第7話:21世紀のコンビニで成人向け雑誌をねだられ、シングルベッドで添い寝を提案された
大浴場から戻って早々、私の下着をニヤニヤしながら眺めていた岩崎軍曹の顔面に二度目の物理ビンタを叩きつけたものの、激しい怒りと不条理さで頭がどうにかなりそうだった。
狭いビジネスホテルの客室にこのセクハラ亡霊と二人きりでいるのが急にバカらしくなり、私は財布とiPhoneを掴んで、頭を冷やすためにホテルの近くにあるコンビニへと向かうことにした。
夜の釧路駅前の冷たい空気を吸いながらアスファルトを歩いていると、私のすぐ左側を、足のないカーキ色の軍衣が当然のような顔をしてついて来た。自動ドアをくぐって21世紀の明るいコンビニの店内に入ると、軍曹はまるで我が物顔で陳列棚を物色し始めた。
呆れる私の目の前で、彼はカチコチの強面を真剣にさせながら、日本酒の四合瓶、缶チューハイ、そしてスルメだけでなく、現代のスナック菓子であるポテトチップスまで私の買い物カゴの中に次々と放り込んでいく。完全に私のお金をあてにしている。
レジへ向かおうとしたその時、軍曹が私のロゴTシャツの袖を控えめに引っ張り、少し離れた本棚のコーナーを指差した。
『……佐倉殿、すまんが、あの棚にある雑誌も一枚、買ってはくれまいか?』
軍曹の指の先を見た瞬間、私はカッと顔が赤くなるのを感じた。そこに並んでいたのは、ビニール紐で厳重に縛られた、男性向けのあからさまにいやらしい成人向け雑誌だった。
「……は!? そんないやらしい雑誌を、二十歳の女子大生にレジへ持っていけって言うの!? バカじゃないの、絶対に無理!」
『頼む、後生だから! 俺は28年間、おなごのそういう写真というものを一度も見たことがないのだッ!』
「ふざけるな! 幽霊のくせに煩悩の塊か!」
私はイライラを爆発させながらレジで会計を済ませ、結局雑誌だけは突っぱねてホテルの部屋へと戻った。
靴を脱ぎ捨ててベッドの端に腰掛け、コンビニで買った缶チューハイのプルタブを荒々しく開けて一気に喉へ流し込む。アルコールの炭酸が、逆立った神経にジリジリと染み渡る。
明日には、夏休みの終わりとともにピンクのハスラーを走らせて札幌へ帰らなければならないのだ。道東自動車道の高速料金だってバカにならないのに、この一銭銅貨しか持っていない28歳チョンガー亡霊のせいで、お茶にタバコにビールに日本酒と、予定外の無駄な出費が相次いでいる。札幌に戻ったら、また塾のアルバイトで必死に貯め直さなければならないと思うと、どっと疲労が押し寄せてきた。
そんな私の切実な懐事情などミリ単位も気にしていないバカな軍曹は、ベッドの下の床に浮いたまま、買ってもらった日本酒の瓶から直接ぐびぐびと酒を煽っていた。
そして、21世紀の芳醇な清酒でいい具合にほろ酔いになった強面を私に向け、信じられないほどどストレートにこう言い放ったのだ。
『しかし佐倉殿、この部屋の寝台は一つしかないのだな。となると、今夜は必然的に添い寝だな』
「……………………は?」
私は手に持った缶チューハイを握り潰しそうになりながら、あまりの厚顔無恥さに完全に唖然としてしまった。
大楽毛の赤レンガトーチカから始まった私の夏休み一人旅は、21世紀のビジネスホテルのシングルベッドにおいて、ついに歴史の不条理を限界突破した、最悪の貞操危機戦線へと突入していくのだった。
(第7話・了)




