検査結果
病院の駐車場に車を停めた時、香織の手が少し震えているのに気づいた。
「……寒い?」
「ううん……大丈夫」
大丈夫じゃないのは分かってる。
でも、香織は強がる。
ぼくはそっと香織の手を握った。
「行こう。
一緒に聞くって決めただろ」
香織は小さく頷いた。
乳腺外科の前の椅子に座ると、香織は膝の上で指を絡めていた。
その指が、かすかに震えている。
ぼくは隣で、その震えを見ないふりをした。
(……怖いよな。
でも……俺がいるからな)
そう思いながら、香織の手にそっと触れた。
香織は驚いたようにぼくを見て、少しだけ微笑んだ。
その笑顔が痛い。
しばらくすると、佐伯先生の声がして、
ぼくたちは診察室に入った。
香織は深呼吸をして、椅子に座った。
俺は隣に座り、
香織の手をそっと握ったまま離さなかった。
佐伯先生は、モニターに映った画像を見ながら静かに言った。
「香織先生……
組織検査の結果が出ました」
香織の肩が小さく揺れた。
俺の心臓も、嫌な音を立てて跳ねた。
佐伯先生は、
医者としての冷静さと、
同僚としての優しさを混ぜた声で続けた。
「……悪性の可能性が高い。
ステージはまだ確定ではないが……
早期治療を始める必要がある」
香織の呼吸が止まった。
ぼくも、一瞬だけ世界が静かになった気がした。
香織は唇を噛み、
震える声で言った。
「……そう……ですか……」
佐伯先生は続けた。
「早期で見つかったのは幸いだよ。
治療の選択肢は多い。
一緒に進めていこう」
香織は小さく頷いたけれど、
その目はどこか遠くを見ていた。
診察室を出て、廊下の角を曲がった瞬間だった。
香織の足が止まった。
「……尚文……」
その声は、
今にも消えそうだった。
俺が振り返ると、
香織の目から涙が溢れた。
「……怖い……
本当に……怖いよ……」
その瞬間、胸が締め付けられた。
ぼくは香織を抱きしめた。
強く、強く。
「……大丈夫だ。
一緒に乗り越える。
絶対に離れない。
香織を一人にしない」
香織はぼくの胸に顔を埋めて泣いた。
「……ごめん……
ごめんね……
こんなことになって……」
「謝るな。
香織は悪くない。
俺たちは家族だろ。
愛華もいる。
三人で乗り越えるんだよ」
香織の肩が震えた。
俺はその震えを、ただ抱きしめて受け止めた。
————
香織の診断結果を聞いた帰り道、
車の中はずっと静かだった。
夜。
愛華を寝かせたあと。
リビングで二人きりになった時、香織は膝を抱えて小さく言った。
「……愛華に……どう言えばいいんだろう……」
その声は、今にも消えそうだった。
俺は隣に座り、香織の肩にそっと手を置いた。
「無理に全部言わなくていい。
でも……隠し続けるのも違うよな」
香織はゆっくり頷いた。
「……あの子、敏感だから……
私が泣いたら、すぐ気づく……
でも……怖がらせたくない……」
「大丈夫だよ。
二人で考えよう。
愛華が安心できる伝え方を」
香織は唇を噛み、
小さく震える声で言った。
「……母親なのに……
こんな時……どうすればいいか分からない……」
「香織は十分すぎるほど母親だよ。
俺が隣にいる。
一緒に考えよう」
香織は少しだけ目を伏せ、
そのまま俺の肩に頭を預けた。




