には気づかず、ジークはメインの廊下の真ん中で立ち止まり、驚嘆していた。


 左手には、リラックスできる蒸気を放つ空調完備のプール。右手には、銀のトレイに珍味を載せた従業員たちが行き交っていた。


 彼は、何十人もの共鳴者(きょうめいしゃ)が限界まで訓練しているエネルギーで空気が震える、広大なジムの前を通り過ぎた。


 ジークはエレベーターで直接部屋に行くこともできたが……


 ホールの端には、一群の人々がいた。それぞれ無関係な人々だった。


 電話で話す者、会話する者、そして何人かは何かを辛抱強く待っていた。


 彼らはエレベーターを待っていた。最高品質のエレベーターが四基あった。


 四基が同時に開き、客と従業員が一斉に出入りした。


 ジークは人の多さに圧倒され、一歩脇に寄った。人の波に押しつぶされるかもしれないと思ったのだ。


 ジークはエレベーターというものを知らなかった。しかし、かごの内部を観察し、使わないことに決めた。


「閉所恐怖症みたいなもんがあってな……階段で上がった方がええわ……」


 16階に着くと、彼は通路を歩いた。扉、トレイ、人々が並んでいた。


「受付の奴が言ってた部屋はどれや?」


 彼の目の前に、貴重な木製の両開きの扉があり、金色のプレートにはこう刻まれていた。


『ベントハウス』


 カードをスリットに通すと、錠が開き、中に入ると、ジークは別次元に足を踏み入れたような感覚を覚えた。


 それは部屋ではなかった。高みに浮かぶ邸宅だった。


 彼はスーツケースを居間の革張りのソファに落とし、子供のように主寝室へと走った。


 彼はキングサイズのベッドを詳細に観察した。その柔らかさは彼を吸い込むようだった。


 彼の前には、85インチのテレビが壁を占領し、世界で最も格式高いホテルにふさわしい装飾と贅沢に囲まれていた。


 ジークはマットレスに身を沈め、一瞬目を閉じた。


 ベントハウスの静寂は絶対的だった。グループの絶え間ない喧騒とは対照的な静けさだった。


 しかし、休息は短かった。胃が鳴り始めたからだ。


「まずは飯を頼むわ。腹が減って死にそうや……」


 ジークは広々としたマットレスから起き上がりながら、独り言ちた。


 ホテルの電話を取ろうとした途中で、彼はぴたりと止まった。


 景色が彼を捕らえた。


 ベントハウスのバルコニーに出ると、彼は足元に広がる街を眺めた。建物と灯りは、太平洋の島へ彼を運んだ飛行機が離陸した時に自分の土地を眺めた時と同じ大きさに見えた。


「綺麗で、そして怖い……」


 彼は冷たい風が顔に当たるのを感じながら囁いた。


「世界はなんて広くて、人間はなんて小さいんやろうな」


 その広大さと新鮮な空気にぼんやりしていると、胃が猛々しい轟音を上げ、彼を現実に引き戻した。


「そうや、飯を頼む時間や!」


 ジークは室内に戻り、受付に連絡した。


「こんにちは、ルームサービスです。本日は何をご希望ですか?」


 電話の向こうでプロフェッショナルな声が答えた。


「飯」


 ジークは単刀直入に言い放った。


「承知いたしました。何をお召し上がりになりますか? 何でもございます」


 ジークは笑みを浮かべ、その目に悪戯な輝きが灯った。


「おっちゃん、メモするもんあるか?」


「え……はい、あります。ご要望を承ります……」


 受付係はその口調に少し戸惑いながら答えた。


 ジークは長く息を吸い込み、注文を列挙し始めた。


 受付係は最初こそプロフェッショナルな冷静さを保っていたが、次第に信じられない様子になり、こう書き留めた。


・マルゲリータビザ 2枚

・餃子 5個(異なる具)

・豚骨ラーメン 1杯

・唐揚げ 10個

・ステーキ 1枚

・フィッシュアンドチップス 2皿

・焼きトウモロコシ 2本

・肉まん 3個

・ケーキ 3切れ(異なる味)

