火の国編24話
一方その頃。
火の国へと向かう大きな船が一隻。
日光がきらめき、風が吹き荒れる大海原を進んでいた。
そのの甲板でハッセルが黄昏ている。
そこに声をかけるシュー。
その後ろにはテフヌトが立っていた。
「船に乗れてよかったねー。」
「………はい。本当にありがとうございます」
「いや。お礼ならトリトン王子達にも」
そう言って目線を向けると船に乗っているトリトンと複数の兵士たち、それに対して車椅子を降りた状態でアエリがいた。
アエリはものすごく不機嫌そうな表情を浮かべており、それをトリトンはなだめていた。
「うーん。修羅場?」
「修羅場ですね」
「僕が行くって行っても、結局自分も行くって聞かなかったもんね。とてもいい友情」
「アエリさんはそれに相当怒ってましたけどね」
トリトンは目線に気づきハッセルたちに近づいていく。
その行動に少し驚き、不機嫌そうにアエリも近づいてくる。
「後どれくらいで火の国に着くのでしょうか?」
「どうでしょう。ただ偶然宣教師団達の船に乗ることができて良かったですね。」
「そうですね」
「私は反対ですけどね。危険すぎます。そもそもシュー王子たちが行くお話だったのですから、トリトン様は待機するべきでした」
「アエリ。本当にごめん。でも友達を放っておけないし」
はぁ~と大きいため息をアエリはつく。
「本当に危険な真似は許しませんから。本当に」
「うん。大丈夫。心配かけて本当にごめん」
「それでハッセルさん。」
「何でしょう」
「カグツチはマガハラ出身なんですよね?どうして火の国に行かせることを拒んだのか。それを教えていただけませんか」
「はい………。カグツチは火の国の王族です。」
「「!!!」」
一同は一斉に驚く。
「あれは15年くらい前。クリオネッタ王国とマガハラ王国との国交を樹立するために向かった時のことでした。」
木漏れ日差し込む森の中。
茶色い短髪の女性が布に包まれた赤ん坊を抱え、息を切らしながらヨロヨロと走っている。
その女性は傷だらけで、顔にや腕には動くどころか生きているのが不思議なほどの大火傷を負っている。
また身体中に刺し傷や切り傷があり、進むとともに道になるように血が滴り落ちている。
赤ん坊は眼を開けて、その赤色の眼で景色を眺めていた。
「………この子だけは………絶対に………」
掠れた声で自分を鼓舞するように言葉を発する。
「いたぞ!」
女性の後ろから声が響く。
後ろから赤い装束に身をまとった男たち5名ほどが声を上げ、追いかけてくる。
5人は剣や槍を持ち、必死の形相で追いかける。
「くっ!」
震える脚や傷を抱えて必死に逃げる女性。
その行く先に白髪交じりの黒髪の三白眼の男立っていた。
周りの者たちとは違い水色の服に軽めの鎧を身にまとっている。
女性は男性に気付き、絶望の表情を浮かべる。
そして立ち止まり、間髪入れずにその男性に土下座をする。
「………どうかこの子だけでもお見逃しください。どうか。この子だけは。この子は………」
かすれた声で必死に懇願をする。
男性はじっと無表情でその顔を見つめていた。
「いたぞ!処刑だ!」
女性が声に気付き振り向くと5人が近くまで迫ってきていた。
そして5人は武器を構え、女性を攻撃する。
女性は赤ん坊に覆いかぶさる。
そしてプルプルと震えていた。
しかし一向に攻撃が来る気配がない。
恐る恐る女性が顔を上げると、そこには追っ手の兵士が全員倒れている姿と、三白眼の男性が剣をしまっている姿があった。
三白眼の男は口を開く。
「すぐに治療が必要だな。我々の船まで運ぶからそこまでの辛抱だ。」
元々満身創痍だった女性は安心した表情を浮かべて倒れてしまう。
「おい!」
三白眼の男が駆け寄ってしゃがみ、女性を抱きかかえる
「………カグツチと言います。火の国………王子で…·…イザナミ様の………この子だけでも………どうか」
「おい。どういうことだ。子供を置いて死ぬ気か?諦めるな。」
「あぁ………いえ………。………あ」
女性は何かに気づく。
そして女性は三白眼の男を見ずに何もない場所を見つめている。
女性は何もない場所を見て、親しい友人に会ったかのような穏やかな優しい表情を浮かべてほほ笑んでいる。
「………魔剣………?………許せない………?………あぁ………ハハ………」
楽しそうに弱く微笑んだ後、ガクッと崩れ落ちる。
「おい!おい!」
ハッセルは呼び掛けるが以降何か反応を返すことはなかった。
ハッセルは優しく女性を地面に起きしばらく合掌する。
そして目を開けて立ち上がる。
その後赤ん坊を抱きかかえる。
赤ん坊は泣きもせずにただただ景色を眺めていた。
「………何が何だか………」
倒れた女性に目線をやる。
「………墓ぐらいは作ってやりたいが………」
しかし遠くから声が聞こえる。
「どこだ!?」
「探せ!!」
「ちっ、全くどういう状況なんだ!」
男の正面から同じ服装に身を包んだ男が走ってやってくる。
「ハッセル様!って赤ん坊?え?人が死んで!?何で?」
男は死体を見て驚く。
「全くもって分からない。………だが………火の国の王子らしい」
「えぇ!?マガハラの?誘拐じゃないですか!戻してきましょうよ!あ!何か急に会談断られちゃいましたしいい交渉材料にもなりますよ」
ハッセルは少し不快そうな表情を浮かべる。
「いたぞ!あそこだ!」
そうしてまた火の国の兵士たちが現れる。
兵士たちはハッセルが抱える子を指出す。
「そいつを寄越せ。そうすれば命は助けてやる。」
「この子をどうするつもりだ?」
「んー?処刑だよ!」
「こんな子供をか?」
「あぁ。そうだよ」
「お前たちはマガハラの一般兵ではないのか?」
「ここで昇進するけどな。そいつ殺して」
ハッセルの付き人の兵士が話しかける。
「ハッセルさん。渡しちゃいましょうよ。今マガハラの人達に逆らったら………」
いいかけたところでハッセルが制止する。
「一人の人間が必死に守った赤子だぞ。簡単にそんなことを言うんじゃない」
「ハハハ!俺達に勝てると思うなよ!」
そう言って兵士たちはハッセルに襲いかかる。
その少し後、兵士たちはハッセルの周りに倒れ込んでいた。
その光景を見てハッセルのお付きの兵士は驚く。
「ヤバい!倒しちゃったよ!ヤバいですよ!会談どうするんですか?」
「子供をここまで追いかけるような国だぞ。そもそも話が通じるとは思えん。このまま帰還する。」
「でもその子供どうするんですか?」
「連れて帰る」
「………えぇ!?まずいですよ!誘拐じゃないですか」
「ここに置いていっては殺される。」
「しかし」
「一人の人間が命をかけて繋いだ命だぞ。ここで見捨てては騎士の名折れだ」
「えぇ。うーん。」
お付きの兵士は悩んでいる。
「知りませんからね。私はこれ墓場まで持って帰りますから!何も聞いてません!」
「よし。船に戻るぞ。」
「えっと!………はい!」
ハッセルは倒れた女性に目を向ける。
そして内心で謝罪をした後に森の中を走り出す。
赤ん坊はただその景色を眺めていた。




