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お久しぶり同級生

「失礼します」

「ご相談でしょうか?」

 声をかけて入ると、受付のカウンターにいた人に声をかけられる。そうだと答えると、窓がブラインドで覆われた個室に通され「こちらでお待ちください」と受付の人は席を外した。そこから三分しないうちに入ってきた別の人が「担当の~」と言って名刺を差し出してきたので、潮井の名刺と交換した。

「犬山銀行総務部長様のほうからご連絡いただいております。本日はお見積りご希望とのことですが、どういった内容でしょうか」

 話が早いな、と思いながら部長への説明と同じことを伝えた。

「かしこまりました、少々お時間いただきますので……」

 今度は五分ほど待つとチョコレートとお茶がやって来て、十五分たつと担当が戻ってきた。

「こちらお見積書になります」

 高いなぁ。最悪、経費で落ちない可能性を考えると眉が下がってしまう。潮井の表情を読み取ったのか担当は「ぜひご検討ください」と言った以上は勧めてこなかった。

「ありがとうございます、本日はこちらで失礼いたします」

 だが、潮井が礼をして立ち上がろうとしたとき「あ!」と何か思い出したように引き止められた。

「すみません最後に……潮井様の調査を担当した前任者が先日退職いたしまして。前任者の方から潮井様ご本人のお問い合わせがあれば対応させていただきたいとのことなのですが、前任者の連絡先をお渡ししてもよろしいでしょうか?」

「あ、あぁはい」

 見積額で頭がいっぱいの中、追加で名刺を受け取って潮井は興信所を出た。素直に出しては通りそうのない金額を抱えてひとまずレンタカーに乗りこむ。水を飲んで落ち着いてから前任者の名刺をみると、探偵事務所の代表と肩書が添えられた名前に見覚えがあった。潮井が連絡先を知っている大学の同級生と同姓同名だった。ためしに「弥田倒也、職業は探偵」とメッセージを送ってみた。何が言いたいんだこの文は、と自分で思っているうちに既読が付いた。さすがに補足を、と文字を打ち始めたとたんに今度は着信がきた。

「あー久しぶり」

 二コール目で応答した。どんな呆れ声がするか、もしくは笑われるか。弥田の第一声はどちらとも違った。

「オレの名刺、貰ってくれてありがとね」

「きも……」

 弥田は「まあまあ」と笑った。次に「飯食った? ファミレス来れる? 場所送るね!」と畳みかけられて電話は切れた。大学時代もこうして予定が決まったことを思い出した。ティラミスでも食べればいいかと指定の店へ車を走らせた。

 店内は空いていて入ってすぐに弥田と目が合った。店員に待ち合わせだと告げて席に着くと、テーブルの上にはメニュー表が広げられていた。

「頼んだ?」

「ドリンクバーかける二」

 ピースしながら答えて、弥田はメニューに視線を戻した。潮井がりんごジュースを汲んで帰って来てもまだ悩んでいた。

「もういいよ、俺がそっち食うからどっちも頼め」

 十五分ほどしてチキンステーキとドリアが並んだ。一口大に切り分けたチキンが弥田の口に消えていくのを静観しながら「どういうこと?」と尋ねてみる。

「名刺? 本当たまたまオレの元職場に仕事が来ただけ。オレがやりますねーとは言ったけど。そっちは?」

「俺も仕事……あんま、中身言われへんけど」

 ガラガラとはいえ人はいるし、聞かれて文句は言えない。

「じゃ、この後は潮の車でドライブね。密室で話聞かせてもらいましょ」

「俺の車ちゃうねんて」

 とはいえ、内心期待するところがあった。弥田の個人事務所のようなのでお友達価格があるかもしれない。潮井の報告書は弥田作なので出来も間違いないはずだ。

 食後、割り勘をして店を出ると弥田は助手席に乗り込んできた。勝手にナビへ目的地を入力している。地図を見るに住宅地のようだが「構わず行って」とシートベルトを締めていた。

