押される背中
納骨を終えた帰りの新幹線。
夕方の光が車内に差し込み、窓の外の景色がゆっくりと流れていく。
私は席に深く腰を下ろし、
胸の奥に残る痛みと温もりを抱えたまま、
静かに息を吐いた。
愛華は疲れたのか、私の腕に頭を預けて眠っている。
両親も、言葉を交わすことなく、ただ静かに座っていた。
新幹線の揺れが、今日一日の重さを優しく撫でるように伝えてくる。
(……ナオに……いつか……話してもいいのかな……)
夫のこと。
娘のこと。
自分の弱さ。
(……でも……私にそんな資格……あるの……?)
胸の奥がきゅっと痛む。
疲れが一気に押し寄せ、まぶたが重くなっていく。
私は愛華の頭をそっと撫でながら、のまま意識がゆっくりと沈んでいった。
☆★☆★
気づくと、私は夕暮れの病院の廊下に立っていた。
あの日と同じ光。
あの日と同じ匂い。
そして――
振り返ると、
そこに夫が立っていた。
白いシャツ。
優しい目。
あの頃と変わらない笑顔。
「……あなた……?」
声が震えた。
夫はゆっくりと私に近づき、
私の頬に触れるように手を伸ばした。
触れられないはずなのに、
温かさを感じた。
「香織」
その声は、
あの日と同じ、
優しくて、穏やかで、
私を包み込むような声だった。
「大丈夫。オレはずっと側にいるから」
胸が締めつけられた。
「……あなた……私……どうしたら……」
夫は微笑んだ。
「香織と愛華が幸せになること。それが……オレの一番の願いだよ」
涙が溢れた。
「香織の人生は、香織のものだよ。オレは……見守ってるから」
その言葉は、
胸の奥の深い場所に、
静かに、確かに届いた。
夫はふっと優しく笑い、夕暮れの光の中に溶けていった。
「……香織……?」
母の声で目が覚めた。
新幹線はもうすぐ最寄り駅に着くところだった。
私は頬に残る涙をそっと拭った。
(……あなた……本当に……見守ってくれてるんだね……)
胸の奥が、少しだけ軽くなった気がした。
そして――
ナオの横顔が、
静かに胸に浮かんだ。
(……話しても……いいのかな…………)
新幹線はゆっくりと減速し、夜の街の灯りが近づいてきた。
☆☆☆
納骨から数日が経ち、私はいつものように外来に立っていた。
患者さんの声。
看護師の足音。
日常は、何事もなかったかのように流れていく。
でも胸の奥には、あの日の夢の温もりがまだ残っていた。
(……あなた……私……少しだけ前に進んでみるね……)
そう思えるようになったのは、
夫の言葉のおかげだった。
けれど――
ナオに話す勇気はまだ出ない。
(……話したい……でも……まだ怖い……)
そんな揺れを抱えたまま、私は仕事に戻っていた。
その週の金曜日。母から電話があった。
「香織、急で悪いんだけど……お父さんと二人で、親戚のお葬式に行かなきゃいけなくてね。明日から二日間、家を空けるの」
「うん、大丈夫。愛華のことは私が見るから」
そう言ったものの――
翌日は外来、
その翌日は病棟の担当日。
(……どうしよう……)
両親がいない。
義両親は遠方。
頼れる人がいない。
でも、なんとかなるだろうと、その時はまだ軽く考えていた。
————
昼過ぎ。
外来が混み始めた頃、
PHSが震えた。
保育園からの外線だった。
「愛華ちゃんのお母さん……
愛華ちゃん、急に高い熱が出てしまって……
ぐったりしていて……
すぐに迎えに来ていただけますか?」
胸が凍りついた。
「……すぐ行きます!」
そう言った瞬間――
救急外来から緊急コールが鳴り響いた。




