水の国編9話
水の魔剣は街から10分ほど離れた洞窟の奥底に厳重に保管されている。
洞窟に置いておくことでのセキュリティが心配されるが、存外セキュリティは厳重である。
まず川の流れ着く先が洞窟となっており、洞窟内は水浸しの状態である。
泳ぎのプロであってもまともに進めないほどの激流で、ボートなどの専用の設備や何かの魔法がなければ洞窟を進むことすらできない。
次にそちらによって例え進むことができたとしても、洞窟内は迷宮のごとく道が入り組んでおり、迷ったら最後元の場所に戻ることはできない。
かつてのチューン王国国王が理由は不明だが、命令しこの保管方法に決定したという。
王は洞窟の奥に魔剣が眠っているという噂を流し、冒険者や盗賊たちは幾度も挑戦を続けてきた。
だがその者たちの多くは白骨死体と化して洞窟内の水の中で静かに眠っている。
あるものは言った。
あそこには水の悪霊が住んでいると。
そんなことから魔剣探しに加えて、肝試しスポットとして有名となり、行方不明事件が多発。
事態を重く見たチューン王国は、魔剣の箝口令及び洞窟前に駐屯地と関所を設けることによる警備体制を確保。
これにより行方不明事件は劇的に減り、箝口令が敷かれ早100年、人々の記憶からもこの洞窟のこと、魔剣のことは綺麗さっぱり消えることとなる。
チューン王国内では魔剣について一部の兵士や学者を除き知られることは無くなった。
「とまぁこれがチューン王国において、俺が知ってる魔剣の歴史」
一同はあぜ道を駆ける。
先頭をアエリが運転する馬車が走り、その後ろをゼストスとクリオスが運転する馬が追走する。
カグツチ達は馬車の中に乗って待機している。
アエリは拗ねた不機嫌そうな表情で馬を運転する
一同は気まずそうな雰囲気を醸し出しながら進んでいった。
「カグツチ、ロスカ姫、ラムチさん。本当にごめんなさい。巻き込んでしまって。」
「………いえ。お気になさらず。こちらも混乱して失礼なことを。申し訳ございません。」
トリトンは立ち上がり荷台の先頭に向かう。
そしてアエリに話しかける。
「アエリも本当にごめんね。」
アエリからは返答が来ない。
しょんぼりとしてトリトンは元の場所に戻って座る。
気を遣ってラムチが話しかける。
「きっとアエリさんなら許してくださいますよ。」
「ありがとうございます。………でも俺いつもアエリのこと怒らせてばっかりなんです。」
「なるほど?」
「アエリは俺のことを思って言ってくれてるのに、いつも良くない選択をしちゃう。可能な限りみんな幸せになってほしいのに、良くない方向に向かうことが多いんです。今日ももっとアエリの話を聞いてあげればここまでアエリの気を悪くしなかったのに」
「今日は別理由もありそうですがね」
「えっと何か?」
「いいえ何も」
ラムチはフフッと笑う。
「人間なんてのはそんなもんですよ。私はメイドでしたが割ったお皿の数は数知れず、紅茶に砂糖と間違えて塩を入れたこともありましたね。人間完璧じゃないということです。」
「自分だってロスカ姫を守れなかった護衛なのに悠々と今この場にいるんです。」
カグツチが自分で言っておいてどんよりする。
「まぁまぁ。」
「………そういえばカグツチさ。聞きたかったんだけど。」
「はい。何でしょうか?」
「もしかしてカグツチってロスカ姫のこと好きなの?」
ラムチは手のひらを口に当てる
「えっ」
カグツチが少し咳付く。
「えっ!?………ほんげほん!」
アエリも咳払いをする。
トリトンはアエリの方を向く。
「アエリ?大丈夫?体調悪い中作戦に参加してもらってごめん。」
「いえ………。大丈夫です。」
「な、何でこんなときにそんなことを?一大事の最中ですよ?」
「こんな時だからさ、ちょっとでも明るい話題で話したくてさ」
