火の国編2話
カグツチが攫われた日の夜が明けた早朝。
辺りはすっかり明るくなっている。
トリトンは目覚める。
あくびをしながら対角にある二段ベッドに目線を向ける。
するとシューもすやすやと寝息を立てて眠っていた。
トリトンは起こさないように廊下に出る。
廊下に出ると車椅子に座ったアエリが待ち構えていた。
「トリトン様。おはようございます。」
「おはよう。しっかり寝れた?」
「はい。どこかに行かれるおつもりですか?」
「カグツチのやつ。しっかり休んでるかなって?多分ロスカ姫の部屋の前で護衛出ずっぱりかなって」
ジトッとアエリはトリトンをにらみつける。
「姫に会いに行くのですか?」
「いや。カグツチが心配でさ」
「………姫が心配なんじゃないんですか?」
アエリの小声のつぶやきにトリトンは首を傾げる。
「………私も一緒に行きます」
「ありがとう。じゃあ行こうか。」
そう言ってトリトンはアエリの車椅子を押して進んでいく。
そして姫の寝室の前へと到着するがそこにはカグツチはいなかった。
「あれ?カグツチいない。」
「いませんね」
「宿舎に戻って寝てるんかな?」
「あの姫狂いのカグツチさんがですか?」
トリトンはある違和感を感じる。
スンスンと鼻を利かせると、少し燃えたような煙のような匂いがすることに。
そして顔色を変えてドンドンとトリトンは強くドアをノックする。
「姫!?ラムチさん!?聞こえますか?」
「トリトン様!?」
しかし応答はない。
「ごめんアエリ。中を見てきて。」
そう言ってトリトンは目を瞑りながらドアを空けて後ろを向く。
「は?何を?」
「ごめん。緊急事態かもしれない。」
「は、はい」
そう言って車椅子を転がして寝室へと入る。
アエリは寝室を見渡す。
そして寝室のベッドとその下の布団を見てアエリは驚愕する。
「え………?あれ………?なんで?」
「アエリ?」
そこにはただベッドと布団があるだけで、誰も存在しなかった。
「姫もラムチさんもいません!」
大声で話しながら寝室から出てくるアエリ。
「ありがとう!すぐにハッセルさんに伝えに行こう」
トリトンはアエリの車椅子を抱える。
「わっ。」
急に持ち上げられ驚くアエリ。
「行こう!」
そう言ってトリトンは走っていった。
作戦室
ハッセルは座って考え事をしていた。
頭にはカグツチのことを思い浮かべていた。
そんなところにトリトンが大慌てで入ってくる。
そんなトリトンに驚きの表情でハッセル迎える。
トリトンは優しくアエリの乗った車椅子を置く。
「トリトン王子?どうされましたか?」
「カグツチ、姫、ラムチさんの3名が消えたようです!」
「………何?」
ハッセルは固まって止まらない。
「部屋から炎の匂いがしました。恐らくは何者かと戦闘したのでしょう。」
トリトンは机の上に広げてある地図に近づく。
「何者かは分かりませんが、状況証拠的に姫が目的かと!早く部隊を編成して」
「いや………目的は恐らく………カグツチだ」
「………え?」
沈黙と困惑がトリトンを包む中、外から他兵士がやってくる!
