風の国編23話
オクシジーンはレアスサイド師団の中堅兵士の父の息子として生まれた。
オクシジーンの父はレアスサイドの一番の実力者であり歴戦の猛者であった。
ある子供の日の頃、街のハズレを歩いていると急に人攫いに攫われそうになる。
20名ほどの大盗賊団で、馬車に10数人の子供がすでに詰め込まれていた。
周囲から溢れる恐怖の連鎖に、当時まだ魔法も剣術も無かったオクシジーンは抵抗も出来ず、ただただ恐怖に涙を流すことしか出来なかった。
しかしその少し後にオクシジーンの父が現れることとなる。
オクシジーンの父はその盗賊たちを一瞬にして制圧。
子供達の誘拐を未然に防ぐ大活躍をした。
そんな圧倒的な姿に憧れ、オクシジーンは兵士を志した。
子供ながらに必死に訓練を続け、ついにはレアスサイド師団に入団することが出来た。
入団して分かったことは父の凄さである。
父はレアスサイド師団の誰よりも実力者であり、責任感や指揮能力も高く、周囲からの信頼も厚く、次期団長の最有力候補と言われていた。
実直に信頼と実績を積み重ねてきたことから、次期団長は父であるとだれもが疑わなかった。
そんな父の名声を聞くことがオクシジーンにとっては非常に誇らしかったのと、そんな父の名に恥じぬよう、七光りにならぬよう必死にオクシジーンは鍛錬を積んでいった。
そんなある日、現団長が引退することに伴い、次の団長が近々指名するという噂が立つ。
周囲からはついにオクシジーンの父が団長になるのかと噂が一気に広がる。
オクシジーンも外ではまだ分からないと思いつつも、内心では父が団長になることを確信していた。
しかしあるベテラン兵は言った。
「あいつは団長にはなれんよ」
顔も知らない人であったため、ただの嫉妬か?そういう評価の人もいるのかと思いながらも
そして団長発表の日。
現団長から発表された名は父ではなかった。
選ばれたのは現団長の近親者の男性である。
父は拍手を送っていたが、その横顔はどこかに寂しげであった。
その後父の体は加齢で衰えていき定年を迎えた。
決して指名された新団長は悪い人間ではない。
むしろ現場の若手リーダーとしてそこそこ活躍をしている人材である。
それに現団長は下の人間の資質を見抜いて育成をするのが非常に得意だ。
だからこそ将来性を見込んで指名したんだ。
きっと自分が父に贔屓目になりすぎていた点もあるのだろうし、団長の選出基準は色々とあるのだと。
そう思うことにした。
しかし心の奥底のもやもやは晴れないままあっという間に月日は流れていった。
オクシジーンは父と同じく実直に実績を積み重ねていき、次の団長になるならオクシジーンと言われるほどまでに信頼を得ていた。
ある日の訓練の場。
いつも通り誰よりも早く訓練場に来て訓練を続ける。
汗を描きながらも剣を等間隔で振るう。
その次に藁人形にコンビネーションの練習。
そしてそれを続けていくとほかの訓練メンバーも来るため、来たら指導と組手を行う。
そんないつも通りのルーティンの中で訓練場にある人が来る。
拍手をしながら張り付いた笑顔を浮かべ男が入ってくる。
「素晴らしい向上心ですね。」
オクシジーンはその男を知っている。
彼はファサード大臣。
オクシジーンと年はそこまで変わらないが、前団長に見初められオクシジーンよりも前に入団、その後オクシジーンの入団直前くらいに国の執行部に入り今は大臣をやっていると。
剣を振るのをやめてオクシジーンは敬礼する。
「おはようございます」
「えぇ。おはようございます」
ファサードは張り付いた笑顔のまま続ける。
「あなたとお話したいことがあるので少々いいですか?」
「?はい。ここでよろしいですか?」
「いえ。出来れば他の方に聞かれたくないことです。大臣室なんてどうですか?」
「………?分かりました」
その言葉に引っかかりを覚えるも2人は大臣室へと向かっていった。
オクシジーンは怪訝に質問する。
「お話とは何でしょうか?」
「いやー。これは雑談ですがね、生まれながらに役割が決まるなんて不公平とは思わないかい?」
ファサードはオクシジーンに問いかける。
「………そうですね。生まれだけを見るのであれば不公平かと思います」
「ハハハ。ですよねですよね。」
「すみません。ご要件は何でしょうか?」
「いや。国の優秀な兵士とお話がしたかったんですよ。あなたのお父様も非常に優秀でしたね」
「………!」
オクシジーンの怪訝な表情が少し緩む。
「ありがとうございます。自慢の父です。」
「団長になってもおかしくなかったのに、おかしいですねぇ。」
「………ありがとうございます。ですが現団長も悪い方ではありません。」
内心父の方が実力はあったと、そう思いながらもオクシジーンは取り繕った。
「ふーん。そうでしょうか?」
「………そう思います。」
「まぁいいや。あなたはレアスサイド師団の団長になりたいですか?」
「はい。目指しています。ですが私は自分の実力で団長になりたいと思っています。もし口を利く等を考えているただけているのであれば、心遣いだけで十分です。」
「あなたはレアスサイド師団の団長の選出基準をご存知ですか?」
「………?」
オクシジーンは考える。
「これまでの実績と育成能力、将来性、人柄などを総合的に評価したものだと思います。」
「ハハハッ」
ファサードは笑う。
それを不満そうに見るオクシジーン。
「違うのですか?」
「いやぁ青いですねぇ。評価基準を教えてあげましょう。」
「何ですか?」
「血筋を総合評価したものです」
一瞬理解できずに沈黙する。
「あぁ。簡単に言いましょう。団長の親戚や子供と決まってるのですよ。先祖代々。」
「………!」
オクシジーンの心の奥底に溜めていたモヤモヤが広がっていく。
ベテラン兵士の言葉や前団長の血縁者が選ばれたことから内心考えていたが、自分の中でそれは無いと自己完結していた。
「………それは本当ですか?」
「えぇ。本当です」
オクシジーンはそんなはずはないと大臣のデタラメだと思うようにしていた。
だが父を大切に思う気持ちがその気持ちを上回ってしまう。
行場のない怒りを表情に乗せて震えながら黙り続けるる。
そんな表情を愉悦満ちた表情で見つめている。
震えながらもオクシジーンは聞く。
「話はそれだけですか?」
「はい。私はこの不条理を変えたいと思っています。それだけ伝えたかった。私はあなたの味方です。」
「………先ほども言った通りもし口利き等であれば、お心遣いだけで大丈夫です。失礼します」
浮かんでいた怒りを理性で押さえつけコメントしてオクシジーンは部屋から出ていった。
ファサードは手を振って見送った。
その数日後、前団長と現団長の汚職が明らかになった。




