火の国編28話
訓練場ではイザナギが変わらず正座をしている。
その体制のままじっと動かない。
何をするでもなくただただ正座をしていた。
「………遅い」
そう呟くとイザナギは立ち上がる。
そして魔剣を手に携え、訓練場を入口へと向かう。
その雰囲気からは強い殺気を感じ取られる。
入口を出ると長い廊下が広がっており、そこをイザナギは歩き出す。
静かだが、表情からは冷たい狂気や憎しみがひしひしと伝わってくる。
それを廊下の死角から覗き見ていた忍者装束の男は冷や汗をかいている。
手を見ると震えと手汗が絶え間なく出続けている。
「………ヤバい。なんかヤバそうな雰囲気。スサノオ様に報告だ」
そう言って震える体を奮い立たせ、忍者装束の男はイザナギとは反対方向へと走っていった。
その走り姿からはそんなに走っていないのにも関わらず汗が絶え間なく出続けていた。
イズモ達はオオカの家に向かっている。
ヤサカはイズモに質問する。
「カグツチさんが命が狙われてるって誰に?」
「国王だ」
「………はい?」
「にわかに信じられんがな」
「いやいや。カグツチさんに国王になってもらうために国王が招集したって話じゃないですか。何かの勘違いじゃないんですか?」
「あぁ。杞憂で終わればいいが。ともかく今はカグツチの護衛に集中だ。」
「えぇ………。なんか腑に落ちませんけどね」
「スサノオ様の命だ。ともかく行くぞ」
「はーい」
そう走りながら、話していると前に歩いている人影が見える。
そこにはオレンジ色の鳥頭、オオカが走っていた。
後ろから聞こえる足音に気付き振り向くオオカ。
オオカは2人の焦った姿を見て少し驚く。
「こんにちは。どうされました?ずいぶん急がれてるみたいですが?」
「オオカさん大変だ。カグツチが国王に命を狙われてる!」
「!!!」
オオカは驚愕の表情を浮かべる。
「だからカグツチの護衛に向かいます。オオカさんは?」
オオカは真面目な表情を作り、質問する。
「………詳しくお話を聞かせていただけませんか?」
「自分も詳しくは分からないんですが、この前街を襲った賊が言うに、国王はカグツチへの復讐のためにこの国に呼んだみたいで。だからスサノオ様の命でカグツチ達の保護に」
「………なるほど」
オオカは考える素振りをする。
(こいつなんで知ってるんだ?………イザナギ様の命でカグツチ様を連れて行くなんて言ったら流石に衝突は避けられないよな。次から次へと忙しい。………いや待てよ)
オオカの脳裏に光明が差す。
(スサノオ様と側近、そして私がいれば何とか戦えるか?少なくともカグツチ様とのコンビよりかは確実に確率は上。………でもイザナギ様の発言次第で藪蛇になる恐れはある。ここはどっちつかずか)
「………にわかに信じがたいです。私はカグツチ様をイザナギ様の元へと連れてくるように言われており」
「「!」」
イズモとヤサカは驚く。
そして二人は決意に満ちた表情を浮かべる。
「こっちはスサノオ様から命を受けてます。引く気はありませんよ」
「一旦落ち着いてください。争う気はありませんから。ただこの情報元って敵な訳じゃないですか?敵の言い分を100%信用するのは避けたほうがいいかと」
「だったらどうするって言うんですか!?」
「ひとまず皆さんでカグツチ様の元に向かいましょうか。そこでイザナギ様抜きで話し合いましょう。今後どうしていくかとかを」
イズモは走りながらオオカを睨みつける。
「………オオカさん。あんた国王側の人間だよな。」
「まぁ立場上は」
「………何か知ってるんじゃないのか?国王のこととか」
「私はただの側近。雑用係です。そんな詳しいところまでは分かりませんよ」
「いや。国王の最側近のあんたが何も知らないとは思えない」
「………」
「どうなんだよ。カグツチのことを連れてくるって任務を出したのもあんたなんじゃないのか?」
「………あなたはカグツチ様の、スサノオ様の味方と考えていいですか?」
「いいに決まってるだろ!俺たちはスサノオ様直属の部下だ!」
「………分かりました。恐らく敵さんの言うとおり。カグツチ様はイザナギ様に何故か恨みを買っているようには見えます」
「「!!!」」
イズモとヤサカの2人は驚く
「今日カグツチ様とイザナギ様が手合わせをしていたのですが、手合わせの範疇を超えるレベルでボコボコにされていました。なのでその敵の言い分は間違いないと思います。それを目撃して、今ひとまず自分の家に避難させてます。」
「じゃあ今あんたは何を!?」
「さっき国王に話しに行ったんです。理由を聞きに。そしたら理由を何も話さずにカグツチ様を連れてこいの一点張りでした。なので返事だけしてちょっとどこか知らないところに隠そうと思ってたんです。」
「!!!」
「敵の情報、イザナギ様の言い分は整理する必要はありますけど、整理するまでは私の家ではないところに置いておく必要があると思いまして。」
「………そうだったのですね。疑ってしまいすみません。」
「いえいえ。はたから見たら怪しすぎますもんね。とはいえ流石はスサノオ様ですね。このリスクを瞬時に想定して、カグツチ様を隠す動きをされようとしている。」
イズモとヤサカは少し嬉しそうにする。
「はい。自慢の主君です」
「あなた方がスサノオ様の忠臣と判断してこのことを話しましたが、裏切られたらちょっと悲しいですからね。」
「何言ってるんですか。スサノオ様の命です。裏切る訳ありません。なぁヤサカ」
「聞かないでもそんなこと分かりますよね?」
「ちっ生意気なやつ」
「ハハハ。ひとまずカグツチ様を何とか避難させましょう。ロスカ姫とラムチさんもいらっしゃるので一緒に何処かに」
「「はい!!!」」
(何とか説き伏せられたかな。一旦これでカグツチ様の味方寄りにはなったかな。………残りの懸念はカグツチ様の口の軽さと、スサノオ様を説き伏せるくらいか。ってか一体どこから情報が漏れたんだろ。オオオミさんか?いや………あの人はこの国の行く末しか考えてないし、それはないかな)
そう考えながらオオカたちはカグツチの元へ向かっていく。
その頃、スサノオは玉座の間にて対面オオオミに詰め寄っていた。
「一体どういうことですか?説明してください!」
オオオミの表情は崩れず、一定である。
「オオオミさん!知ってること全て!この国の危機です!場合によってはあなたを裁くことも必要になる!」
「はい。全て話します。まずはイザナギ様の生い立ちから………」
「待ってください。まず聞かせてください。あなたはこの国の味方ですか?敵ですか?」
「味方でしたよ」
「………でした?今は」
「今は………もうどうだっていいです」
オオオミは力なく話す。
「………まずは国王が何故カグツチを狙っているのか。恨んでいるのか。話してください」
「それは………」
「スサノオ様!」
スサノオの質問の最中で、先ほどイザナギを目撃ひた、忍者装束の男が玉座の間へと入ってきた。
「報告します!国王が殺気を放ってどこかに向かわれてました。恐らくカグツチさんの元かと」
「!!!」
(国王が………?まずい)
スサノオはオオオミの方を見る。
「………必ず聞かせてもらいますからね。………オオオミさんを捕らえておいてくれ。我はカグツチ達の元に向かう!!!」
「はい!」
そう言ってスサノオは玉座の間を走り、急いでオオカの家へと向かっていく。
忍者装束の一人はオオオミの手を拘束した。
その光景をオオオミは表情を変えずにただ眺めていた。




