火の国編3話
クリオネッタ王国の廊下。
カグツチはクリオネッタ城の寝室の前に立ち警戒をしている。
辺りはすっかり暗くなり、月明かりだけが辺りを薄暗く照らしていた。
警戒をしているとスサノオが歩いてくる。
カグツチは急な不審者を止めようとするも、何故か足が動かない。
焦燥感が上がるカグツチとは対照にドンドンとスサノオは近づいてくる。
そしてスサノオは寝室の扉の前まで到着する。
カグツチは危機を伝えるために大きな声を出そうにも出すことが出来ない。
寝室の前で仁王立ちするカグツチを背に、ズケズケとスサノオは寝室に入っていく。
少しすると寝室からロスカを抱えてすぐに出てくる。
焦燥感、怒り、不安あらゆる感情がカグツチの中を駆け巡る。
そしてスサノオはロスカをカグツチの眼の前に下ろす。
カグツチの体は動かないが、汗だけは止まらない。
そしてスサノオが手のひらを前に出すとロスカに青い炎に包まれる。
カグツチは必死に体を動かすことを試みるが変わらず体は動かず、声も出せない。
ただ滝のように流れ落ちていく汗と涙だけが、その光景を物語っていた。
そうして燃え続けるロスカを見て表情だけは動くようになった。
カグツチの表情はみるみる悲しみと絶望に歪んでいく。
ロスカはみるみる燃えていき、灰色の灰へと変わっていく。
「あ、あぁ………」
そしてロスカはただの灰へと変わりスサノオもどこかに消えてしまっていた。
そしてようやく声が出るようになったカグツチは慟哭する。
「ああああああああああああああああっ!」
「おおっとと」
カグツチは勢いよく起き上がる。
そして激しく息切れし、涙と汗は止まらない。
カグツチは辺りを見渡して剣を探す。
「姫………。すみません。本当にすみません。」
涙を流しながら四つん這いになって剣を探す。
そして剣を見つけ掴んだところで、手を誰かに掴まれ止められる。
「大丈夫?悪夢でも見た?」
カグツチが顔を上げるとラムチがそこにはいた。
その近くにはロスカも座っていた。
「あれ………姫………?夢………?」
「うなされてたから心配したのよ。ともあれ良かった」
「ここは………?」
まだ目覚めきっていない中で辺りを見渡す。
辺りは茶色い木材で出来た部屋に、布団が敷かれている。
そして扉もあり、扉からは光が差し込んで見える。
外からはザバンザバンと言う水の音、そして何かカモメのような鳴き声が聞こえる。
床は縦に横に定期的に揺れ、ハーモニーを奏でている。
「一体ここは………?あ………」
カグツチは昨日の夜の1件を思い出す。
昨日の夜カグツチはスサノオと名乗る者に失神させられていた。
ちょうどそのタイミングで扉が開き外から人が入ってくる。
そこにはスサノオが立っていた。
「目は覚めたか?」
「………!」
カグツチの顔が歪む。
そして剣を直ぐ様抜く。
スサノオは手を出して制止する。
「よせ。我はお前とは戦わない。」
「ふざけるな!ふざけるな!」
「まぁそれもそうか」
スサノオは腰に携えた剣を床に置き、深く頭を下げる。
「手荒な真似をして申し訳ない。」
その瞬間にカグツチが剣を持って詰め寄る。
そして首元に剣を迷わず振り下ろす。
スサノオは頭を下げたまま素早く移動して躱す。
「ちょ!カグツチ!」
ラムチが声を上げるが、カグツチは血走った目をしてスサノオを見据えている。
スサノオは再び頭を下げる。
「すまなかった。姫と使用人は危害を加えずに無事に帰す。約束する。」
「お前………!」
カグツチの怒りは収まらずスサノオに向かおうとするが、ラムチがカグツチの服を引っ張り止める。
「!」
カグツチは勢いよく振り向く。
「ラムチさん!?離してください!こいつは姫を!!!」
「落ち着いて!すぐに危害を加えるつもりだったらもう既に手出してるわよ!」
