両親
翌週。
私は、私の実家の玄関の前に立っていた。
尚文と愛華が隣にいる。
その温かさが心強いはずなのに、足が少し震えていた。
(……お父さん、お母さん。
ちゃんと話さなきゃいけんよね)
インターホンを押すと、母が扉を開けて、目を丸くした。
「香織……?
あら……愛華……
それに……えっと……」
尚文を見て、少し戸惑ったように微笑む。
(……そうよね。“誰か”は知っとるけど、ちゃんと会うのは初めてやもんね)
「こんにちは。北村尚文と申します」
ナオが丁寧に頭を下げると、母は慌てて言った。
「い、いらっしゃい。どうぞ上がって」
父も居間から出てきて、
ナオを見て少し驚いた顔をした。
「……君が、いつも二人を助けてくれてる……?」
ナオは静かに頷いた。
「はい。いつもお世話になっています」
その一言で、父の表情が少し柔らかくなった。
リビングのソファーの上で、私は手を膝の上で組み、ゆっくりと口を開いた。
「……お父さん、お母さん。今日は……話したいことがあって来たんよ」
二人が静かに頷く。
私は、
言葉を急がず、
ひとつずつ丁寧に置いていくように話し始めた。
「……この前ね、三人で亮介のご両親のところに行ってきたんよ」
母が驚いたように目を見開く。
「三人で……?」
私は頷いた。
「うん。尚文も一緒に。
ちゃんと……挨拶してきた」
父が静かに目を細める。
私は続けた。
「それから……
亮介のお墓にも行ってきたんよ。
三人で」
母が口元を押さえた。
「……香織……
あなた……ちゃんと……亮介君のこと……」
私は静かに頷いた。
「うん。
忘れたりせんよ。
亮介は……
私の人生の大事な人やけん」
そこまで言った時、尚文が深く頭を下げた。
「……ぼくは、香織さんと愛華ちゃんを守って行きたいと思います。
でも……籍を入れるつもりはありません。
亮介さんのことも含めて、三人で生きていく覚悟はあります」
父はしばらく黙っていた。
その沈黙は、
責めるものではなく、
“受け止めようとしている沈黙”だった。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……亮介君のご両親が認めてくれたのなら……
私たちが反対する理由はない」
母は涙をこぼしながら言った。
「香織……
あなたが亮介君のことを大切にしてくれて……
その上で、尚文君と歩こうとしてるなら……
私は……何も言わんよ」
私は泣きながら頭を下げた。
「ありがとう……本当に……ありがとう」
愛華が母に抱きつく。
「おばあちゃん、ナオさんね、すごく優しいんよ!」
母は笑いながら愛華を抱きしめた。
その光景を見て、胸の奥がポッと温かくなった。