無邪気に笑うトリトン。
「………ひ、姫にとって私は従者の一人です。全く持ってそういった関係ではありません。」
「………そこまでは聞いてないけど。カグツチはロスカ姫のこと好きなの?」
「いや………。それは………」
トリトンは構わず続ける。
「これは俺の推測なんだけどさ。カグツチが手を握った時、ロスカ姫が涙を流したって話したじゃん?」
「は、はい」
カグツチはこの先の会話に嫌な予感を覚えつつ恐る恐る返事を返す。
「もしかしたらカグツチがロスカ姫にもっと何かをすれば何かが変わるんじゃないかな?」
カグツチの脳裏に一瞬ロスカとキスをしている風景が浮かぶ。
直後カグツチは我に返って首を激しく横に振る。
「な、何をですか??姫に気安く何かをするなど………」
あらあらとラムチも楽しそうに反応を眺めている。
アエリが馬車の外から先ほどよりも少々明るいトーンで話しかける。
「ハグなんてどうでしょう?各国のコミュニケーションではハグが主流の国もあります。」
「それは流石に滅相が過ぎます!」
「ならキスはどうですか?童話では王子様のキスでお目覚めになるケースもありますよ。合理的かと思います」
「それは本当に滅相が過ぎます!姫の意思を無視してそんな行動なんて取れません!」
カグツチはラムチに目線で助けを乞う。
ラムチがしょうがないなという表情を浮かべ口を開く。
ただ同じタイミングでトリトンも口を開く?
「落ち着いたら」
「………もしカグ」
「あっごめんなさい。ラムチさんお先にどうぞ」
「あらごめんなさい。また落ち着いたらまた皆でゆっくり話しましょうか。皆で」
少し微笑むトリトン。
「………そうですね。皆で戻ってまた話しましょうか。これはカグツチ尋問だな」
アエリも馬車の外で何やら悪い表情を浮かべていた。
バツの悪そうな表情を浮かべるカグツチ
「と、取り敢えず作戦の話をしましょう!」
「あぁ。そうだな。さっき話した通り魔剣が保管されている洞窟の前には駐屯所がある。そこで特に異変がなければ問題なし、駐屯所の人手が足りなければ防衛として何名かをここに待機させ、残りのメンバーはすぐ街に戻って防衛任務に加勢する。もし何かしら異変があれば洞窟内へ突入し魔剣の保護に当たる。洞窟は激流に阻まれてるけど、俺の魔法で川を凍らせて突入する。」
「そういえばトリトン王子の魔法って?温度を変化させられるのですか?」
「あぁ。水の温度を変化できる。水を氷にしたり、逆もまた然り」
「なるほど。何もないところから水が生まれてるのは?」
「実は目には見えないけど、空気の中にも水分が含まれてる」
トリトンが手のひらを出すとその少し上から水が降ってくる。
「空気中の水は冷やすと水滴になるから、そうやって水にしてた感じかな。訓練場はジメジメしてるから水も生み出しやすい。」
「なるほど」
「カグツチの魔法は?」
「私は触れたものに火を点けることができます。」
「なるほどね。だから樹の実とか木刀が燃えてたのか。」
「話を戻しましょうか。洞窟内は入り組んでるのですよね?地図とかはあるのですか?」
「一応………道が分かる情報があるにはある。」
「なるほど………。それはどういう情報ですか?」
「………言い伝えだね。ただしばらく洞窟には誰も入ってないから、古すぎて正しいかは分からない。」
「………そうですか。」
馬車が急に止まる。
「こ、これは?」
アエリが困惑しているような声を上げている。
トリトンとカグツチは荷台から急いで降りて、アエリの方に駆け寄りる。
そこにはアエリが呆然と前の景色を眺めている姿があった。
ゼストスとクリオスも先頭で呆然とその光景を眺めている。
カグツチとトリトンがその方角を見るとあったはずの関所や駐屯所がボロボロに崩れ、大きな岩がそこら中に転がっていた。




