会議室の二人
業務改善のプロジェクトが軌道に乗り始めた頃。
その日のミーティングは、午後の外来が落ち着いたタイミングで行われる予定だった。
医局の会議室には数名の医師が集まり、ナオが資料を広げて準備を進めていた。
その時――
PHSが一斉に鳴り響いた。
急患コール。
「行ってきます!」
「香織先生、ミーティングお願い!」
「急患は俺たちで診るから!」
同僚の先生たちは慌ただしく白衣を翻し、次々と会議室を飛び出していく。
扉が閉まる音が響き、会議室には静寂が戻った。
残されたのは――
ナオと、私。
(……なんで、こんな時に2人に……)
胸の奥に小さなざわつきだけが残る。
☆☆☆
先生たちが出ていった後、ぼくは自然にミーティングを再開しようとした。
「じゃあ、続きですが――」
言いかけて、ふと手が止まった。
静かな会議室。
二人きり。
外の喧騒が遠くに聞こえる。
(……あれ……この感じ……)
胸の奥に、中学のあの夜の空気がふっと蘇る。
暗い教室。
二人きり。
ナレーションを作り直した、あの時間。
思わず口に出ていた。
「そういえば……こんな状況、二度目だな」
☆☆☆
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が跳ねた。
(……え……二度目……?)
ナオの横顔。
静かな声。
二人きりの会議室。
その瞬間――
中学のあの夜が鮮明に蘇った。
暗い教室。
二人きり。
ナレーションを作り直した時間。
あの時の空気。
あの時の距離。
あの時の自分の想い。
(……なんで……なんで今、その話を……)
胸が苦しくなる。
夫の顔が胸に過る。
愛華の笑顔が浮かぶ。
そして――
ナオの声が重なる。
(……ほんとにだめ……これ以上……揺らさないで……)
でも、揺れてしまった心は、もう止められなかった。




