水の国編7話
トリトンとカグツチは膠着している。
そんな様子を周りの面々は固唾をのんで見守っていた。
「火の魔法使いか」
「中々実力はあるが、いかんせん相性が最悪だな」
周りからはヒソヒソと色んな話が聞こえてくる。
そんな様子にラムチは心配そうな表情を浮かべ、アエリはニヤニヤと笑っていた。
「氷の国クリオネッタ王国の出身で。火の魔法使いですか。相当珍しいですね。ただ残念ながら相性が悪すぎますね。」
アエリはラマチの表情を見るが、親が子供を心配するような深刻な表情に、少しバツが悪そうな表情を浮かべる。
「………まぁ多少は実力があることは認めてもいいでしょう。」
しかしラムチは聞いておらず、表情を苦くする。
カグツチは混乱していた。
主な要因としては炎が消されてしまったこと、何もないところから水が生み出され、水が一瞬にして消えたり、固まったりしていること、そしてカグツチ自身戦闘経験自体はそこまで豊富ではないことである。
(相手は水の魔法を使い。俺の魔法とは相性最悪だ)
そんな未知の状態にハッセルの言葉を思い出す。
「魔術師同士の戦闘において最も重要なことは相手とそして自分の魔法を知ることだ。一見不利に見えたとて、どんな魔法にも穴はある。人間が使うのだ。完璧な魔法など存在しない、というのが俺の持論だ。可能な限り相手の魔法を知り、それの対処を考えるのだ。自分の魔法については訓練で様々なことを試し知っていくしかない。何がともあれ鍛錬だな」
そう思い出し、自問自答をして相手魔法の分析を行なう。
(………相手の魔法は水を生み出し、消したり、凍らせたりしている。恐らく………水は温度によって沸騰したり凍ったりする。ということは温度変化?であればなぜ虚空から水が生み出されているのか。)
自問自答を続けるカグツチ
(俺の魔法は触れたものを燃やす能力。だが濡れているものなど火をつけられないものには火をつけられない。今まで試していなかったが凍った木刀も燃やすことが出来ないようだ。)
辺りを見渡す。
カグツチの視界には石のようなもので出来た床と、壁際に並んでいる兵士たち、そして剣や盾といった訓練道具も周りに点々と存在していた。
(周りに燃やせるものはない。となるとこの場で使えるのはこの樹の実だけか。)
腰に携えた布袋より樹の実1粒取り出す。
(まずは影響範囲を見定める。)
そしてトリトンに向けて投げる。
樹の実は燃えだし、トリトンへと向かう。
すると先ほどの木刀と同じように、虚空からが水が出現する。
それが樹の実にかかり、火は消えてしまう。
水は下に落ち、小さく水しぶきがはねる。
すかさず次は10粒程度の樹の実を取り、上方向に投げる。
その後追加で5個の樹の実をトリトンの正面にに投げる。
空中で樹の実は着火し、上方向と正面から火の玉がトリトンへ迫る。
(同時に火の雨。これならどうなる?)
同時にカグツチは後ろ足で床を蹴って、トリトンとの距離を詰める。
トリトンは降り注ぐ火の雨に目も暮れず、カグツチから目を離さずに木刀を構える
後少しで火の玉が着弾するタイミングで、室内にも関わらず冷たい雨が降り注ぐ。
炎は消えて樹の実の燃え殻だけが地面に落ちていく。
直線的に投げた樹の実の炎も消え、トリトンの体に当たって下に落ちる。
冷たい水がお互いの体に当たる。
お互いの服や木刀は濡れるが、カグツチの布袋は位置的に真上に脇もあるため、そこまで濡れることはなかった。
炎が消えると、雨は程なくしてに止んだ。
一度着地した後にもう一度地面を蹴って距離を詰める。
そして距離が近くなったタイミングで木刀にて攻めるが、トリトンは下がりながら的確に攻撃を捌いていく。
カグツチは進みながら連続して攻撃を、トリトンは下がりながら防御をしており、水たまりを踏んで水しぶきと音が響く。
攻めている途中カグツチは何かに引っかかり、滑ってバランスを崩し、前のめりに倒れそうになる。
下を見ると床に落ちた水が凍り、氷の床となっていた。
カグツチの靴を巻き込んで水たまりは凍ってしまっている。
見事にカグツチの周りだけが凍っており、トリトンの周りは特に凍っていなかった。
どうにか足を動かそうとするが、氷の強度が中々高く、抜け出すことができない。
トリトンはその隙を見逃さず。突きを繰り出す。
それを見て咄嗟に布袋から乱雑に樹の実を取り出す。
乱雑に扱ったせいで何粒かは地面に落ちてしまう。
そして地面にばら撒く。
ばらまいた樹の実はすぐに炎となり、靴を凍らせる氷は溶けていった。
トリトンは表情を変えずに一度突きを引っ込める。
そしてその後また燃える樹の実の上から水を出現する。
