火の国編5話
一同の間に気まずい沈黙が流れる。
勢いよく入ってきたイズモは予想外の返答に戸惑っている。
スサノオは表情を変えない。
そして問いかける。
「………どうしてだ?君は王の血を引いているんだ。君にとっても悪い話ではないと思うが」
「………私は姫の護衛騎士です。姫を守り続ける義務があるのです。だから王にはなれません。」
おぉーとラムチは感心している。
「………そうか」
スサノオは少し悲しげにする。
アマテラスが涙を自分の服の袖で拭きながら話す。
「だったらあんたと姫が結婚すればいいじゃない」
「…………はい!?」
カグツチは赤面する。
「火の国の王と氷の国の王女なんだしお似合いじゃないかしら?」
その提案を聞きカグツチの脳裏に花嫁姿で笑顔のロスカが浮かぶ。
そしてその隣には王の格好をしたカグツチ。
2人が手を取り合って街を城から眺めている。
そして2人は景色をバックに唇を近づけていく。
そこまで想像したところで勢いよく首を横に振る。
「いやいやいやいや!」
「ちょっと想像したわね」
アマテラスがニヤニヤしている。
「確かにお似合いかもしれませんね」
ラムチもニヤニヤしている。
「あら。そこの使用人!話が分かるじゃない」
「いやいやいやいや!ラムチさんまで!本人のご意思が最優先ですし!護衛騎士が姫と………その………付き合うなんて」
「あんたは王族なんだし似合ってると思うけど」
「いや………そもそも王族が本当なのかも分からないですし………。そもそも皆さんが後を継がない理由は?皆さんが継げばいいじゃないですか!」
アマテラスはそれをに聞きスサノオに視線を向ける。
そしてスサノオが重く口を開く。
「それは…………」
話そうとしてるスサノオをイズモが遮る。
「ちっ。ひとまずてめえの力を見せろよ!」
「はい?話の腰を」
「逃げんなよ!てめえの力見定めてやるから!」
そう言ってイズモは部屋から去っていく。
それを気にせず再びスサノオに目線を向けるカグツチ。
「………それでさっきの話の続きですが」
「てめぇ!道場だからな!すぐ来いよ!」
行ったと思ったイズモがヒョコリと顔を出して釘を差してくる。
「お断りします。姫から離れるわけにはいきません」
「あぁ?お前ざけんなよ!」
「そっちが勝手に連れてきたのでしょう!」
「あぁ!?」
イズモが再びカグツチに詰め寄る。
「お前姫様の前で負けるのが怖いんだろ!」
「!」
「おいイズモ。失礼だ」
「いいぜ。俺が勝ったらその姫を俺の女にしてやるよ!」
「………!」
「どうせ物言わぬ人形女。貰い手なんていないだろ。俺が氷の国の王になってやるよ」
「!!!」
カグツチの顔が怒りで歪む。
そして手を剣にかけたところでスサノオが制止する。
「イズモ。謝罪しろ。それは間違いなく侮蔑だ。」
スサノオはイズモに目線で圧をかける。
「………ちっ。悪かったよ。言い過ぎた。」
スサノオが続ける。
「部下の無礼申し訳ない。」
スサノオは頭を下げる。
「だが私としても君の実力は見させていただきたい。不躾な依頼であることは重々承知だがイズモと手合わせ願えないだろうか?」
スサノオにまっすぐ見つめられるカグツチ。
「………申し訳ありませんが姫の護衛がありますので」
「手合わせの間姫の護衛なら我々が責任を持って実施する。」
「信用できません。」
「頼む」
スサノオはカグツチをまっすぐ見据える。
まっすぐとした真剣な眼差しにカグツチは気圧される。
そしてカグツチは考える。
思考の後、そしてスサノオに向けて手を出す。
「………分かりました。手合わせします。」
「ありがとう」
そう言ってスサノオとカグツチは握手を交わした。
握手の際スサノオの服の袖がカグツチの手に当たっていた。
そうして部屋にいた一同は道場に移動した。
道場では複数の兵士たちが木刀を振って訓練していた。
スサノオ達が来ると訓練をやめ、スサノオに敬礼する。
そしてカグツチとイズモの2人は、立てかけてあった木刀を手に取り、道場の中央に移動した。
他のメンバーは道場の端の方に座り、その場面を眺めていた。
ロスカの周りには忍者装束の4人が厳重に警備態勢を敷いている。
「ルールを説明するぞ。この木刀で相手の頭が首が心臓にグリーンヒットさせたら勝ちだ。魔法の使用もあり。」
「………はい。分かりました。」
「じゃあ始めるぞ」
「すみません。ちょっと待ってください。」
「何だ?」
「木刀を見せていただいてもいいですか?」
「あ?」
「念のため細工等がされてないかを見たく」
「あぁ?そんなのないに決まってるだろ。お前の力を見るためなんだから。…………まぁいいよ。しっかり見ろよ。」
イズモが木刀を手渡す。
カグツチは受け取り念入りに触って、木刀の四方八方を確認する。
「問題なさそうです。ありがとうございます。」
カグツチが木刀を返す。
「私のも見ますか?」
「いや。いらん。じゃあ始めるぞ」
「もう一つすみません。」
「何だ!?」
「この木刀万が一壊してしまっても」
「あぁ?消耗品だ!問題ない!」
