パパの本音
香織と愛華と暮らし始めて一年。
毎日が賑やかで、
愛華は俺にべったりで、
香織はいつも優しくて、
気づけばこの家が“帰る場所”になっていた。
……ただ。
(……香織と二人きりになる時間、全然ないな)
愛華がいつも間に入ってくる。
寝る時も、休日も、食事の時も。
もちろん、愛華が可愛いのは本当だし、
抱きつかれたら嬉しい。
でも——
香織のことを、ちゃんと見たい時もある。
香織が笑った時の横顔とか、
料理してる時の仕草とか、
ふとした瞬間に見せる寂しそうな目とか。
そういうのを、もっと近くで見たいと思う日が増えていた。
「ねぇ、尚文。
愛華のお泊まり保育……来週だって」
その瞬間、心臓が一拍、変な音を立てた。
(……お泊まり保育……?
ってことは……)
愛華がいない夜。
つまり——
香織と二人きりの夜。
「そうだねぇ」
・・・なんて平静を装って返したけど、内心は完全に動揺していた。
(……どうしよう……
めちゃくちゃ緊張する……)
香織の横顔を見ると、どこか照れているように見えた。
(……香織も……意識してるのか……?)
そう思った瞬間、緊張度合が高まった。
****
愛華はリュックを背負って大はしゃぎ。
「パパ!ママ!行ってくるね!」
「楽しんでおいで」
「気をつけてね」
愛華が園に入っていく後ろ姿を見送りながら、ぼくはふと横を見る。
香織が、少しだけ緊張した顔をしているように見えた。
(……香織も、同じ気持ちなんだな)
そう思ったら、少しだけ緊張してきた。
玄関のドアを閉めた瞬間、家の中がやけに広く感じた。
いつもなら愛華の声が響いているのに、
今日は静かだ。
香織がそっと言った。
「……なんか、変な感じだね」
「……ああ。静かすぎるな」
二人で笑ったけど、
その笑いはどこかぎこちなかった。
(……どうしよう……
本当に二人きりだ……)
胸がざわざわして、
落ち着かない。
香織がキッチンに向かいながら言った。
「ねぇ、尚文。今夜……何食べたい?」
その声が、いつもより少しだけ柔らかく聞こえた。
(……やばい……
香織の声、こんなに甘かったっけ……)
喉が乾いて、
言葉がうまく出てこない。
「……って言うか、今日はぼくが作るよ。
日頃の感謝って言うか、
おもてなしと言うか‥‥
昔から“お前”に一回料理作ってあげたかったし‥‥」
香織が振り返って、少しだけ頬を赤くした。
(……あぁ……今日、絶対眠れない……)
そう確信した。