そして火は消えて、焦げた樹の実だけが残る。
それを見てカグツチは再び突きを繰り出す。
その間は僅か1秒にも満たなかったが、わずかな火ににより氷が少し溶け、動くことが可能となったため、わずかに残った氷の部分を無理やり足の力で外す。
バキという氷語砕けるが音がした。
だがその時には突きが体の前に来ており、突きをかわすには間に合わず、咄嗟に躱そうとしたところ左肩に木刀が当たる。
木刀の衝撃で後ろに吹き飛ばされてしまう。
体勢を低くし、足を後ろに出してブレーキ代わりにすることで、倒れることは防ぐ。
そこに走って距離を詰めるトリトン。
床の氷は全体的に溶け、再度水たまりとなっている。
トリトンの走りで水たまりの音が響く。
再度距離は詰まり、トリトンは突き、切り返して袈裟斬り、また切り返して振り下ろしと、滑らかで綺麗な太刀筋でカグツチに連続攻撃を加える。
カグツチはそれを下がって防ぎながら思考する。
(水の出現は分からないが、水が自在に凍ったり溶けたり………となると相手の魔法はやはり温度変化。相手は樹の実を見てなくても水を出せる。見ることが魔法の発動条件ではない。また恐らくトリトン王子が意図して魔法を発動しているように見られるなら)
カグツチは攻撃を受けつつ、また突きが来るタイミングで今度は横に躱す。
そして一撃だけ牽制で木刀を首元に振るう。
トリトンはそれも防ぐが、トリトンを見ながら、距離を取るために勢いよくジャンプして下がる。
水たまりを踏んだので、水しぶきが跳ね上がる。
そして下がっている途中で、布袋から大量の樹の実を上空にばら撒く。
トリトンとカグツチの直線距離の真上に、ちょうどよくほぼ等間隔に樹の実が浮く。
その後一度着地し、布袋から樹の実を一粒取り出し強く握りしめ、また距離を取るためにジャンプして下がる。
トリトンはそれを見て同じく地面を蹴って距離を詰めてくる。
水たまりはトリトンが蹴る頃に一瞬にして消える。
そのためカグツチのジャンプよりトリトンのジャンプのほうが勢いが強かった。
上空の樹の実は燃やして再度火の雨を作るが、同じタイミングで冷たい雨が訓練場全体に降り注ぐ。
一部火が消えたものも消えないものも入り乱れ、下に落ちてくる。
カグツチは木刀を下げた状態で着地する。
カグツチの着地と同タイミングで、トリトンも木刀が届く距離に着地し、そしてカグツチが構えるよりも前に、トリトンの木刀が首元を捉える。
手を伸ばせばお互いの頬に触れることができる程度の距離感。
互いの上空にはまだわずかに弱い火の玉が降り注ぐが、冷たい水の雨の方が勢いは強かった。
カグツチはその刹那、握りしめていた樹の実をふわりとトリトンに投げる。
樹の実は空中で燃えて、ゆっくりと顔へとトリトンへと近づいていく。
ちょうどトリトンが樹の実に覆いかぶさるような形となっております、冷たい雨は当たらない。
また小さい火の玉が一部トリトンにも降り注ぐ。
(恐らく同時に2箇所は雨は降らせない。プラス完全に相手の意識外)
咄嗟の不意打ちの火の玉にパッと気づき、トリトンは顔をずらす。
しかしジュッと火の玉が頬をかすめる。
またずらしたタイミングで木刀の軌道も僅かに上向きになり、側頭部に直撃するような軌道へと変化する。
同時に強い冷たい雨により頭上の火の玉も消えた。
カグツチは上向いたトリトンの木刀を、手足を地面につけて四つん這いになって躱す。
そして四つん這いのまま、カグツチは木刀を内側から外に振るい、それがトリトンの首元を捕らえる。
(獲った!)
しかしカグツチの動きが鈍くなる。
カグツチの服に染み込んだ雨が凍ってしまい、剣を振る動きが阻害されてしまう。
(服が!?凍った!?)
またトリトンは空振りした木刀を切り返し、カグツチの首元を狙う。
お互いの木刀が首元へと近づいていく。
トリトンは真っすぐ真剣な表情でカグツチを見ている。
(まずい!?躱せない!せめて相打ちなら!)
カグツチは体ごと捻り無理やり木刀を首元へと到達させようとする。
お互いの首元に木刀はほぼ同時に首元へと到達する。
そして到達する瞬間に扉を開く音と訓練上内に大声が響いた。
「大変だ!!!」
お互いの木刀が首元の寸前のところで止まる。
燃えカスとなった木の実が次々と床に落ちていく。
そしてトリトンはカグツチの横に着地をし、カグツチは体を捻った勢いで仰向けに倒れてしまう。
カグツチの服の氷は解除されて、一瞬で乾く。
そして床の水たまりもまた一瞬で無くなった。
「チューン王国全体に盗賊の襲撃が!!!付近の村にも被害が及んでる!動けるものは全員増援に!!!」
入って来た兵士は、息を切らせながら大声で叫んだ。




