表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病な僕と、リングの約束 ーBパート ジムサイドー  作者: 叶畑シュウ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/27

第二十話 ナオのマラソン大会②

 マラソン大会から数日後の土曜日。その日もシュガーのドアがガラッと勢いよく開いた。


「陸のお兄さーん!!」


 ナオが、ドドドッと走ってくる。顔は真っ赤、息も少しだけ弾んでいる。


「どうしました?」


 陸はタオルを手にして振り向く。


「マラソン大会、おわった!」

「おお、そうでしたね。本番は今週でしたね」

「うん!!」


 そのまま、ぴたっと陸の目の前で足を止めて、ぐいっと胸を張る。


「ビリじゃなかった!」

「それは良かったですね」

「前から10番目だった!!」


 クワッと目を見開いて、両手の指をぜんぶ広げて見せる。


「一列に10人ずつ並んでゴールするんだけどね、1列目のいちばんうしろだった!」

「ということは……学年で前から10番目、ですね」

「そう!!」


 言いながら、自分でも信じられないというように笑う。


「いつもビリから3番目だったのに。先生がね、すごいね、ナオくん!って」

「がんばりましたね、本当に」


 陸は、タオルをベンチに置いて、ナオの前にしゃがみ込む。


「苦しくなかったですか?」

「途中で、あー、もうやだーって思った。でもね、しゃべれる速さで走るやつ、やったじゃん?」

「あぁ、二人でシュガーの周りを回ったやつですね」

「うん、あれ思い出した。ここがシュガーの角で、この辺がコンビニの曲がり角で…って」


 両手で空中に地図を描くような仕草をしながら、続ける。


「ゴールまで、ぜんぶ走らなきゃって思うと、すんごい長くてムリってなるけど……」


 ふと、陸の顔を見て、少し照れくさそうに笑った。


「ここまで陸のお兄さんとしゃべったなーってちょっとずつ分けて考えたら、なんか、いけた」


 陸の胸が、じんわり熱くなる。


「すごく大事なことに気づきましたね」

「へへ」

「ナオくんは、一人で最後まで走ったんですか?」

「うん。 クラスの子が、途中で『もう歩こーぜ』って言ってきたけど……『いやだ、走る』って言った」

「おぉ」

「だって、ここで歩いたら、陸のお兄さんとお散歩ランのときのナオに負けちゃうもん」


 得意げに言い切る。陸の目が、すこしだけ潤んだ。


「……それは、すごいですね」

「でしょ!」

「――歩かずに走り切ったこと、 苦しくてもやめなかったこと、ここまでがんばった自分に負けたくないって思えたこと。すごいです」

「へへっ」


 ナオは、もじもじと片足で床をこする。

 

「ナオくん、本当におめでとうございます。前から10番目、お見事です」

「えへへ」

「ナイスマラソン、でした」

「ナイス、マラソン!!」


 ナオはその言葉が気に入ったらしく、くるんと一回転してみせる。


「じゃあさ、今日は、ごほうびランにしよ」

「ごほうびラン?」

「うん。マラソン大会、おわったから、走っても走らなくてもいい日なんだよ?」

「それは……そうですね」

「でも、陸のお兄さんとお散歩ランは続けたいから」


 ぐいっと、手を引っ張る。


「今日も、ちょっとだけ、走ろ」

「分かりました。がんばらない程度にですね」

「うん、ちょっとだけ。また前から10番目くらいだったら、来年もほめてね」

「もちろんです」

「約束」


 差し出された小さな小指に、陸さんも小指を絡める。


「ゆびきりげんまん、ですね」

「うん。ナイスマラソンって、来年も言って」

「来年も、ナイスって言わせてくださいね」


 ふたりは、笑いながら玄関へ向かう。

 シュガーの外、夕方の少し冷たい風の中で── マラソン大会という嫌なイベントが、ナオにとってちょっとだけ誇らしい記憶に塗り替わっていく。

 

 それを隣で見届けながら、陸自身もほんの少しだけ、走ることが嫌いじゃなくなっているのに、まだ気づいていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