風の国編6話
一同は塔の前で話し合いをする。
「塔の中への突入が難しいですね」
「えぇ。ゆっくり進んでも勢いよく突入しても途中で風に飛ばされてしまう。これは誰かが、恐らくシュー王子が意図して塔に入れない様にしているのかと。状況証拠的に魔剣の力でしょうね」
「そうですか」
一同が唸って知恵を振り絞っている中で、パーズが提案をする。
「この塔に火をつけるしてしまうのはどうでしょう?」
「え?」
俯いて考えていたトリトンが頭を上げる。
「魔剣であれば火災ごときで傷つくことはないでしょうし、」
「いや。中に人がいますよ。」
「火が付けばさすがに降りてくるでしょう。」
「さすがに危険すぎますって」
「今回の任務は魔剣の確保。そのためには多少の危険は必要でしょう」
そのやりとりを聞きながらカグツチは塔を見上げる。
(これほどの大きさの建造物に火をつけられるか?そもそもこの塔石だろうから、火をつけるのもかなり難易度は高そうだ。)
「………自分が説得してきます。」
トリトンの発言に一同がざわめく。
「いやいや」
「無理に決まってますよ」
「やめたほうがいいですよ」
辺りから様々な声が聞こえてくる。
「恐らくシュー王子が国の転覆を目的としてるなら既に国を襲ってるはず。でもそれをやってないということは、多分何かしらの理由があると思うんです。だから自分が説得してきます」
いやいや、危険すぎるといった反対の声が周囲から聞こえてくる。
パーズたち傭兵三人衆も集まって内緒話をしている。
カグツチも提言する。
「少し危ない気がします」
「大丈夫!もし戦闘になってもやられる気はしないし」
「………これを」
カグツチがポケットから複数の樹の実を渡す。
「相手に投げればブラフくらいにはなるかと」
「うん。ありがとう。護衛よろしくね。」
トリトンは樹の実を受け取りポケットに仕舞う。
「トリトン王子。フロマもついていきますよ」
「うん。ありがとう。」
いやいや行かせないよといった声が風の兵士たちから聞こえてくる。
その中でハワーはパーズ達に視線を送り、内緒話を見ていた。
その視線を流し目で見た後に傭兵三人衆が話を終えて、パーズが話し始める。
「………分かりました。私とヒーポも同行します。それ以外のメンバーは外で待機しましょう」
風の国の兵士たちはその呼びかけに渋々了承する。
「ありがとうございます。では行きましょうか。」
4人は一同の視線を背に塔の中へと入った。
入るやいなやトリトンが息を大きく吸い込み大声で話す。
「シュー王子!突然すみません!私チューン王国第一王子のトリトンと申します!少しお話をさせていただけませんか?」
トリトンの声が門の中に反響する。
しかし反応はない。
「こちらは戦闘の意思はありません。どうかお話を聞いていただけないでしょうか?」
「こっちも意思はないよー。」
塔の上の方から気の抜けた声が反響して聞こえてくる。
ん?とトリトンが首を傾げる。
「魔剣を使って国を転覆しようとかは?」
「ないよー」
トリトンはさらに首を傾げる。
「トリトン様。」
横にいたパーズが声をかける。
「トリトン様。僭越ながら敵の言うことに耳を傾けすぎないほうが」
「………」
「トリトンさんは何でここにー?」
「風の国に依頼を受けてこちらに伺いました」
その後少し間が空き無言の時間が生まれる。
「どうかこちらのお話を聞いていただけないでしょうか?」
「………上がってきていいよー。そこで話そー。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ待ってるから」
そこでシューの声は止んだ。
4人は塔を登っていく、そして途中のフロアに差し掛かったところで人影が見えた。
緑髪で緑色に煌めく剣を持った少年がそこには立っていた。
「やほやほー」
ニコリと微笑み4人に手を振る。
「トリトンさん一人じゃないんだ。」
シューは剣を構える。
「あ!待ってください。」
トリトンは魔剣を足元に置く。
「我々に戦闘の意思はありません。どうかお話を聞いてください。」
フロマも続けて武器を足元に置いた。
しかし傭兵の2人は武器を置かずに臨戦態勢を取り続けている。