・マカロン 2個

・りんご飴 1本

・綿菓子 2個

・ゼリー 6個(異なる味)


 そして最後に、


・チョコプリン 1個。


「お、お飲み物は?」


 男はすでに怯えながらどもった。


「水、頼むわ」


「本気ですか?」


 受付係は一瞬だけ冷静さを失い、すぐに取り戻した。


「とにかく、ご注文は全て承りました。二時間でご用意いたします。従業員がお料理をお持ちしてドアをノックしますので、お待ちください」


「完璧や」


 ジークは電話を切り、居間の豪華なソファに身を投げ出した。


「二時間? その間、何をしよう?」


 胃がまだ抗議を続ける中、彼の思考は心境(しんきょう)へと向かった。


「そうや、その間はリラックスしよう。食事が終わったら、訓練を始められる。まずは、父さんに電話や」


 彼は番号を押し、待った。


 電話は何度か鳴り、眠そうな声が出た。


「もしもし、ジーク? こんな早くに電話してくるなんて、奇跡やな……」


 向こうで欠伸が聞こえた。


「親父? そっちは何時や?」


「うーん、朝の八時くらいやな。今日は寝坊してもうた……。で、どうや、元気にしとるか?」


「別に普通やわ。唯一変なのは、いつもよりエネルギーがある気がすることやな。農場の寒さがなくなってから、だいぶ回復したわ」


「そんで……寂しくないんか? 俺がおらんようになって」


「とんでもない! 元気にしとる、心配するな」


 弘司は力強く答えた。


「それに、もうそんなに落ち込む必要もないやろ。大人なんやから……」


「ああ、そうやな」


「で、キャリアの方はどうなんや? 優勝した後、また試合に出たんか?」


「まだや。残響(ざんきょう)がまだ普通に動くのを邪魔しとる」


「ほんまか? 最初のトーナメントでそんなに酷い目に?」


「見とったら分かるわ……。でもまあ、女神と話した後、力を取り戻すための計画は心境を鍛えることや」


「女神? ボレアス様と契約したんやないのか?」


「へへ、違うんや……」


 ジークは後頭部を掻いた。


「別のことが起きてな。タラニスっていう女神と共鳴することになったんや」


「それで俺の呼びかけに応えへんのか、あの無責任な奴め」


 弘司は唸った。


「今から叱りに行ったるわ」


「叱らんでええ、親父。大丈夫や。期待しとったのとは違うけど、悪い方向には行っとらん。いい関係を築くのに時間がかかったけど、少しずつ築きとる」


「おお、それは良かった。俺が初めてポレアス様と共鳴した時なんて、俺の顔も見たくなかったんや。虫けらだ、潰されるべきだって言われてな。俺の実力を見せてから、ようやく心を開いてくれて、最後には仲良くなったもんや」


「なるほど。俺もそうなったらええな」


「で、心境の話が出たけど、もう始めたんか?」


「いや、まだや。少しリラックスしてから、深い集中に入ろうと思っとる」


「知っとるか? 俺が初めてポレアス様を呼んだんも、心境のおかげやったんや。神との親和性が高ければ高いほど、心境は強くなる。そういうことができるようになるし、新しいスキルも学べるんや」


「ほんまか?」


 ジークは興味をそそられて尋ねた。


「でもな、最初から始めろ。絶対的な静けさを感じさせる何かを思い浮かべるんや。俺の場合は、練習しとる時、アグネスのことを考えとった……」


 あ……


 弘司の声が嗚咽で途切れた。


「続きはまた今度や、息子よ。動物に餌をやらな……」


 電話の「ツー」という音が、ジークを沈黙に残した。


 彼は父の言葉を思い、タラニスとの繋がりを強めるための、あの幸福感を見つけることの重要性を考えた。


 前向きな思考を探していると、彼の目はテーブルの上に置かれたホテルのサービス案内のパンフレットに留まった。


「鍼治療(はりちりょう)? サウナ?」


 ジークは好奇心を持って読んだ。


「うーん、何か分からんけど、面白そうやな……」


◇


第13.5話 感慨深い再会


 ジークは、ホテルの内部の仕組みを少し理解し、エレベーターの混乱も乗り越えたので、施設を探索することにした。


 訓練の前に平和な避難所を探し、彼はサウナがある10階へと向かった。


 部屋は空だった。


 ジークはロッカーに服を置き、タオルに包まり、木の扉をくぐった。


 中に入ると、熱気が一気に襲ってきた。濃厚で、心地よい。部屋の中央には、その温度の源が鎮座していた。火山岩に囲まれた炉が、灼熱の蒸気を放ち、入口のすぐそばには水の入ったバケツと木の枝が置かれていた。


