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婚約破棄されたので勉強に専念したいモブ令嬢ですが、何故か攻略対象のヤンデレ王子たちが私にだけ執着溺愛してきて全然集中できません  作者: NIKE


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第二話 第二の人生は魔法学院で

 婚約が消えてから三日。


 私は、思ったより元気だった。


 いや、正確には。


「もう知らん! こうなったら自分で食っていける女になってやる!」


 と、変な方向に吹っ切れた。


 だって仕方ない。


 幼い頃から、この人と結婚するんだと思って生きてきたのに、相手が新聞記事の女に心を奪われて全部白紙になったのだ。


 ならもう、白紙は白紙で好きに書けばいい。


(よーしエリナちゃん、第二の人生スタート! 男? いりません! 王子? もっといりません!)


 そんなわけで私は、母の勧めに乗って王立セレスタ高等学院の半年間の高等教養課程へ入ることにした。王子に会うためではない。あくまで、勉強するためだ。


 出発前。


 侍女のノアに髪を整えてもらいながら、私は鏡の中の自分へ言い聞かせた。


「いい? エリナ。今日からは勉強」


「お嬢様、ご自分に話しかけてます?」


「人生の方針確認よ。恋愛しない。男に人生を預けない。結婚は当面考えない」


「数日前まで結婚予定でしたものね」


「傷口に塩を塗らないで」


 ノアがぷるぷる肩を震わせた。


 笑ったな。


 まあいい。


 私だってもう笑える。


 新聞記事に負けた女、エリナ・ベルティエ。


 ここからは自力で生きます。


 学院へ向かう馬車の中、膝の上には分厚い案内書。


 外交。

 領地経営。

 法学。

 会計。

 語学。

 魔法学。


 ページをめくるたび、胸の奥が少しずつ軽くなる。


 あれ。


 これ、普通に楽しそうでは?


 今まで私は「結婚したら彼の領地で役に立てるように」と勉強していた。


 でもこれからは違う。


 私のために勉強していい。


 誰かの妻になるためじゃなく、私が私の人生を食いっぱぐれずに生きるために。


(……なんだ。ちょっといいじゃん)


 窓の外に、白い石造りの巨大な校舎が見えた。


 尖塔。

 噴水。

 広い庭園。

 各国の旗が風にはためいている。


「うわ……」


 思わず身を乗り出す。


 きっれい〜〜!


 なんというか、これまでの人生に急に別ジャンルの表紙がついたみたいだ。


 今日は新規編入者の歓迎を兼ねた四王国交流式典があるらしい。


 式典会場の大広間には、すでに大勢の学生や貴族が集まっていた。


 高い天井。

 巨大なシャンデリア。

 磨かれた床には光が映り、楽団の弦楽器が華やかな旋律を奏でている。


 給仕が運ぶ皿には、小さな肉のパイや、蜂蜜を塗った胡桃の菓子。


 一つだけいただいた胡桃菓子は、表面がぱりっと香ばしく、中はねっとり甘かった。

 噛むと砕けた胡桃の香ばしさが蜂蜜の甘みと混ざり、思わず頬がゆるむ。


「んん……おいしい」


 幸せ。


(学院、最高では?)


 勉強できる。

 お菓子がおいしい。

 婚約者はいない。


 自由。


 完璧。


 最高。


 ――そう思ったのは、たぶん三分くらいだった。


「四王国よりご留学中の王族方をご紹介いたします」


 司会役の声に、会場がざわめく。


(ああ。母が言ってた王子様たちね)


 別に興味ない。


 私は残りの胡桃菓子を幸せに噛みしめながら、なんとなく壇上を見た。


 一人目。


 長い白金色の髪をした、絵画から抜け出したような青年。


 綺麗。


 ……ん?


 どこかで見たような。


 二人目。


 短めの赤髪。

 長身。

 ツリ目。

 微笑んでいるだけで「完璧」という文字が後ろに浮かびそうな男。


(……あれ?)


 三人目。


 灰色がかった銀髪。

 柔らかく笑う、見るからに優しそうな青年。


 胸の奥が、ざわっとした。


 待って。


 知ってる。


 私は、この顔を――。


 最後。


 黒髪の男が壇上へ出た。


 長身。

 無表情。

 静かに会場を見渡す鋭い目。


 その顔を見た瞬間。


 頭の奥で、何かが爆発した。


『君が俺を愛さなくても構わない。ここにいてくれればいい』


 夜の塔。

 鍵の掛かった部屋。

 窓辺の少女を後ろから抱きしめる黒髪の王子。


 美麗スチル。


 画面の前で転げ回る前世の私。


『重っっっ! 最高!! シオン様好き!!』


「…………」


 全部、思い出した。


(いやああああああああああああ!!!!)


 いかん、危うく声に出すところだった。


 ……乙女ゲーム。


『四王子の花嫁 ~あなたに永遠を捧ぐ~』


 白金髪のアルノー。

 恋した女の指輪へ、宝物みたいに口づける芸術家王子。


 赤髪のディートリヒ。

 「君は完璧だ。高価な召し物を身に纏え」と微笑みながら埋もれるほどの贅沢品を貢いできて、完璧な王太子妃へ導いていく王子。


 優しいイヴァン。

 ちょっとだけ優柔不断そうなところはあるけれど、束縛も監禁もしない、四人の中では一番まともだった王子。


 そして。


 攻略の果てにヒロインを監禁する、シオン。


(待って待って待って! 画面越しだから「重い愛最高♡」とか言えたんだよ! 現実で監禁はただの事件だから!!)


 しかも私は?


 エリナ・ベルティエ?


 そんな名前のキャラ、いた?


 いない。


 たぶん。


 少なくとも攻略対象の婚約者でも、悪役令嬢でも、親友でもない。


(モブだーーーー!!)


 いや、待て。


 それならゲーム本編に関わらなければいい。


 攻略対象に近づかない。


 半年後に来るヒロインへ全部任せる。


 そうだ。


 ヒロイン。


 そこで私は、ここ数日ずっと脳内で呪……いや、思い返していた新聞の少女を思い出した。


 柔らかな髪。


 人助けの記事。


 名前。


 リリア。


「…………え?」


 喉がひくっと鳴った。


 原作ヒロインの名前も。


 リリアだった。


(待って)


(じゃあ、あの新聞の女の子が原作ヒロインってことは)


 私はまだゲームが始まってもいないのに。


 原作ヒロイン本人と会ってすらいないのに。


(私――ゲーム開始前から、原作ヒロインの余波だけ食らって婚約破棄されてるんですけど!?)


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