「分かりました」
「よし。今度こそ始めるぞ!スサノオ様!始まりの合図を頼みます!」
「………あぁ」
そう言って2人は離れて距離を取る。
「よーい」
2人は木刀を構える。
「はじめ!!!」
掛け声とともにイズモが持っている木刀が燃え始める。
「!?あっつ!」
イズモは驚き、つい木刀を落としてしまう。
カグツチはその隙に急接近する。
そしてカグツチは首元目掛けて木刀を振るう。
それに気づき直ぐ様、火のついた木刀を拾おうとするが、間に合わず木刀が首元に直撃する。
「がっ!?」
衝撃で横に倒れ込む。
スサノオはその光景を厳しい表情、ラムチは何とも言えない気まずそうな表情で、アマテラスと他兵士はポカンと、ツクヨミとロスカは全く意に介していない表情で見ていた。
イズモは首を抑えて起き上がり、カグツチをにらみつける。
「てめぇ!!!卑怯だぞ!」
その目線をカグツチは冷ややかに見ていた。
スサノオは険しい表情のまま立ち上がる。
「イズモ。ご苦労だった。下がれ。」
「スサノオ様!」
イズモはスサノオに近づいていく。
「納得いきません!もう一回やらせてください」
「すまないが、ここは下がっていろ」
「………はい。分かりました」
スサノオが木刀を取って道場の中央に進む。
カグツチはロスカの元に戻ろうとする。
「カグツチ。どこに行く」
カグツチはスサノオの方を向く。
スサノオは木刀をカグツチの方に向けている。
「次は我が相手だ。」
その光景をイズモたちは遠くから見ていた。
ツクヨミがその光景を見て始めて口を開く。
「火」
「え?なんて?」
今もなお燃え続けてる木刀を指差す。
「火」
「………あ。やばいじゃない!やばい!火事よ火事!水!みんな水持ってきて!」
アマテラスの大声に周囲の兵士たちが急いで道場の外へと出ていく。
そんな場外でのやりとりは気にせず、スサノオとカグツチは目線を合わせていた。
「姫の護衛に戻りますので」
「後1戦でいい。手合わせ願いたい。頼む」
カグツチは考える。
(………さっきあの人の服には触った。もし怪しい動きを少しでもしたときに燃やせるように。………ただの手合わせだし、そこまでやる必要はないか)
「………分かりました」
そう言って2人は剣を構える。
「アマテラス!合図を頼む!」
「はぁ!?こんなときに!?男ってやつは………」
「大丈夫だ。すぐに終わる。」
「よーい………どん!」
開始のタイミングと同時に目にも止まらぬスピードでスサノオが接近する。
(はや………)
目前まで迫ったスサノオは隙を与えず首元に剣を振るう。
それを何とか辛うじて防ぐカグツチ。
その後もスサノオは目にも止まらぬ連続攻撃を仕掛けていき、カグツチは段々と防げなくなっていき、腕や足など急所を外れたところに木刀が当たっていく。
鈍い衝撃に少しずつカグツチの体にダメージが溜まっていく。
ダメージは溜まるばかりで一切反撃の隙はない。
(ちっ!なら燃やして!)
連続攻撃を仕掛けるスサノオを見据え魔法を使おうとする。
しかし次の瞬間スサノオは視界から消えていた。
(は?いない)
スサノオは下にしゃがみ込んでいた。
そして下から木刀を振り上げ、カグツチの木刀を遠くに吹き飛ばす。
(まずい。木刀が)
そして吹き飛ぶ木刀に気を取られている隙に、カグツチの首元に衝撃が走る。
「がっ!?」
何が起きたかも理解できないままカグツチは横に倒れ込む。
「我の勝ちだ」
スサノオはしゃがんでカグツチに手を伸ばす。
カグツチはその手を取って立ち上がる。
「君の実力は分かった。はっきり言って実力不足だ」
ツンとした空気が辺りに漂った。
カグツチは実力不足という言葉を聞き俯く。
「君の魔法は触れたものを燃やす事ができる魔法だな」
カグツチは頷く。
「我の服も燃やす事ができるという訳か。だが燃やしたところで燃え尽きる前にお前を制圧できる。」
カグツチは俯き黙ったままである。
「絡め手は決して悪いものではない。戦いにルールも誉れもない以上、どんな手を使ってでも勝つことが重要だ。だがな」
スサノオはカグツチを見据える。
「それが通用しなかった場合に必要なのは基礎的な戦闘力だ。」
「………はい」
「君の使命はロスカ姫を守り抜くことだろう?」
「………はい」
「現に今姫がここにいるのは、君が我に負けたからだ。もし我が本当の敵で姫の命を狙っていた場合、姫を守れていないことになるぞ」
「………はい」
カグツチには返す言葉もなかった。
スサノオ相手に何もできずに2度負けてしまっているからである。
言い返す余地も一切なかった。
「これでは君を火の国の王として認めるのは難しい」
「王になるつもりはありません」
「それは後から決めればいい。ともあれ今の君に必要なのは実力だ。」
「実力………」
「国王が戻るまで1週間ある。そこまで我が直々に稽古をつけてやる。」
「!」
稽古という言葉を聞きカグツチが驚く。
「君に火の国の剣術を伝授する。そうすれば戦いの幅も広がるだろう。」
「!!!」
カグツチは驚きスサノオの顔を見据えていた。