ラムチは必死に抑えている。
「君にとっても、姫にとっても悪い話じゃない。約束する。」
「ふざけんな!」
「カグツチが来る前にスサノオさん、この部屋に来て説明してくれたのよ。目的と何のために私達を連れてきたのかを。ただの勘だけど悪い人ではない気がする。一回話くらいは聞いてあげましょ!」
「君が必要としている火の魔剣の話もする。」
「………!」
火の魔剣を聞いて少しずつ表情は元に戻っていく。
そうして怒りは残りながらもカグツチは理性を取り戻す。
「………話を聞きます。」
「感謝する。君にはこれからマガハラに来てもらう」
カグツチは怪訝な表情を浮かべる。
「………どうしてですか?」
「それが君の役目だからだ」
「………?」
カグツチは頭をかしげる。
「すみません。意味がわかりません。」
「まぁそれもそうか。………経緯から説明しよう。まずマガハラ王国はカグツチ。君のことを探していた」
「………………は?」
カグツチは全く理由が掴めず固まるが構わずにスサノオは続ける。
「君のことを探すために探し回っていたんだ」
「…………いや。………なんで?」
「当時生まれて間もない君は何者かに誘拐された。それを探すために国が一丸となって君のことを探した」
「………?」
「そうして長い間探してようやく最近、ある筋のものから君がクリオネッタで兵士をやっているという情報を聞いた。」
「………はい」
カグツチはひとまず聞き続ける選択をした。
「それを聞いた我々は氷の国に赴いたが、そこで氷の国の惨状を目の当たりにした。と同時にハッセルさんの出迎えがあった。」
「!」
カグツチはハッセルという名前を聞いて驚く。
「ハッセルさんに見舞いの挨拶をした後、君のことを聞いたところ、カグツチという兵士はいないとのことだった。」
「!!!ちょっと待ってください!」
「何だ?」
「何で爺さんとやり取りを!?ていうか何で爺さんは!?マガハラと名乗りましたか!?」
「当然だ。名乗るのが礼節だ。」
「………マガハラ王国の使者であることも?」
「当然だ。」
「………は?いや。何で爺さんは?マガハラと関わる絶好の機会なのに………?」
カグツチは考える。
「………すまない。続けてもいいか?」
「………はい」
一介の不安と不信が宿りつつ、カグツチは進行を了承する。
「もしかしたら上に立つ者として兵士の名前を覚えていないか、あるいは………隠している可能性もあると思い、他の兵士たちに聞き込みをするとカグツチという兵士は今遠征中だという話を聞いた。」
「………」
「ハッセルさんとも君は深く関わりがあるという話も聞いた。ハッセルさんは何かを隠している。直接的についてきてもらうには手間、そう判断をした我々は。遠征の終わりを国の付近で待っていたという訳だ。そこで深夜にこっそり君のことを連れ去る予定だった。改めて君達への非礼をお詫びする。申し訳なかった」
スサノオは深く頭を下げる。
「………」
カグツチは黙って震えている。
「………訳が分かりません。」
小声で呟く。
「………カグツチ。あのね」
ラムチが声をかけようとするが先にカグツチが爆発する。
「全く訳が分かりません!何故姫を巻き込んで!何で俺を連れ去ろうと!?爺さんは何でこのことを!?そんなこと一切話してくれなかったのに………!」
そのカグツチの怒りをスサノオは達観して冷静に見ていた。
その姿を悲しそうに見つめている。
「………まぁそれもそうか。君に来てもらった理由か。肝心なことを言い忘れていたな。」
スサノオは続ける。
「君は火の国の王族だ」
「…………………え?」
カグツチは困惑して固まってしまう。
「…………………は?」
スサノオは構わず続ける。
「君には火の国の王になってもらう」




