ねぶた祭り
退院から数ヶ月。
香織は仕事に復帰し、通院しながら経過観察を続けていた。
家の中には、ようやく“日常”が戻ってきていた。
そんなある日、
愛華が保育園から帰ってきて、
バックを放り出すように走ってきた。
「パパ!ママ!きょうね、ねぶたのえほんよんでもらったの!」
「ねぶた?」
香織が首を傾げる。
「おっきいのがね、ひかるの!
どんどんっておとがしてね、みんなでおどるの!」
愛華は興奮して身振り手振りで説明する。
香織はその様子を見て、
ふっと懐かしそうに笑った。
「……ねぶた、かぁ……」
「香織、知ってるの?」
「うん。
お母さんの実家、青森なの。
今は、もう実家は無くなっちゃったけど、
小さい頃、何度か連れて行ってもらったよ。
すごく綺麗だった……」
その言葉を聞いた瞬間、
胸がほっこりする。
(……香織の“原点”か……)
その夜。
夕飯の準備をしている香織の横で、
俺はスマホでねぶた祭の情報を見ていた。
「香織、ねぶたってさ……
“厄払い”の意味もあるんだって」
香織の手が一瞬止まった。
「……厄払い……」
「うん。
病気から生きて帰ってきたんだし……
なんか、行く意味ある気がしてさ」
香織はゆっくり顔を上げた。
その目は、
少し潤んでいた。
「……行きたい。
愛華にも見せたいし……
私も、もう一度見たい……」
ぼくは微笑んだ。
「じゃあ、行こう。青森まで」
「……ここから青森なんて……大旅行だよ?」
「飛行機で行けばいい。
今だからこそ行けるんだよ。
三人で、思い出作ろう」
香織は小さく笑って、俺の手を握った。
「……ありがとう、尚文。
ほんとに……ありがとう」
その時、愛華が走ってきた。
「パパ!ママ!どこいくの?」
ぼくは愛華を抱き上げて言った。
「ねぶた祭り、見に行こうか」
愛華の目が一瞬で輝いた。
「いく!!いく!!ママのふるさといく!!」
香織は驚いたように笑った。
「ふるさとってほどじゃないけど……
でも、そうだね。
おばあちゃんのふるさとだよ」
愛華は香織の手をぎゅっと握った。
「ママ、いっしょにいこうね!」
香織は笑顔で頷いた。
「うん……行こうね……」
その瞬間、ぼくは心の底から思った。
(この旅は……三人にとって特別なものになる)




