火の国編17話
「………顔見て話したいから部屋入ってこれる?」
「………!?………いや。それは。このまま話すではダメですか?」
カグツチは狼狽える。
「大丈夫。姫も許してくれるから」
いつにもまして真剣なトーンでラムチは話す。
それを受け、少しの思考の後、カグツチが口を開く。
「………分かりました。」
そうしてカグツチはふすまを開けて、部屋に入る。
極力ラムチとロスカだけを見るように視線に気を使っている。
そして一室でカグツチとラムチが対面する。
車椅子のロスカも鎮座している。
少しの沈黙のあと、口火を開いたのはラムチであった。
「ねぇカグツチ」
「はい」
「カグツチは王様になりたい?」
ラムチの問いかけに返答する。
「私は姫の護衛です。王にはなりません。」
迷わず返答する。
「あ、明日火の魔剣は一時的に貸していただけないか聞いてみようと思います。」
「………もしさ」
「はい」
「………もしカグツチがあの爺さんに負い目を感じてるとかだったら、気にしないでもいいからね。カグツチ自身の人生なんだから。きっとあのジジイだって反対しないだろうし、もし反対したら私が引っ叩いてやるから」
「………少なくとも姫を元に戻すまではその選択は取りません。それに爺さんにも聞きたいこともありますし」
「………そっか。流石は護衛騎士ね。」
「ありがとうございます」
「………あとさ。一つ謝らないといけないことがあって」
「?何でしょう?」
気まずそうに申し訳なさそうにラムチは口を紡ぐ。
「私さ………カグツチが火の国から来たってこと知ってたんだ。」
「!」
ラムチは続ける。
「昔さ。ハッセルがマガハラに遠征に行ってさ、その帰りに連れて帰ってきたの。」
「………遠征?マガハラに?」
「うん。マガハラとの国交を樹立するためにね。」
カグツチは黙って話を聞く。
ラムチはクリオネッタに赤子を抱いて帰って来た比較的若かりしハッセルを思い出す。
「その時ジジイに聞いたの。あんたマガハラまで行って何しに行ってたのよ!って。そしたら」
ラムチはハッセルのその時の言葉を思い出す。
「拾ってきた。あの国は危険だって」
「………」
「マガハラで王には結局会えなかったみたいだし、あいつのことだし何か襲われてたりした子供を連れ帰ってきたとかそんなオチだと思ったけど、まさかそれが王族だなんて夢にも思わなかった。」
「………」
「一国の王子を誘拐だなんてあのジジイも重罪ね。この国に来たらヤバいかも」
「………それは嫌ですね」
「それで、あのジジイに言われたの。マガハラは危険だから出身であることはカグツチには言うなって。特に姫がこの状態になってからは、出身だと知れば間違いなく一人で行くだろうって。だからラムチからも止めてほしいって」
「………」
「でもマガハラの人たちも凄くいい人ばかりよね。スサノオ様もアマテラスちゃんも。だからマガハラに行きたいって言ってた時にもっとサポートしてあげればよかったから。本当にごめんなさい。あと………このことずっと黙ってて本当にごめんなさい」
ラムチは深く頭を下げる。
「………あなたのお母さんも亡くなってたって言ってた。もし………誘拐で心労が祟って………とかだとしたら申し訳ないことをしてしまったかもしれない。それに………最初からマガハラに入ればまた違った人生になっていたかもしれない。………だから本当にごめんなさい。」
「………頭を上げてください」
ラムチは申し訳なさそうに頭を上げる。
カグツチは優しく微笑んでいる。
「ここまでの自分があるのは姫、爺さん、ラムチさんのお陰です。ラムチさんは母のように接してくれました。」
「カグツチ………」
ラムチの瞳に涙が生まれる。
「俺はクリオネッタで育って良かったと思ってます。それに爺さんのことですから、何か事情が合ってやったんじゃないかなって思ってます。だから後悔も恨みもありません。………クリオネッタに来なければ、姫とも出会えてなかったわけですし」
カグツチは姫のことを横目で見る。
姫は変わらず無表情で目から光を失い鎮座している。
カグツチはラムチをまっすぐと見つめる。
「特にどんな時も温かく見守ってくれていたラムチさんにどれだけ救われていたか。本当にありがとうございます。」
ラムチからほろりと涙が落ちる。
「それに多分出生のことを知ったら真っ先に火の国に行ってたと思います。情報がない国に行くのは、それ自体が命取りになりかねない。だから止めてくださってたんですよね。」
ラムチは涙を流しながらこくんと頷く。
「本当にありがとうございます。やっぱり自分はまだまだ未熟者です。ラムチさんがいなかったらここまで肉体的にも精神的にも生きてこられなかったと思います。不束者ですがこれからも末永く見守っていただけませんか?」
ぼろぼろと涙を流すラムチ。
ラムチの脳裏にカグツチとロスカの思い出が走馬灯のように蘇ってくる。
物心ないときの対面。
物心ついた後、カグツチがロスカに初対面でタメ口でプロポーズしたこと。
その後ハッセルに物凄く怒られ、慣れない敬語に苦戦していたこと。
カグツチ、ロスカ、ラムチの3人で街に繰り出し色んなものを食べ歩いたこと。
ハッセルも加えた4人でラムチ特性の手料理を食べたこと。
ある日姫の護衛騎士になりたいと夢を伝えてきたこと。
騎士を志してカグツチがハッセルにスパルタ指導されていたこと。
猛特訓の甲斐あり騎士団に入団できたこと。
そんな頑張るカグツチの話をロスカとたくさんしていたこと。
そしてクリオネッタ騎士団に入り、ついにロスカの直属の護衛に指名され大喜びをしていたカグツチ。
ロスカもカグツチが護衛騎士になったことに大喜びしていたこと。
数え切れないほどの思い出と成長記録がラムチの頭に再生される。
そして涙声で声を紡ぐ。
「………本当に立派になったわね。こちらこそあなたたち2人の成長を見るのが日々どれだけの励みになったか………」
ポケットからハンカチのようなものを出し涙を拭う。
そしてカグツチに近づき抱き締める。
車椅子のロスカも近づけ、ロスカも一緒に抱き締める。
「本当にありがとうね。ここまで生きてくれて。成長してくれて。頑張ってくれて」
「はい」
「これからも寿命の限りあなた達を見守らせて。あなた達がどんな選択をしても私は見守ってあげるからね」
「………はい。ありがとうございます。」
「姫もちゃんと元に戻して、またみんなでお話しもお出かけも、たくさんしようね」
「………はい。必ず。」
カグツチは改めて姫を必ず救うという意思を固める。
そして夜は更け、明けていく。
その朝、火の国国王が帰還しようとしていた。




