水の国編15話
トリトン達は洞窟の中を走る。
洞窟の上側には蓄光性の苔や蛍によって光っている。
そして所々には大昔に洞窟の犠牲になった、風化しかけた白骨死体が点々と転がっている。
ずっと水に埋まっていたためか風化が著しく、原形が分からないようなものもあった。
また洞窟の先からは断続的に破裂音が響き渡り、2人の耳に耳鳴りがする。
「いったい何の音だ………?とにかく急がないと」
「トリトン様。魔剣の在り処はご存知なのですか?」
「昔教えてもらったんだ。」
「はい。」
「全部真ん中」
「………!?全部真ん中………ですか?」
アエリは驚きの表情を浮かべ、トリトンの顔を見る。
そして小声で呟く。
「………それは隠してると言えるのでしょうか?」
「うーん。多分王たるもの真っすぐ突き進み続けろって言うメッセージなのかな?」
真剣な表情を浮かべて語るトリトンの顔を少しの間見つめ続けた後に、アエリは思い出したかのように前を向く。
「………」
「とはいえ流石に盗賊がこの在り処を知ってるとは思えない。分岐もたくさんあって道も入り組んでるらしいし。盗賊よりも先に魔剣を手に入れよう!」
「はい。」
洞窟の奥へと変わらず、急いで進んでいく。
するとやがて、かなり広い道へと到着する。
大型船が難なく通れるほどの広さになっており、
辺りには、今まで存在していた屍に加えて、人の頭のサイズから手のひらサイズまで形も大きさも多様な岩が転々と転がっていた。
「………大分道が広くなったね」
「………そうですね」
再度洞窟内に破裂音が響く。
音は入り口付近の時よりも確実に大きく近くなってきている。
「急ごう!」
「はい!」
2人は再び洞窟の中を進んでいく。
しかし洞窟には事前に聞いていたような分岐はなく、道は広くなるばかりで様々な形の岩が転々と転がっていた。
大型船が2大すれ違っても、波が来てもかなりゆとりを持って運航できるほどには洞窟の中は拡がっている。
岩が落ちていない箇所には変わらず屍が点々と存在している。
後ろを少し向いても、外の光は見えないくらいには洞窟のなかを進んできていた。
「アエリ?」
「はい」
「俺達かなり進んでるよね」
「………そうですね。」
「洞窟は入り組んでるって話だったよね。」
「………そうですね」
「………ここまで全く分岐がない」
洞窟の奥は見渡す限り一広い品道が続いておる
2人の額に冷や汗が滴る。
「………入り組んでるという伝承自体が嘘だったのか、月日の流れで洞窟の分岐が崩れたのか………それとも」
2人は洞窟の奥を見据える。
「………魔法?」
トリトンがつぶやくとまた、大きな音がする。
かなり音の距離は近く、砂煙が上がっているのが見えた。
「近い!」
「急ぎましょう!」
近くからはドスンドスンと巨人が走っているかのような音と、バキバキバキと岩が剥がれ、崩れていくような音が断続的に起こっていた。
そしてさらに進んでいくと何かが見えてきた。
目の前には大きな人の形をした岩の塊のようなものが、洞窟内を颯爽と走って進んでいた。
2人はその姿を見て固唾をのむ。
そして分岐に入る前に、岩に触れることなく、爆音とともに洞窟の分岐は崩れていき、道は広い一本道となっていた。
そして残骸が人の形の岩の塊に取り込まれ、大きなくなっていく。
取り込まれなかった岩の塊は辺りに散乱していた。
足はそこまで速くはなく、2人の方が速かった。
トリトンとアエリはその姿を見るや、剣を抜く。
そして岩の塊の頭上から雨のごとく水が降り注ぐ。
「!?冷た!」
突如洞窟に降り注いだ豪雨により岩の塊は濡れて、変色する。
岩の塊の足元に水たまりができ、その水たまりは氷となる。
岩の塊に付着した水分も同様に氷となって、白く霜ができる。
「!?」
ツルンと縦に滑り、岩の塊は一回転する。
しかし着地の前に周囲にあった岩が地面を覆っていき氷の道はすぐになくなってしまう。
岩の塊は一回転した後にドスンと着地し、そのまま前へ一直線に走り続ける。
岩の塊はジャンプして勢いよく振り向く。