「なあ、仕事の話をしたい気持ちは山々やけど、まずは外部に漏らさないって約束してもらっていい?」

 車を出してすぐに潮井が言うと、弥田はタブレットを取り出した。

「先に書類作るよ。内容確認してサインくださいな」

「運転中だって」

 すると、隣から機械音声が流れ始めた。単語の途中で間が入ると弥田が読み直し、到着まであと三分という所で音が止まった。

「以上になりますけど、確認したいところは?」

「大丈夫」

 車が止まり赤信号になったところで、弥田はタブレットを差し出してきた。指で枠をはみ出す大きさの記名をして、潮井はハンドルに手を戻した。

「目的地に到着しました」というナビ音声のあとも弥田の口頭案内で進んだ。車幅の百七十パーセント程度の広さの道路を曲がって「停めて」と言われたのは一軒家の玄関脇だった。

「ここは?」

「オレの事務所~」

 降りていった弥田についていくと表札には弥田とあり玄関の鍵も開き、弥田倒也あての郵便物もあった。中に入ると階段もあったが、一階のリビングに案内された。

「ひとり暮らし?」

「事務所だって」

 住んでいないらしい。ご自由にと言われた冷蔵庫からペットボトルを二本取って、潮井は弥田の斜め前にテーブルを挟んで座った。

「で、仕事の話どうぞ? 盗聴器の有無を調べてからでもいいよ」

 それは辞退して、興信所の見積書と共に三度目の話をした。弥田は事情を知っているからか相槌を打ちながら見積書で飛行機を折っていた。

「それ、めちゃめちゃにしたってことは値段の相談に乗ってくれるってことで」

「うん。ちなみに通常価格はそこより高いからね? そのうえでなんと! タダでいいよ」

 小さく「条件付きね」と続いた。

「条件は?」

 潮井が言うと、雇用契約書が差し出された。

「うちのアルバイト」

 依頼料の額を賃金として考えると、とんでもなく好条件だ。残業残業、に加えてさらに労働と思うと一瞬頭が鈍ったが、一人でも結局やるのだから二人になるだけありがたいと了承した。

「具体的な業務内容は? 俺は何すればいいの」

「まず運転手かな。あとは都度都度、指示するよ。それと、短期アルバイトくらいの期間拘束するつもりだから、一店舗分と言わずにどんどん回してくれていいから」

「まじか助かる」

 こき使いたい気持ちが垣間見えた気もするが、こちらも都合よく話を進めようとしていたのだからお互い様だろう。

 翌日、部長を捕まえて弥田の事務所へ依頼することを話した。承諾を得たものの、提出する報告書が一通増えた。さらにデータをコピーして持ち出してはいけないとのことで、仕方なく速記で書き写すことにした。一目では分からない形にしてくれと言われたときは過去の自分の気まぐれに感謝した。

 出勤から昼まで資料室にこもり、出てきたときには住吉が「トラブルですか?」と寄ってくる事態になった。

「いや? いやいや」

「そうですか……とりあえず、こちら一つ私がもらいますね」

 デスクに積まれたファイルが住吉によって低くなった。とはいえ残りの仕事は滞りなく進めなければ。午後はデスクに張り付く決意をして、潮井は昼食に出かけた。


「おまち!」

 目の前に置かれた素うどんの代わりに、速記で書いた書類を渡す。弥田はそれを端に寄せて油揚げの乗ったうどんをすすり始めた。

「俺の具は?」

「ン、勝手にやっていいよ」

 キッチンにあった七味と揚げ玉と乾燥わかめを放り込んで、潮井はテーブルに戻った。

「次の休日、朝一でここ集合ね。持ってきてくれたやつちゃんと調べておくから」

「ああ……もしかして車必要?」

「基本車で来てよ。領収書ちゃんと出してね」

 業務っぽくなってきたなと同級生が作ったうどんを食べながら思った。

 職場に戻ると、意外に集中できた。もう少しと言ったところまで片付いたので、残ってついでに部下に渡った仕事にも目を通した。

 休日、私服でレンタカーに乗って弥田の事務所にやってきた。インターホンを押して中に招かれると、今日は二階へ案内された。艶のある木製の扉を、弥田が手に筋を立てながら開ける。

「防音だから閉じてくれる?」

 言われた通りにすると「個人情報とか機密性の高い話はここでするんだ」と教えてくれた。


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