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婚約破棄されたので勉強に専念したいモブ令嬢ですが、何故か攻略対象のヤンデレ王子たちが私にだけ執着溺愛してきて全然集中できません  作者: NIKE


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第二十七話 嫉妬するならそう言ってください

「次は、ここじゃなくても?」


 イヴァンの視線が、私の手の甲から顔へ上がる。


「次はありません!」


 私は即答した。


「少なくとも今は!」


「今は、ね」


「そこだけ保存しないでください!」


 また学習された気がする。


(この人、話が通じるのに記憶力が良すぎるんだよな……)


 でも、嫌だと言えば本当に止まる。


 だから私は、まだイヴァンを安全認定していた。


 ――その翌日。


 魔法実技の授業を終えた私は、廊下の窓際に立つ黒髪を見つけた。


「シオン殿下?」


「ああ」


「どうしたんですか?」


「待っていた」


「私を?」


「ああ」


(王太子が待ち伏せを堂々と申告した)


 しかも周囲の学生と侍従が、妙にこちらを見ている。


「またベルティエ嬢だ」

「殿下が授業の終わる時刻まで……?」


(やめて! 王太子が私の時間割を把握してるみたいに見えるから!)


「何か非常事態ですか?」


「違う」


「では何です?」


 シオンは一拍置いた。


「イヴァンのことだ」


(出た)


 最近、私の周囲には王子しかいないのか。


 私は教本を抱え直した。


「イヴァン殿下が何か?」


「奴には気をつけろ」


「…………」


 ぴく。


 私の眉が動いた。


「どういう意味ですか?」


「そのままだ」


「私の交友を制限するんですか?」


「違う」


「じゃあ、誰と付き合うか口を出したいんですか?」


「違う」


「だったら何です?」


 シオンが黙った。


 私の中で警報が鳴る。


(来たか!? ついに監禁王子の本性!? 『あいつとは会うな』とか言い始める!?)


 もしそうなら即撤退。


 私は自由が好きだ。


 誰と話すかも、誰と出掛けるかも、自分で決める。


 シオンがどれだけ頼れても、そこを越えたら駄目だ。


「殿下」


「ああ」


「私は、イヴァン殿下と話したいから話しています」


「分かっている」


「祭りにも一緒に行きました」


 黒い瞳がわずかに細くなる。


「知っている」


「なんで!?」


「噂になっている」


(噂ーーーー!!)


 そうだった。


 最近の私は、学院内で勝手に肩書きを増やしている。


『シオン殿下の庇護下』

『アルノー殿下が自ら指輪を直した令嬢』

『ディートリヒ殿下の最高級品を断った女』


 そして今や、


『イヴァン殿下と祭りで手をつないでいた女』


(私の履歴書、恋愛欄だけ豪華すぎる!! 学業欄も見て! 魔法制御の成績上がったから!!)


「……それで?」


 私はシオンを見る。


「噂を聞いて、イヴァン殿下と会うなって言いに来たんですか?」


「違う」


「じゃあ」


 ここまで言って、私は気づいた。


 シオンの機嫌が悪い。


 いや、顔はいつも通りだ。


 声も低くて静か。


 でも、いつもより明らかに言葉が少ない。


(まさか)


 私は半分冗談で言った。


「嫉妬?」


 沈黙。


「…………」


「…………」


(え)


 シオンが私を見る。


「そうだ」


 私の思考が止まった。


(認めたーーーー!?)


「え、待ってください」


 私は一歩下がった。


 シオンが一歩近づく。


「待って待って待って! 普通そこは否定するところでは!?」


「なぜだ」


「だって嫉妬って!」


 恋愛じゃん。


 ほぼ恋愛じゃん。


 私の喉から変な音が出た。


「やっぱり帰ります!」


 くるっと背を向ける。


 でも二歩で行き止まった。


 正確には。


 壁へ伸びたシオンの腕に、進路だけ塞がれた。


「…………」


 私の身体には触れていない。


 手首も掴まない。


 腰も抱かない。


 片手を壁へ置いているだけ。


(壁ドンなのに人権配慮型!!)


「殿下」


「触ると怒るから触らない」


「その学習は正しいです!」


「だからここにいる」


「進路は塞いでますけど!?」


「話が終わるまでだ」


「そういうところです!」


 文句を言いながら顔を上げる。


 近い。


 思ったよりずっと近い。


 黒い髪。


 まっすぐな鼻筋。


 私を逃がさないみたいに見つめる黒い瞳。


 でも本当に触れてこない。


 壁についていない方の手すら、私へ伸ばさない。


(なんで触らない方が色気あるの!? 反則では!?)


「何の話をしたいんですか」


「イヴァンだ」


「また?」


「お前があいつと笑っているのは気に入らない」


「…………」


 直球。


 あまりにも直球。


 心臓が、どくん、と鳴った。


「祭りで手をつないでいたのも」


「それは人混みだったからです!」


「分かっている」


「手の甲にキスされたのも――」


 シオンの目が止まった。


(あ)


(言わなくていい情報までセルフ開示したーーーー!!)


「今の忘れてください」


「無理だ」


「ですよね!」


 逃げたい。


 でも触られていないから、本気で嫌なら腕の下をくぐれば出られる。


 そのことが分かっているせいで、逆に私はその場にいた。


「……殿下」


「ああ」


「嫉妬するだけなら勝手です」


「そうか」


「でも、だからって私が誰と会うか決めるのはなしです」


「ああ」


 即答。


「イヴァン殿下と会うなとも言わない?」


「言わない」


「…………」


(何それ)


 腹が立たない。


 むしろ困る。


 これでは私が逃げる理由がない。


 私は視線を逸らした。


「そんな……」


 声が小さくなる。


「恋してる〜みたいな顔しないでください」


 言った瞬間。


 空気が止まった。


 シオンの黒い瞳が、まっすぐ私へ落ちる。


「恋ならしてるが」

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