 ジークは木の階段に腰を下ろし、完全なリラックスに浸った。


 静寂は、自分の呼吸が聞こえるほどだった。


 彼は10分以上、一言も発せずにそこに留まり、汗が肌と心の不純物を洗い流すのに任せた。


 出る時には、体が軽く、ほとんど浮いているようだった。


「よし、サウナの受付の姉さんが言うには、次は冷水シャワーやな」


 ジークは独り言ちた。


 筋肉に硬さを取り戻す五分間の冷たいシャワーの後、我らが主人公は生まれ変わった気分だった。


 彼は奇妙な繋がりを体験していた。まるで大地と一体になったかのように。彼は有頂天だった。


 ウェルネス・イティネラリーの次のステップは鍼治療、そしてリラックスを締めくくるボディマッサージだった。


 服を入れた箱を抱え、ジークは8階、マッサージとセラピーのセクションへと降りた。


「すみません、鍼治療のセッションをお願いしたいんですけど」


 ジークはカウンターに着いて言った。


「かしこまりました、坊や」


 受付の女性は親切な笑みで答えた。


「体のどこに一番負荷と痛みを感じますか?」


「ええと……肩、背中、そして胴体や。主にそこらへんやな」


「承知しました。この紙を鍼治療師に渡してください。5番のベッドへどうぞ、そこで待っています」


 ジークはわくわくしながらそこへ歩いた。


 しかし、知らないうちに、彼は鍼治療が単なる手技マッサージの一種だと思っていた。


 可哀想に。


「こんばんは、坊や。うつ伏せになって、リラックスしてください」


 鍼治療師は彼が来るのを見て指示した。


「はい。これ、受付の人が読んでくれて渡してくれた紙です」


「ええ、治療すべき部位はよく分かります。どうぞリラックスして」


 女性が指示を読む間、ジークは目を閉じ、ベッドの快適さに身を沈めた。


 彼は世界の頂点にいる気分だった。


(エリートになるためにできる限りのことをしよう……そうすれば毎日こうやって過ごせる。なんてリラッ……え?)


