表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病な僕と、リングの約束 ーBパート ジムサイドー  作者: 叶畑シュウ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/18

第九話 終わらないスパー①

 体育館のリングは、いつもより少しだけ暗かった。窓の外はまだ明るいのに、ここだけ時間が淀んでいるみたいに。

 顧問が来客対応で席を外した。


「すぐ戻るから、ロープだけやって待ってろよ」


 そう言い残して、体育館の扉が閉まる。


 扉が閉まった瞬間、空気の温度が変わった。いつもの部活の顔が剥がれて、下にあるものが出てくる。


(顧問がいない時間は、部長の時間だ)

(部長の機嫌イコール部の空気)


「よし」


 部長が声を出す。その声は、顧問に向ける声と違う。もっと低くて、乱暴で、決定事項みたいな声。


「ロープ飽きたわ。スパーするぞ」


 ざわ、と周りが動く。陸はロープを持ったまま、指先が冷えるのを感じた。


(あ、始まる)


 嫌な予感じゃない。予感というより、予定。部長の視線が陸に止まる。


「陸」


 名前を呼ばれた瞬間、胃がきゅっと縮む。誰にも分からないくらい小さく、息を吸う。


「上がれ」

「……はい」


 返事をする声は、驚くほど落ち着いていた。そうしないと、余計に面倒が増えると知っているから。


 リングに上がる。ロープをまたぐ足が、ほんの少しだけもつれる。それを見逃さない目が、外にいくつもある。


 空気を読めって言葉は、誰も口にしない。でもここでは、言われなくても分かる。


――先輩を立てろ。


「お前さぁ」


 部長が腕を組んだまま笑う。


「俺を倒しといて、かっこつけてんじゃねーよ。なんか反応薄いんだよ」


 何の話か、陸には分かった。勝っても騒がない顔。先輩の理不尽に、声を荒げない態度。


――面白くない。


 そう言われている。部長の機嫌を取る、という競技で陸だけがルールを知らないみたいに。


「根性あるのかねえのか、どっちなんだよ。

 いい子ぶってんのが一番ムカつくんだよな」


 周りから、乾いた笑いが起きる。笑い声は、部長への同調だ。


――笑わないやつは、次に上げられる。


 陸は、笑わない。笑うと、もっと嫌われる。笑わないと、また嫌われる。


(……じゃあ、どっちでもいい)


 陸はグローブをつけながら尋ねる。


「相手は誰ですか?」


 部長が、適当に手で指す。


「お前。上がれ」


 呼ばれた二年が、ちら、と陸を見る。ほんの一瞬、目が合う。その目がすぐ逸れる。


(あ、やりたくないんだ)


 分かる。自分だって、やりたくない。でも、断れない。断ったら空気がもっと悪くなる。

 二年がリングに上がり、小声で言う。


「……月代、悪い。俺、ほんとは――」

「先輩、よろしくお願いします」


 さえぎるように陸は先に言ってしまう。部長の声。


「インターバル? なし。交代は気分」


口の中が、からりと乾く。


(なし、って言った。終わりはない、ってことか)


「はい、始め!」


 ゴングは鳴らない。合図は声だけ。体育館の外の世界に届かない音。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