再会
ナオと目が合った瞬間、胸の奥が一気に熱くなった。
ほんの数秒なのに、中学の頃の記憶が全部押し寄せてくる。
ナオが近づいてきて、「久しぶり」と言った瞬間、涙が出そうになった。
あの、ナレーションの時に“良い声だな”って思った声。
友達と話してる時の、少し柔らかい声。
卒業式の時、本当は聞きたかった声。
(……言わなきゃ)
胸の奥に沈めていた言葉が、勝手に浮かび上がってくる。
でも、どう切り出せばいいのか分からない。
ナオの顔を見た。少し照れたように笑っていた。
その笑顔を見た瞬間、心の中の何かがほどけた。
気づいたら、口が動いていた。
「……あのさ。話したいことがあるんよ。」
声が少し震えた。
ナオが驚いたように目を見開く。
「卒業式の日のこと……ずっと言えんかったことがあって。」
夕方の風が吹いて、前髪が揺れた。
胸の奥が痛い。
でも、言わなきゃいけない。
「幼馴染に呼び止められた時……本当は、ナオを探しとったんよ。」
言った瞬間、胸の奥が熱くなった。
ナオの表情が揺れる。
その反応を見て、続けようとした。
「それでね……ナオも見てたから知ってると思うけど、私、あの人から告白されたんよね。でもね、断ったんよ。だって――」
その瞬間。
バスのブレーキ音が、二人の間に割り込んだ。
風が巻き起こり、私の髪が揺れる。
待っていたバスが到着した。
乗客は私ひとり。運転手さんが声をかける。
「乗りますか?」
「……はい」
言葉を飲み込んだまま、ナオを見つめた。
「……バス来ちゃった。じゃあ行くね。」
そう言って、バスに乗り込んだ。
(ずっと私しか話してない……ナオの声、もっと聴きたかった)
窓際の席に座ると、ナオは何か言いたげな表情でこちらを見ていた。
私は精いっぱいの笑顔で
(じゃあね)
と口パクした。
ナオは、一瞬目を伏せてから、何かを口パクした。
(……好きだ)
そう言っているように見えた。
でも、ナオが言おうとした瞬間、バスが動き出してしまい、確かめることはできなかった。
☆☆☆
アイツの「……ほんとに」という小さな笑顔が、胸の奥に染み込んでいく。
離れていた時間なんて、本当は一瞬で消えてしまうんじゃないかと思うほど、
懐かしくて、でもどこか少しだけ苦しい。
何か言わなきゃ。でも、何を言えばいいのか分からない。
喉の奥に言葉がつかえて、胸の奥だけが熱くなる。
沈黙が落ちた。けれど、その沈黙は嫌じゃなかった。
むしろ、このまま時間が止まってくれたら良いのにと思った。
そんな時だった。
アイツが、ほんの少しだけ視線を落として、息を吸った。
その仕草だけで、胸がざわつく。
「……あのさ。話したいことがあるんよ。」
その声は、どこか震えていた。
ぼくは驚いて目を見開いた。
(話したいこと……?)
アイツは続けた。
「卒業式の日のこと……ずっと言えんかったことがあって。」
胸の奥がざわつく。
(卒業式……)
聞きたい。
でも怖い。
でも聞きたい。
夕方の風が吹いて、アイツの前髪が揺れた。
アイツは言った。
「幼馴染の男子に呼び止められた時……本当は、ナオを探しとったんよ。」
胸の奥が一気に熱くなった。
(……え?)
言葉が出なかった。
喉が固まって動かない。
アイツは続ける。
「それでね……ナオも見てたから知ってると思うけど、私、あの人から告白されたんよね。でも、断ったんよ。だって――」
(……ちゃんと断った?……え?……??)
その続きを聞きたかった。
頭がパニックになる。
アイツの声が、夕方の空気の中で震えていた。
ぼくは息を飲んだ。
続きを待った。
その瞬間だった。
――プシューッ。
バスのブレーキ音が、夕方の空気を切り裂いた。
二人の間に、無情なほど大きな音で割り込んでくる。
風が巻き起こり、アイツの髪が揺れた。
ぼくの胸の奥も、一緒に揺れた。
アイツが待っていたバスが到着した。
乗客はアイツひとり。
運転手さんが声をかける。
「乗りますか?」
アイツはぼくを見たまま、小さく息を吸った。
「……バス来ちゃった。じゃあ行くね。」
ぼくは何も言えなかった。
言いたいことは山ほどあるのに、喉が固まって動かない。
アイツはバスに乗り込んだ。
アイツは窓際の席に座り、ぼくを見つめた。
(じゃあね)
そう口パクしたように見えた。
ぼくは一瞬だけ目を伏せて、胸の奥に溜まっていた言葉をやっと口にした。
声にはならなかったけど。
(……好きだ)
アイツが気づいたかどうかは分からない。
ぼくが言おうとした瞬間、バスが動き出してしまったから。
夕方の光の中で、アイツの姿がゆっくり遠ざかっていった。
胸の奥が、痛いほど熱かった。