人型の岩の塊は顔の部分だけが空いていて、そこにはつり目の人相の悪いの顔だけが出ている。
「あ?邪魔すんな」
「!!」
岩の巨人が手を振るうと、手の部分の大きな岩が分離し、2人の元へ飛んでくる。
トリトンとアエリはすかさず横に跳んで、岩を躱す。
「オラオラオラ」
続けて岩をトリトンの方へ飛ばし続けるも、2人は躱し続ける。
その躱している姿を見て、岩の塊がドスンドスンと音を立てながら、走って近づいてくる。
トリトンは岩の塊を睨みつけ、剣を構える。
岩の塊はその大きな巨体を振るって、トリトンめがけて拳を水平に繰り出す。
しかしトリトンはしゃがんだ後に、剣を斜めに立てて、その攻撃を斜め上に受け流す。
そしてトリトンは飛び跳ね、岩の眼前へと迫り、
露出している顔をめがけて剣を突き出す。
しかし岩の塊の体の一部から、岩が動き、顔の部分に装着され、接触音とともに剣は防がれてしまう。
そして空中に浮いたトリトンを岩の塊はその両手を使ってサンドイッチにしようとする。
トリトンは剣を、岩の塊に突き立てて、棒高跳びのように岩の塊の頭上に飛んでその攻撃をかわす。
頭上に移動したトリトンに対して、地面から岩の塊が複数飛んでくる。
それをすべて的確に剣で弾いて、洞窟の奥側へと着地する。
アエリは手前側、トリトンは奥側で、岩の塊を挟み撃ちにしている。
岩の塊から顔の部分の岩が外れて、再び顔が露出する。
岩の塊は2人を交互に見て臨戦態勢を取っている。
「お前らは何者だ?盗賊か?」
岩の塊は盗賊というワードを聞いて顔をしかめる。
「あ!?敵に教えるわけねーだろう?」
「街を襲ってる盗賊の仲間か?」
「だから教えるわけねーだろう。お前は………トリトン王子か。街を守らなくていいのか?」
「やっぱり盗賊の仲間か。目的は何だ?」
盗賊というワードでさらに顔をしかめる岩の塊。
「あぁ!?この洞窟に来てるって事は分かってんだろ?この能無し王子が!」
アエリがむっと眉をひそめて睨みつける。
「んっ!?」
急に岩の塊が咳込みつばを吐く。
吐いた唾は普通の唾とは思えないほどに、シュワシュワと音を上げている。
「トリトン様は誰よりもお優しく聡明なお方です。トリトン様の質問に答えてください。私は貴方の口の中に毒を生成できます。」
岩の塊はニカッと笑う
「嘘だな!即効性の毒ならすぐに魔法使ってるはずだ。それに敵にペラペラ理由なく能力のことは話さねぇ。」
「我々は慈悲深いのです。あなたのような下っ端の盗人でも、我々は予告をした上で葬りますので。毒で口の中が爛れてしまうのはなかなかに辛いですよ。」
「誰が盗賊だこの野郎!!!」
岩の塊はアエリめがけて拳を振り下ろすが、アエリは難なく躱す。
トリトンはアエリに向けてウィンクで合図をする。
すると同時にトリトンとアエリは岩の塊へと突進する。
岩の塊は首を動かし、2人が近づいてきていることを認識する。
「剣は岩じゃ斬れねえよ!この能無し共が、」
2人は岩の隙間から微妙に覗いている黒い衣服を見据える。
そしてそこを剣を突き出す。
それを腕を出して防ぐが、すぐさま2人の同時攻撃が岩の塊を襲う。
縦横無尽に繰り広げられる2人の連続攻撃をかろうじて腕を出したり岩を動かしたりすることで、攻撃は防いでいる。
しかし歯を食いしばり、しかめ面を見せる。
「ちっ!めんどくせぇ!何だか寒いし」
岩の塊は体を大きくひねる。
「イライラすんなぁ!」
岩の塊はひねった反動で、腕を振り回して攻撃を行う。。
2人はそれを剣で受け流して後ろへ下がる。
2人が後ろへ下がったところで、岩の塊が両手を上に上げる。
「降参だ。」
ニヤケ面で言うその言葉に、トリトンとアエリはその言葉に耳を貸さず臨戦態勢を取り続けている。
しかし次の瞬間ゴゴゴと大きな音が鳴る。
「なんて言うと思ったかよ!!!」
岩の塊が満面の悪い笑みを浮かべ、手を勢いよく地面につけると、轟音とともに2人の頭上からかつて洞窟だった岩たちが次々と落ちていった。
洞窟の中の広間が崩落を開始していた。




