↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新ジャンル開拓!?『異世界転相――現異区域。それは現代と異世界を生きる街――』  作者: 佐武ろく
第一編『終焉社』第一章『探偵事務所モノクル』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/14

第3話 『ハイクロスタウンの外』1

昼下がりのハイクロスタウン。

 大通りを、澪は一人歩いていた。片手にハンバーガーを持ち、頬張りながら、行き交う人々を眺める。

 石畳を這う陽射しはやわらかく、風には焼けたパンと油の匂いが混じっていた。露店の前で、獣人が果物を選んでいる。少し離れた場所では、杖を持った老人が呪文を唱え、店先の看板をふわりと宙に浮かせていた。その隣を、スマートフォンを耳に当てた人間がすれ違っていく。

 魔法と、現代の技術。その二つが、何の違和感もなく同じ通りに溶け込んでいる。

 澪にとっては、もう珍しい光景でもなかった。


「……ん」


 ポケットの中で、端末が震える。取り出して画面を見た。

 ミレシアからだった。


「もしもし?」

『澪さん? 今、どこにいますか?』

「えっと……駅に向かってるところ。どうしたの?」

『でしたら、駅前で待ち合わせましょうか』

「分かった」

『堂真さんも一緒です』

「堂真さんも?」

『はい。それでは、また後で』


 通話が切れる。

 澪は残っていたハンバーガーを一口で片付け、紙袋を近くのゴミ箱へ放り込んだ。


「……さて」


 駅へ向かう。

 しばらく歩くと、遠くからギターの音が聞こえてきた。駅前の広場。人の行き交う一角で、山口二郎がアコースティックギターを抱え、歌っている。

 相変わらず、観客の数など気にしていないようだった。足を止めて聴く者もいれば、視線もくれずに通り過ぎていく者もいる。山口二郎はそれを気にする様子もなく、淡々と弦を鳴らし歌い続けていた。


『漂う霧みたいな不安を黒い鉛筆かペンでノートに自由に書く』


 澪もその場に立ち止まる。

 やがて、一曲が終わった。

 山口二郎が顔を上げる。視線が澪を捉えた。


「……今日も頑張ってますね」

「いつもどおり、誰もいないけどね」

「きっと、立ち止まって耳を傾ければ、この良さが分かりますよ」

「ありがとう」


 もう一曲くらい、聴いていこう。

 そう思っていると、


「澪」


 少し離れた場所から、声が届いた。

 振り返ると、そこに二人が立っている。


「もう一曲聞きたかったですけど、すみません」

「仕事、頑張ってね」


 山口二郎に軽く手を上げてから、澪は二人のもとへ歩いていった。


「堂真さん。ミレシアさん」

「待たせたな」


 軽く手を上げたのは、大柄な男――堂真健二だった。短い黒髪に、精悍な顔立ち。太い腕と広い肩幅は、シャツの上からでも長年鍛え続けてきたことが分かる。それでいて、その目つきには、不思議と人を安心させる穏やかさがあった。


「お待たせしました」


 長い髪を揺らし、穏やかな顔立ちのミレシア・ノアノールが柔らかく微笑む。わずかに尖った耳と、ゆるやかな曲線を描く体つき。ロングスカートの裾から覗く足取りにまで、どこかのんびりとした空気が滲んでいた。


「いえ、さっき来たところです」


 三人の後ろでは、山口二郎が変わらずギターを弾いている。

 澪は一度だけ振り返った。

 目が合う。二郎は微かに口元を緩めながら、歌い続けていた。

 澪も小さく笑って、前を向く。


「それで、今日は何の依頼なの?」

「少し、頼みたいことがあるんです」


 ミレシアはそう言って、手に持っていた小さなメモを見せた。


「キノコ採取に行きたいんです」

「……キノコ?」

「はい。ハイフェイズにしか生えていない種類でして」


 澪は少し考える。


「それ、ギルドに頼む依頼じゃ?」


 ハイフェイズでは、魔物の討伐や素材の採取、護衛、探索など、様々な仕事をギルドが請け負っている。わざわざ探偵事務所に頼むような仕事には、思えなかった。


「普通なら、そうなんですが……」


 ミレシアが少し困ったように笑う。


「昔から知っているお婆さんに、頼まれまして」

「ああ、なるほど」

「その方、昔から薬草を扱っていまして。そのキノコが、どうしても必要らしいんです」

「それなら、断れないか」

「まあ、そういうことだ」


 堂真が言った。

 澪は一度大きく頷いた。


「分かりました。じゃあ行きましょう」


 三人は駅前を離れ、街の外へ向かった。大通りを抜けると、建物の数が少しずつ減っていく。代わりに、街の外周を囲うような巨大な壁が見えてきた。

 その中央には、大きな門がある。石造りの重厚な門柱には、王家の紋章が刻まれ、左右には門番の詰所が並んでいた。

 そこでは街の外へ向かう人々が、絶えず行き交っている。商人らしき獣人が、荷車を引いていた。冒険者風の一団が、武器を携えて門を抜けていく。

 反対側からは、採取したらしい薬草や魔物の素材を積んだ荷車が戻ってくる。

 街の中とは、少しだけ空気が違う。石と土の匂いに、獣の汗と革の匂いが混じっている。


「街の外か」


 澪は、門の向こうを見やった。

 その先には、街の中からは想像できないほど広く、森や山が続いている。


「そうですね」


 ミレシアが頷いた。


「クロスタウンの周辺には、まだ手つかずの場所も沢山ありますから」

「……こうして見ると、やっぱり広いな」


 澪は、遠くまで続く森を眺める。


「ロー側より、ずっと広いんだっけ」

「ええ。ハイフェイズ空間の方が、ずっと広いらしいですよ」

「不思議だな。一体どうなってるんだか」


 澪は首を傾げた。

 世界が重なった。それは知っている。けれど、どうしてこういう形になったのか――その仕組みは、まだ分からないことばかりだった。


「外には、まだ知らない場所も多いですからね」


 ミレシアが、森の向こうを見ながら言う。


「魔物がいる場所もありますし、私たちがまだ見つけていないものも、きっとあります」

「……まだまだ、不思議なことだらけってことか」

「そういうことですね」


 ミレシアは穏やかに笑った。


「冒険は、男のロマンだろ?」

「堂真さんは、好きそう」

「それじゃあ、今日は冒険ですね」

「よーし、楽しむか!」


 三人は門を抜けた。視界が、一気に開ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。