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捕り物

 小さな常夜灯が、ずらりととめられた社用車の形を辛うじて照らしている。そこへ一台の黒い車がやってきた。車から降りると運転手は鞄を手に裏口を開けた。先ほど潮井が確認した扉だ。周囲を伺ってから運転手は中へ入って行った。

 暗がりの中、スマホのライトだけが足元を照らしている。だが、迷いなく進んで行き、ふと光が上に移された。照らされたのは金庫であり、運転手は二つの錠を手早く外して扉を開いた。中から取り出した小ぶりな箱の蓋を上げた、今。

「えッ⁉」

 フラッシュに襲われ、運転手は箱を落とした。加えていくつも物が落ちた音がして、その原因は白っぽい宝石によるものだとほどなくしてついた照明によって明らかになった。

 咄嗟にしゃがみこんで宝石をかき集めた運転手の顔は本松だった。必死に頭を動かして周囲の状況を把握しようとしている。暗闇で狙った写真は出来が悪かったが、この一連の動きを収めた動画があれば十分だろう。潮井は録画を止め、代わりに録音を開始して物陰から出た。

「その鞄、何入ってますか」

 小さな叫び声を上げて本松は潮井を見つけた。無意識か、鞄を抱きしめている。落ち着かせようと視線を合わせるためにしゃがんだ。声のトーンを少し上げて、ゆったりとした呼吸のペースに合わせて尋ねた。

「鞄の中身は、ダイヤモンドですか?」

 本松は俯いて「そうです」と答えた。緊張がほどけていく。ぐったりと座り込んでいた本松の代わりに散らばった宝石を元に戻していると、少し姿勢を持ち直した本松がこちらを見ていた。

「どうかしました?」

「あ、それ、片付けていいんですか……警察呼ぶのに」

「呼びませんよ。決めるの俺じゃないんで」

 金庫の扉を閉めながら上司へ報告することを話した。

「それか本松さんが自分で伝えてくれますか? それなら私もいくらか気が楽になるんですが」

でも、と言ってから本松は黙り込んだ。それから少し考えた様子で「ありがとうございます」と頭を下げた。

「いえ、そういうのじゃないんで」

 潮井は礼を拒否してから、立ち上がれるようになった本松を連れて店舗を出た。本松の車が駐車場を出ていくのを見届けると、社用車の一台に明かりが付いた。後部座席には弥田が寝転がっていて、窓を叩くとドアのロックを外す音がした。助手席に乗り込んで潮井は振り返った。

「帰るよ。降りて」

「えー歩きなんだぁ……」

「会社の車やから」

 先に潮井が降りて後ろのドアを開いた。ごねる弥田の脚を引っ張り出して地面に着かせると、やっと起き上がって歩き出した。

「逃げたというか逃がしたというか」

 本松の車が去っていった方を弥田は惜しそうに眺めた。

「罠のために嘘までついたのに」

 潮井が笑いながら「なんだよ」と聞くと「もったいな~ってね」と諦めたように前を向いた。

「ちゃんと手柄だったぜ? 自分で持って行きゃいいんじゃないの」

「捕まえるのは業務外」

「だったら、やりすぎだよね」

 自分の役目を考えればその通りなのだが、そうじゃない思いを伝える言葉を探していると弥田にスマホをねだられた。証拠写真が見たいというので、バックアップが出来ていることを確認して渡した。変な操作をされないか見張るように同じ画面を見る。金庫から箱を取り出している本松を収めていた。

「疑ってるだけって俺は嫌。そんなこと思わないのが一番いいけど、今回はな。だから自分が納得したかっただけ!」

 潮井の言葉を弥田はふーんと流した。大して刺さっていないことに少しだけ肩を落とした。


 翌日、書き上げた報告書を部長に提出した。ぱらぱらと目を通し、途中で「あ」と声を上げた。

「この人ね、申告があって自主退職になったそうだから、その旨私が書き足すね」

 見せられたのは本松のページだった。

「この件もあって職員たちも敏感だろうから、まッできるだけでいいから気を付けて」

「かしこまりました」

 本松へ言ってしまったことが頭によぎりながらもお辞儀をして退室した。同じことをしないとも限らないので忠告を胸に留めてデスクに戻る。すると、積んでいたファイルが減っている気がした。一通り目を通すと確かに無いものがあった。

「今いい?」隣の社員が頷いたので続ける。「俺の仕事、どっかに回った?」

「住吉さんが」

 そう言われて抜かれた仕事を思い出す。住吉にも経験のある広報誌の作業だったので、後で確認するだけに留めることにした。

だが、住吉がやけに手伝ってくれているのが気になった。「気を付けて」と言われた後だからか、ただの気遣いだろうと断じることが出来ない。モヤモヤを深い呼吸で一旦落ち着かせて仕事にとりかかった。

 早めに帰る社員もいる夕方、潮井は資料室にこもった。今日は本店にある不正対策課のデータを書き写すことにしていた。大変そうなところからプロに任せていこう。

さくさくと手を動かす中に「住吉」という文字が入った。部下の住吉が犬山銀行勤務の姉がいると言っていたので親族だろうか。念のため、部下のことも一緒に調べてもらうか。作業をしながらわずかに空いている脳みそで考えて、弥田に相談すればいいやと思った。

 次の朝、事務所に着いて昨日の資料を渡すと、弥田は歩きながら冒頭をめくった。そのまま階段を登り始めたので靴が脱ぎかけの状態で尋ねた。

「あッ俺、帰って良さそう?」

「ん? いやいや」弥田が振り返った。「来客あるから。急ぎでなければリビングで待ってて」

 言われた通りに部屋へ行き、飲み物をもらって座った。十五分ほどして戻ってきた弥田は、椅子に置いていた潮井の荷物をどけて隣に腰掛けた。

「誰が来るの」

「本松さん。潮が撮った写真、そのままにしておくとトラブルの種だしね」

 そこまで考えていなかった。弥田に謝ると、バイトのことだからと笑った。責任を取ってくれるらしい。しばらく寄り集まったまま時間をつぶしているとインターホンが鳴ったので、弥田が玄関に向かい本松を招き入れた。客は入ってくるなり深いお辞儀をして、潮井は気まずさを感じつつ挨拶として礼を返した。弥田はお茶を入れに行ってしまったので、椅子を勧めた後は沈黙が続いた。


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