表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病な僕と、リングの約束 ーBパート ジムサイドー  作者: 叶畑シュウ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/19

第二話 十年後に(★)

 ジムの夕方。外は暗くなってきたのに、ジムのなかはライトが灯っていて、そこだけぽっかりと明るい。

 なわとびを終えたナオが、タオルで顔をふきふきしながら顔を上げる。


「あ」


 リングの向こう、ベンチに腰かけた陸の顔。頬骨のあたりが、うっすら赤くふくらんでいる。

 ナオは、じーっと見つめてから小走りで近づく。


◇◇◇


「ねえ、りくのお兄ちゃん」

「はい?」

 

 ノートに何かメモしていた手を止めて、陸が穏やかに顔を上げる。


「ケガどうしたの?ころんじゃったの?」


 ナオにとって、誰かに殴られるという選択肢はまだ現実の世界にはない。ケガ=転ぶかぶつけるか、くらいの発想しかない。

 陸は一瞬、返事に詰まる。


「うーん……そうだなあ」


 ちょっと考えるように視線を泳がせて、それから笑う。


「高校で年上のお兄さんとね、コンビネーションを打ち合ったんだ」

「コンビネーション?」

「そう。ワンツーとか、ワン・ツー・スリーとか。

 お互いに決め合えるように、ちょっとだけ強めに」

「それって、大丈夫なの?」


 ナオの目がまんまるになる。打ち合うという言葉に、ほんの少しだけ不安が滲む。

 陸さんは、照れくさそうに頬をかいた。


「うん、大丈夫。……俺のはね、不発。ぜんぜん当たらなくて」


 ちょっと情けないように、笑って目を伏せる。

 ナオはじーっと陸の顔を見る。 赤くなっているところ。絆創膏。転んだのとは、なんか違う気がする。

 なにかをうまく言葉にできないまま、ぽすっと陸のお腹に抱きついた。

挿絵(By みてみん)

「……ナオくん?」

「今日は、りくのお兄ちゃんのれんしゅうしよ?」


 上を見上げて、真剣な顔。


「ぼく、ミットもつ。りくのお兄ちゃん、パンチあたるようにしよ?」


 一瞬、ジムがしんと静かになる。サンドバッグの音だけが遠くから聞こえる。

 陸は軽く目を瞬かせてから、思わず笑ってしまった。


「俺のミットをナオくんに持ってもらうなんて……」


 少しだけ、遠くを見るような目になる。


「なんか、いろんな意味で十年早い気がします」

「じゅうねん?」


 ナオは首をかしげる。


「そうなの?」


 神妙に答える陸。


「はい、恐れ多くて、とてもとても」


 陸さんは、そっとナオの頭をぽん、と叩く。


「だから今日は、ミットは俺が持ちます。 ナオくんは、いつも通りコンビネーション。代わりに――」


「代わりに?」


「ナオくんが飽きずに続けてくれたら、いつか俺のパンチも当たる気がします」


「ふーん……よく分かんないけど」


 ナオは、にっと笑った。


「じゃあ、今日もコンビネーションやる。いっぱい当てる」

「はい。いっぱい当ててください」


 陸が立ち上がる。ミットをはめる腕は、さっきより少しだけ軽い。


 なわとびで温まった足で、ナオがリングに駆けていく。小さい背中を見送りながら、陸はふっと息を吐いた。


(俺のは不発で、ナオくんのだけ当たる。……それでいいや。今は、まだ)


「じゃあ、どうぞ。まずはワンツーから」

「おっけー!」


 ぱん、ぱん、と小さい拳が、気持ちいい音を立ててミットに当たる。


 そのたびに、「ナイスです」「はい、いいですね」と声をかける陸の顔は、少しだけ誇らしげに見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