「ハッセル様!トリトン様!」
その兵士には何か紙が握られている。
「これを!」
そう言ってその紙を広げる。
その紙には大きくクリオネッタ王国の皆さまへと書かれており、下に本文があり、一同は本文に目線を向ける。
クリオネッタ王国の皆様へ
マガハラ王国第一王子のスサノオ·マガハラと申します。
この度はクリオネッタ王国が大変な状況の中、更にお騒がせしてしまい申し訳ありません。
マガハラ王国国王の名を受け、カグツチ様にはマガハラに同行いただいております。
加えて姫様とその使用人さまについてもご同行いただいております。
カグツチ様が火の魔剣を必要としておりましたので、少しでも早くそちらを実現出来るようにご同行頂くことになった次第です。
姫と使用人様は必ず危害を加えずにお返しすると約束致します。
またカグツチ様にとっても悪いようには致しません。
お返しするタイミングでまた正式にご挨拶させていただきます。
申し訳ありませんが何卒ご理解いただけますと幸いです。
マガハラ王国第一王子 スサノオ·マガハラ。
一同は困惑し固まる。
「何で律儀に手紙なんか………」
アエリが呟く。
「マガハラがカグツチを………。いったい何で………?………危害を加えないって信用できるのか………?穏便に済ませたいなら何でもっと日中に会いに来ない………?」
トリトンは呟いた後に考え込む。
そしてその少し後ハッセルを見つめる。
「………ハッセルさん。」
ハッセルは黙り込み考えている。
「………何か知っていることはありませんか?」
「………」
ハッセルは黙り込んでいる。
「………ともかくすぐにマガハラに向かいましょう。すぐに部隊を編成して!」
「トリトン様!!!」
アエリがすぐさま口を出す。
「マガハラに行く気ですか!?流石に許容出来ません!危険すぎます!」
「でもカグツチ達が!」
「危険すぎます!」
「友達のためなら危険でも行く!」
「どうせあの姫のためなんでしょう!!!」
アエリがまくし立てる。
「カグツチさんのためとか言って!婚約者様の姫が心配だから行くんでしょう!そうなんでしょう!愛しの姫君ですもんね!そうなんですよね!」
「アエリ!落ち着いて!」
「落ち着いてなんていられますか!」
アエリがポロポロと涙を流し始める。
「………私が!………風の国の一件で………どんなに………心配したことか………」
アエリの脳内には結果的には無事だったが風の塔で倒れていたトリトンが浮かび、震えながら話していく。
「副隊長として………、トリトン様の側近として、マガハラに行くのは絶対に認めません。」
「アエリ………」
「トリトン様が危険な目に遭う必要なんてないじゃないですか…………。」
涙声で話しているアエリの姿をトリトンは見つめている。
「………いや。チューン王国の方の手を煩わせはしません。」
黙り込んでいたハッセルが話し始める。
「………私がマガハラに向かいます」
「………いや。一人じゃ無茶です。」
「大切な………息子が攫われたんです。私が向かいます。皆さんの手は煩わせません。」
「しかし………」
トリトンはハッセルの目を見るが、ハッセルの意思は固そうであった。
アエリはトリトンの手を掴む。
その手は震えていた。
「………絶対に駄目です………絶対に………」
「アエリ………」
「おはよー」
あくびをしながらシューが部屋に入ってくる。
「なーんか朝からざわざわーざわわー。何かあったのー?」
「シュー王子」
「んー?なんかただならぬ雰囲気を感じる」
「実は………」
トリトンはシューに事情を説明する。
「なるほど。カグツチさん達が攫われちゃったと」
「はい。そうなんです」
「それでハッセルさんが一人助けに行こうと。アエリさんはトリトン王子には行って欲しくないと………。ふーん」
あ、と何か思いつくように顔を上げるシュー。
「じゃあ冒険がてら僕がついていくよー」
「な!?」
ハッセルが驚く。
「………お気持ちだけ受け取らせていただきます。ですがつい最近トラブルがあった手前力をお借りするわけには。」
「ハッセルさんだけだと危ないよー?助けられる保証もないんじゃない?」
「それは………」
「子供助けたいんでしょ?だったらなりふりなんて構わず協力要請すべし!僕は大丈夫だから」
「シュー王子!」
トリトンの呼びかけにシューはVサインを出す。
「………本当にすみません。ありがとうございます。よろしくお願いします」
ハッセル深く深くそれは深く頭を下げる。
「いいよー。じゃあマガハラに向かう前に………まずはハッセルさんが知ってることを教えてー」
一同の視線がハッセルを向く。
「………分かりました。」
「お、何か知ってるの」
「どこから話すべきか………。あいつは………カグツチは………マガハラ出身です」