 ジークの体は弓のように緊張した。


 彼は知らなかった。鍼治療が、中国医学の千年技術であり、体の特定の部位に細い針を刺してエネルギーを調整し、彼の場合は残響の治癒を早めるものだということを。


「おばさん、殺す気か!?」


 ジークは最初の刺し込みを感じて叫んだ。


「静かにしてください、坊や。ここには他にもリラックスしようとしている人がいます」


 女性はプロフェッショナルな冷静さで叱った。


「でもおばさん、これ、めっちゃ痛いんやけど!」


「共鳴者(きょうめいしゃ)ですよね?」


 彼女は手を止めずに尋ねた。


「なら、痛みと共生することを学びなさい」


「痛っ!」


「黙れ、この馬鹿者!」


 隣のベッドから、薄いカーテン一枚だけを隔てて、怒鳴り声が響いた。


 その声……ジークには痛いほど聞き覚えがあった。


 嗄れた声で、針の効果の下でも失われない、生来の傲慢さを帯びていた。


「お、おばさん……カーテンを動かしてもらえますか?」


 ジークは痛みで片目を細めながら頼んだ。


 鍼治療師が布を引くと、ジークはこんなに早く会うとは思わなかった顔と正面から向き合った。


「仁!?」


「ジーク!? 叫んでたのはお前か!?」


 ジンは同じくらい驚いて叫んだ。


「なん……なんて偶然や!」


 ジークは肩に針が刺さる中、何とか尊厳を保とうとして言った。


「公共の場では声を落とせよ――!」


「あああっ!」


「坊や、声を荒げるのは無礼ですよ」


 二人目の鍼治療師が、ジンに針をしっかりと刺した後で叱責した。


「すみません……」


 ジンは歯を食いしばって咳いた。


 苦痛に満ちた針のセッションを終え、ついに二人に平和を取り戻すマッサージを受けた後、彼らは着替え、8階の廊下を歩き始めた。


「一体、ここで何してるんや、仁?」


 ジークはまだ首を回しながら尋ねた。


「同じことを聞いてもいいぞ、この馬鹿者」


 ジンは高慢な姿勢を取り戻して答えた。


「王が最高の快楽と贅沢を手にするのは当然のことだ」


「まだ王とか言うとるんか?」


 ジークは呆れた目で彼を見た。


「大人になれや……」


「今回は……お前の言う通りだ……」


 ジンはそう言い、一瞬だけその目が陰った。


「それでも、俺の質問の答えにはなってへんで。この街で、正確に何をしてるんや?」


「小倉の後、虎の重役が俺に近づいてきて、事務所に入ることを承諾した」


 ジークは、琴がかつて虎と白鷺(しらさぎ)が小倉地域で最大の二つの事務所だと話していたことを思い出した。


「でもそれ、小倉やろ? じゃあなんでウォレスビーチにいるんや?」


「まあ、俺が事務所で一番新しいチャレンジャーだからな。サザンクラシックで上司たちを観察するために連れてこられた。今度はお前の番だ、この野郎、お前こそウォレスビーチで何してる?」


「まあ、だいたい同じや」


 ジークは後頭部を掻きながら答えた。


「ただ、俺はまだルーキーやけどな」


「で、いつ昇格するんだ? もうお前のランクの奴とは戦えんぞ。それとも、凡庸な共鳴者(きょうめいしゃ)でいたいのか?」


「時間の問題や、この馬鹿。まだ残響(ざんきょう)から回復中なんや。ていうか……お前、俺より酷い状態やったのに、なんでまだ試合に出られとるんや?」


「技術的な引き分けだった、前にも言っただろ、この馬鹿者。だが……全てはオーディンに再会した時に起きたことに基づいとる。実はな、こういうことがあって……」


◇


 ジークが井上兄弟に会う前、共鳴本部(きょうめいほんぶ)に到着する少し前、坂田仁はすでにそこにいた。


 ジンは主に報告するため、リンボへと向かっていた。


「オーディン師よ」


 ジンは跪いて囁いた。


「あんな低カテゴリーのトーナメントで負けた後、よくここに来られたな?」


 神の声は、嵐の前の雷鳴のようだった。


「説明させてください」


「黙れ。お前は我が共鳴者(きょうめいしゃ)への恥辱じゃ。今すぐ神具(しんぐ)を返上せよ」


 ジンは震えながら、二本の刀――フーギンとムーニン――を具現化した。


「で、ですが、これは一体――」


「黙れと言った。我を怒らせるな」


 オーディンは二本の刀を取り、軽蔑の仕草で空気中に消し去った。続いて、ポータルから神力の痕跡もない普通の刀を取り出し、ジンの足元に投げ捨てた。


「この瞬間から、お前はこれで戦うのじゃ」


「こ、これは別の神具(しんぐ)ですか?」


 ジンはか細い声で尋ねた。


「我が神具(しんぐ)で戦うのではない」


 オーディンは皮肉な笑みを浮かべて言い放った。


「お前の敗北は我が名を汚した。お前は王冠を剥奪された。ただの下僕に過ぎん。これが我の最後の言葉じゃ。我にふさわしいと証明した日、また会えるであろう。それまで、我は去る」


 ジンはすすり泣き、咳いた。


「証明してみせます……必ず、再びふさわしくなってみせます……」


◇


 現在に戻り、ホテルの廊下で、ジンは拳を握りしめた。


「そういうことがあってな……だから虎に入った。あの出来事の後、絶え間ないアドレナリンの高まりを感じるようになって、ここで戦えるようになった。上層部は俺のチャレンジャーへの急速な昇格に満足しとる」


