特別な朝
目が覚めた瞬間、いつもと違う温もりが隣にあった。
(……あ……)
ゆっくり視線を向けると、
すぐそばに尚文の寝顔があった。
こんなに近くで見るのは、
初めてだった。
静かな寝息。
少し乱れた前髪。
昨日よりも近い距離。
胸がじんわり熱くなる。
(……夢じゃないんだ……)
そっと動こうとしたら、
尚文の腕が、
私の腰にまわっていることに気づいた。
(……え……)
思わず固まった。
その瞬間、尚文がゆっくり目を開けた。
「……香織……?」
寝起きの低い声。
少し掠れていて、
胸の奥に響く。
「おはよう……」
そう言うと、
尚文は一瞬だけ照れたように目を逸らした。
「……なんか……変な感じだな」
「うん……」
「……隣に香織がいるの、
まだ信じられないっていうか……」
その言葉に、
胸がぎゅっと締め付けられた。
(……尚文……)
私はそっと、
尚文の腕に触れた。
「……私もだよ。
でも……嬉しい」
尚文はゆっくり笑った。
昨日よりも柔らかくて、
どこか安心したような笑顔。
「……香織、あったかいな」
その一言で、
顔が一気に熱くなる。
(……そんなこと言わないで……
朝から心臓がもたない……)
尚文は、
腕を離すどころか、
少しだけ力を込めて抱き寄せた。
「……もう少し、このままでいてもいい?」
その声があまりにも優しくて、
胸が溶けそうになった。
私は小さく頷いて、尚文に頬にキスをした。
「……うん。
もう少しだけ……」
二人で静かに目を閉じる。
窓から差し込む朝の光が、
ゆっくりと部屋を照らしていく。
(……こんな朝が来るなんて……思わなかった……)
胸の奥がじんわり温かくなった。
尚文の腕の中でしばらく過ごしたあと、ようやく布団から抜け出した。
(……なんか……身体が軽い……いや、むしろふわふわしてる……)
キッチンに向かうと、
尚文が寝癖のまま後ろからついてきた。
「……香織、座ってていいよ。朝も俺が作る」
「えっ……でも……」
「昨日の続き。
“おもてなし”ってやつ」
そう言って笑う尚文の顔が、
いつもより柔らかくて、
胸がまた熱くなる。
(……ずるい……
そんな顔されたら……)
私は素直に椅子に座った。
尚文は冷蔵庫を開け、
卵とベーコンを取り出して、
フライパンを温め始めた。
その背中を見てると、ふと亮介の姿と重なる。
(……なんか……
夫婦になった……感じがする‥‥)
そう思った瞬間、自分で自分に驚いた。
尚文が振り返る。
「香織、コーヒー飲む?」
「うん……」
「昨日より顔赤いぞ」
「ちょっ……!」
尚文はくすっと笑って、コーヒーを淹れ始めた。
(……やめて……
朝からそんな優しい声出さないで……)
卵が焼ける音と、
コーヒーの香り。
それだけなのに、胸がいっぱいになる。
「できたよ」
テーブルに置かれたのは、
シンプルな朝食なのに、
どこか特別に見えた。
「……いただきます」
一口食べた瞬間、思わず笑ってしまった。
「……美味しい……」
「よかった」
尚文も照れたように笑う。
その笑顔を見て、
胸がまたぎゅっとなる。
(……昨日のキス……
夢じゃなかったんだ……)
尚文がふと、
真剣な顔でこちらを見た。
「香織」
「なに……?」
「……昨日のこと、後悔してる?」
その言葉に、胸が一気に熱くなる。
私はそっと、
尚文の手に触れた。
「……後悔なんて、するわけないよ」
尚文は一瞬だけ目を伏せて、
それからゆっくり笑った。
「……そっか。よかった」
その笑顔が、
あまりにも優しくて、
胸がまた溶けそうになる。
(……こんな朝が続けばいいのに……)
そう思った。