「そっちの二人は違うみたいじゃない?」
「パーズさん。ヒーポさん」
「相手は臨戦態勢を取り続けているので」
パーズはナイフを構えてシューを見据えている。
「トリトンさん」
「はい。何でしょうか?」
「トリトンさんってさ。多分人がすっごい良さそうだよねー」
「はい。自慢の隊長です。」
フロマのコメントに照れてトリトンは頭をかく。
「ありがとう。皆のおかげでいつも頑張れてるよ。」
傭兵2人はそのやり取りに冷ややかな目線を向ける。
「いい信頼関係だねー。誰からどんな任務を聞いてきたのー?」
「ファサード大臣から国王と姫の奪還と魔剣の奪還の依頼を受けました」
「えー。あいつの言う事信用しない方がいいよ。」
「え?」
「トリトン様。先ほども言いましたが敵の言うことに耳を傾けないように」
「………過ぎないよう善処します」
「………まぁいっか。それで?」
「国王と姫はご無事なのですか?」
「うん。多分今はお話ししてるんじゃないかな?」
「………シュー王子として特に謀反や反乱の意思はないのですよね。」
「うん。全く」
「それでは魔剣と国王と姫をお返しいただけないでしょうか?魔剣と国王と姫が戻ればきっとシュー王子にも特にお咎めもないかと。」
「うーん。父さんテーちゃんの安全は?」
「?」
トリトンは首を傾げる。
「えーっと。国に戻れば相応の安全は確保されるかと」
「安全じゃないんだよねー。それがさ」
トリトンはさらに首を傾げ、怪訝な表情を浮かべる。
「えーっとそればどういう?」
「トリトン様。敵の錯乱にあまり耳を傾けすぎないように。」
「魔剣と国王と姫は渡さないけど、かわりに国は襲わない。だからこっちに構わないでってあの大臣に伝えてもらえる?」
「そうは行きませんね」
後ろからパーズが口を挟む。
「魔剣はこの国の国宝です。反逆者が持ち出すなど言語道断。」
「反逆ねー。反逆は向こうじゃねー?」
「それに魔剣の強大な力は一国の大きなアドバンテージだ。それを個人が持ち出すのは国として許されません。」
「ふーん。そっちの方が許されないと思うけどー?」
トリトンとフロマの二人の心の中には、この煮え切らないやり取りに何やらもやもやが宿っていた。
トリトンは口を開く。
「シュー王子。すみません。今風の国が大変な状況になっています。」
「うん。それは大臣のせい」
「国の方々は国王を待ち望んでおられました。どうか国王と姫について身柄を渡してもらえませんか?」
「うーん。無理!危ない!」
シューは体の前に手でばってんを作る。
「そもそも何で魔剣と国王と姫を連れ出して?」
トリトンははってした表情を浮かべる。
トリトンの頭のなかに一つの仮説が生まれた。
「えー。それはもちろん。」
その瞬間、ナイフを逆手に持ったパーズがシューに突進する。
その挙動を見てシューが魔剣を振るうと、人が吹き飛ぶほどの強風がパーズに向かって吹く。
その強風に後ろの3人の髪や服も揺れる。
その強風を受けて近づけずに後ろへバックステップして着地するパーズ。
「パーズさん!まだ話が!」
「これ以上煮え切らない会話をしても時間の無駄です。分担して魔剣と国王と姫の奪還に努めましょう。ヒーポ」
「ポッポー!」
ヒーポの足が太くなり、猛スピードで階段を駆け上がり始める。
その光景を尻目に見るシュー。
その後先ほどのようにヒーポの前に強風が吹き荒れる。
風のため上に進むことができず、その場で駆け足を続けている。
ナイフを逆手に持ったパーズがシューへと再び突進をする。
それをシューは今度は魔剣で受け止める。
膠着状態の後、空いている方の手でパーズがアッパーを繰り出す。
シューは後ろに跳んで躱すも、ヒーポの前にあった風の壁はなくなる。
障壁がなくなりヒーポは上へと駆け上がっていった。
「やば。」
シューは階段へ向かおうとするが行く先をパーズが食い止める。
「行かせないですよ。」
パーズは風により後ろに何度も飛ばされるが、すぐに体勢を立て直してすかさず突進を続けている。
「フロマ!上に登って!国王と姫の防衛を!」
「はい!」
トリトンの掛け声とともに、フロマは床においていた剣を手に取って上へと駆け上っていった。