「なるほど……」


 ジークはより真剣な目で彼を見た。


「なあ、今、本当はどう感じとるんや?」


「自信と誇りは粉々だ……だが、前に進まなきゃならん。体が壊れても、意志は壊れたくない」


 ジークはその決意に感銘を受け、定番の質問を投げかけた。


「三ヶ月後、どうなっとると思う?」


「もちろん、神具(しんぐ)を取り戻しとるさ。秋のクラシックに出るつもりだ。上層部にはもう話して、戦いと訓練を交互に組んだ計画を立ててもらった。今は世界ランキング3028位だが、すぐに上がる、約束する」


「じゃあ……お前も万済(バンジェ)に来るんか?」


「は? じゃあそこで会うってことか?」


 ジンは挑戦的な笑みを浮かべた。


「もちろんや」


「なら、約束だ」


 ジンは手を差し出した。ジークは数歩ぼんやりと歩き続け、ジンが後ろに残っていることに気づいた。


 振り返ると、ライバルが恥ずかしさで真っ赤になり、まだ手を宙に上げたまま立っていた。


「ああ、すまん、見えてへんかった!」


 ジークは急いで戻りながら叫んだ。


 ジークはしっかりと握手を交わし、盟約を結んだ。


「知っとるか? 王がそう簡単に手を差し出すもんやないで」


「馬鹿者。血管を破裂させるなよ」


 ジンはそう呟いたが、すぐには握りを解かなかった。


 廊下を歩き去る間、二人の声はまだその場所に響き渡り、徐々に距離の中に消えていった。


「なあ、腹減ってへんか? 俺の部屋で食わへんか!」


 ジークは自然に誘った。


「もうルームサービスを頼んだ。すぐに部屋に届く」


「俺の部屋に届けてもらえよ! 16階のペントハウスや」


「ベ、ベ、ベントハウス!?」


 ジンはびたりと止まった。


「今すぐ行く! そこで待ってろ、配達先を変更するように伝えてくる……」


 五分後、ジークはリラックスした体と、檻の中の獣のように轟く胃を抱えて、自分の部屋に戻った。


 彼は豪華なソファに身を沈め、テレビをつけた。


 特に止まることもなく、惰性でいくつかのチャンネルを回していたが、ウォレスビーチのチャンネル2が彼を捕らえた。


『まもなく、サザンクラシック「クイーンズ・トーナメント」に関する特別レポートをお送りします。コマーシャルの後、放送に戻ります』


 ジークはソファで少し身を起こした。


「魁斗とアレクサンドロスの話をするんかな?」


 彼は独り言ちた。


「これで魁斗のことをもっと理解できるかもしれん。今のところ、ただの道化師にしか見えへんけど」


 扉をノックする音が彼を遮った。


 開ける前に、向こう側の声で誰か分かった。


 仁だった。


 ジークは特に儀礼もなく彼を招き入れ、二人は画面の前に座った。


「なあ、仁。トーナメントに何を期待しとる?」


「怪物どもだ」


 相手は迷わず答え、テレビに目を固定した。


「獣どもが武器をぶつけ合う。このトーナメントは、最強の連中を研究し、虎での上司たちの力を測るのに役立つ」


「そういえば、同僚が参加するって言っとったな」


「三人だ。だが、よく知っとるのは一人だけだ。普段一緒に訓練しとる。大仏って苗字だ。他の二人は遠くから見ただけだ」


 仁は画面に向かって目を細めた。


「ところで、何を見とるんだ?」


「サザンクラシックのレポートや。もうすぐ始まる」


「その前に飯が来るといいんだが――」


 扉を二度、しっかりとノックする音、そして二人の声が同時に:


「ルームサービスです」


 ジークと仁は同時に立ち上がった。他の状況ではどちらも認めなかったであろう速さで。


 扉を開けると、従業員たちが巨大なトレイを載せた金属のカートを押しながら入ってきた。


 匂いが瞬時に部屋を満たした。


 二人の共鳴者(きょうめいしゃ)は背筋を伸ばし、腕を組み、厳粛な表情を保った。まるで、食べ物を眺めるという単純な行為が彼らを内側から蝕んでいないかのように。


「お食事が終わりましたら、カートをドアの外に置いてください。後はこちらで処理します。ごゆっくりどうぞ!」


 従業員の一人が退出しながら言った。


「ごゆっくりどうぞ!」


 二人は同時に答え、その感動さはドアが閉まるまでしか続かなかった。


 その後に起こったのは、夕食ではなかった。狩りだった。


「ジーク、見ろ、もうレポートが始まったぞ」


 仁は口をいっぱいにして、フォークで画面を指さしながら言った。


「まず飯を飲み込んでから話せ、この馬鹿」


 ジークはラーメンから目を上げずに答えた。


 テレビでは、キャスターがナレーション付きの録画映像に道を譲った。


『クイーンズ・トーナメント』は、太平洋島における四大トーナメントの一つです。従来のトーナメントとは異なり、この大会は厳格なルールに則って運営されます』


■第一に、出場資格。


太平洋ランキングのトップ16のみが出場できます。出場資格期間は、大会開始の一週間前に終了します。


■第二に、形式。


組み合わせはランキングに基づいて決まります。ランキング1位が16位と対戦し、以下同様です。


■第三に、試合時間。


一回戦と二回戦は最大10分、準決勝は20分、決勝は25分です。


■第四に、勝利方法。


時間切れの場合、共鳴委員会の公平な審判五人によって判定が下されます。他の方法は、身体的不能による勝利、または自主的な降参です。


■第五に、賞金。


決勝の勝者は、4000万円に加え、観客からの有志寄付を獲得します。


「4000万円!?」


 ジークは喉を詰まらせそうになった。


「それだけか?」


 仁は片眉を上げて言った。


「四大大会の中で、これが一番安いんだぞ」


 ジークは一瞬彼を見て、情報を処理し、何も言わずにステーキに戻った。


 放送は続いた。


■第六に、挑戦権。


経済的な賞金を超えて、頂点を目指す共鳴者にとっての真の報酬は、「エリート挑戦権」です。勝者は、好きなエリート共鳴者(きょうめいしゃ)に挑戦できます。勝てば自動的に昇格し、挑戦された側は0ポイントでチャレンジャーサーキットに戻されます。


負ければ、挑戦された側はその座を維持し、挑戦者はランキングで0ポイントになります。


 一瞬、二人とも言葉を失った。


 フォークが宙に浮いたままになった。


 世界のトップ16に入るというイメージは、単なる野心ではなかった。


 それは具体的なもので、名前と値段があった。


 レポートが彼らをトランスから引き戻した。


『最後に、参加者です。全員がクリーンに出場資格を獲得し、際立って均等なレベルに達しています』


『最初の選手は大仏守。虎事務所の主要人物の一人。ランキング1位。ゼウスの共鳴者(きょうめいしゃ)。大会の文句なしの本命で、高レベルな守備スタイルと、誰も持続できなかったカウンター攻撃を持ちます』


 仁はカトラリーをトレイの上に置いた。


「あいつと訓練しとる。まあ……いつも練習で負けるんだが、あいつのカウンターに耐えられん」


 彼は少し諦めたように小声で言った。


『二人目の選手はアレクサンドロス・レツォス。ランキング14位。アレスの共鳴者(きょうめいしゃ)。所属事務所は現時点では不明。スロースタートで徐々に展開するスタイルで、戦闘の後半では壊滅的と評されています』


「へえ。マジで……」


 ジークは気の抜けた声で言った。


 どうやら誰も沢蟹を知らないらしい。


 名前が次々と現れた。


 仁は、顔だけ知っている虎の他の二人の共鳴者(きょうめいしゃ)の顔を認識した。


 レポートは最後の参加者へと進んだ。


『次の共鳴者(きょうめいしゃ)は井上魁斗。ランキング16位。最後の最後で出場資格を獲得しました。イザナミの共鳴者(きょうめいしゃ)で、登録事務所なし。世論調査による第二の本命。彼の戦闘スタイルは、その予測不能な性格と、プレッシャーの中でスペクタクルを維持する能力により、観客に異例の反応を引き起こします』


 ジークは眉をひそめた。


(イザナミ? あれは黄泉の女神やないか……?)


 彼は思った。


『そして、トーナメント最後の参加者は李芳(リ・ファン)。万済出身。ランキング5位。事務所なし。仏陀の共鳴者(きょうめいしゃ)。世論調査では最も本命視されていませんが、戦闘における彼の意志は、アナリストによって打ち砕くのが難しいと評されています』


『トーナメントはちょうど四日後の深夜、日付が変わる瞬間に始まります。カウントダウンが今、始まります。ご視聴ありがとうございました』


 画面は通常の番組に戻った。


 しばらくの間、会話は途切れ途切れに続き、カトラリーの音と、時折誰かの参加者についてのコメントで中断された。


 カートがほぼ空になると、仁はソファに寄りかかり、天井を見つめた。


「ジーク。この四日間、何をするんだ?」


「心境(しんきょう)を鍛える」


 ジークは肘を膝に置いた。


「トーナメントが始まる前に少しでも使いこなせれば、ウォレスビーチを手ぶらで去ることはない。全てが終わったら、ここを発つことになるやろな」


 仁は横目で彼を見た。


「心境(しんきょう)? なんだそれは?」


「うまく説明できん。瞑想して到達するもんや。一種の深い集中状態や」


「つまり、俺が順位を上げると間、お前は瞑想しとるってわけか」


 仁は短く笑った。


「お前が目を覚ます頃には、俺が何位にいるかも見えんぞ」


「そう簡単に勝ち誇るなよ。使いこなしたら、お前を追いかける。そしてその後、秋のクラシックを目指す」


 仁は一瞬、沈黙して彼を見つめた。軽蔑と、認めれば尊敬かもしれない何かの中間にあたる、あの表情で。


「見てみたいもんだ、そばかす野郎」


 彼は立ち上がり、腕を伸ばした。


 ジークは彼が扉に着く前に引き止めた。


「なあ……ここで食ったんやから、カートを持って行ってくれ」


 仁はゆっくりと振り返った。


 彼を見た。


 カートを見た。


 また彼を見た。


 国家の決断の前に訪れるような、厳粛な沈黙があった。


「今回だけは聞いてやる」


 仁は誰も求めていない威厳で最初のカートの取っ手を掴みながら咳いた。


「くそっ」


「気をつけろよ、仁」


「まあな。じゃあな」


 扉が閉まった。


 ジークはペントハウスに一人残った。


 テレビはまだついていたが、もう見てはいなかった。


 頭の中は心境(しんきょう)、トーナメント、これからの五日間でいっぱいだった。


(今日練習するつもりやったけど、コンディションが整わへん。腹はいっぱいやし、いろいろ考えすぎとる。明日や)


 彼はソファから立ち上がり、テレビを消し、楽な服に着替えた。


 ジークはベッドに横になり、静かに天井を見つめた。


 ベントハウスは完全に静まり返っていた。まだ自分のものとして認識しきれない種類の静けさだった。


 彼は目を閉じた。


 父の言葉が、呼びもしないのに戻ってきた。


『絶対的な静けさを感じさせる何かを思い浮かべるんや』


「絶対的な静けさ……」


 彼は呟いた。


 何を探した。イメージ、記憶、その言葉に合うものなら何でも。


 具体的なものは何も見つからなかった。


 しかし、その試みは、不思議なことに、十分だった。


 その日の疲れが残りを為し、彼がさらに探し続ける前に、ジークは眠りに落ちた。


 こうして、ホテルでの最初の日が終わった。


 真夜中頃、ジークは魁斗からの電話で目を覚ましたが、気にせずまた横になった。


 公式には、トーナメントは四日後に始まる。

最後までお読みいただきありがとうございます!


作中でジークがチップに戸惑うシーンがありましたが、実は多くの欧米諸国ではサービス業に対するチップが実質義務のような文化になっている国も多いんですよね。


田舎育ちでチップ文化に馴染みがないジークにとっては、二千円でも「こんなに出してすんません!」という感覚だったようですが、高級ホテルのスタッフからすると「え、これだけ……?」と温度差が生まれてしまうという……(wwww)。


こうした文化ギャップも楽しみつつ、いよいよジークの『心境』に向けた一人合宿が始まります!

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