再会
私は別のフロアで本格復帰に向けた面談を受けていた。
愛華を保育園に預け、彼がいない病院へ。
緊張と不安と、少しの前向きな気持ち。
(……ちゃんとやらなきゃ)
夫の遺影に誓った言葉を胸に、ゆっくりと歩いていこうと思っていた。
そのすぐ上の階で、ナオが担当者と打ち合わせをしていることなど、
もちろん知らない。
同じ病院。
同じ時間。
同じ空気。
でも、互いの存在はまだ交わらない。
すれ違うために、すれ違っているような時間がそこにあった。
☆☆☆
プロジェクト再開の打ち合わせから3ヶ月が経った。
プロジェクトは順調に進んでいた。
担当として病院へ足を運ぶ回数も増え、この病院の空気にも少し慣れてきた頃だった。
その日も、次の打ち合わせを終えて正面玄関へ向かっていた。
自動ドアが開くと、
外の光が差し込み、少し眩しかった。
その時だった。
玄関脇に、白衣を着た人が電話をしているのが見えた。
ぼくは何気なくそちらに視線を向けた。
「はい。微熱ですか?う~ん……ちょっと今仕事を抜ける事が出来ないので、祖母にお願いしてみます。……はい。お願いします」
どうやら、子どもの話らしい。
(子どもがいる先生か……大変だな…‥)
そう思いながら、ぼくは自動ドアをくぐり外へ出た。
その瞬間だった。
白衣の人が、電話を切って顔を上げた。
視線が、ふと重なった。
ぼくの時が止まった。
呼吸が止まったのか、
心臓が止まったのか、
自分でも分からなかった。
ただ――
そこにいたのは、
あの日から、
ぼくがずっと探していた人だった。
白衣の袖を風が揺らし、
彼女の髪が光を受けて柔らかく揺れた。
あの駅での記憶が、
一気に胸の奥から溢れ出した。
(……え!?‥‥香織?)
声にならなかった。
世界の音がすべて遠のき、目の前の景色だけが鮮明になった。
ぼくは立ち尽くした。
アイツは、ぼくの存在に気づいていない。
ただ、次の仕事へ向かうようにゆっくりと歩き出した。
思わず、声に出た。
「……香織?」
アイツは、驚いたように振り返る。
「‥‥‥‥‥えっ?!‥‥」
「‥‥‥ナオ‥‥‥なの??」
これが、あのバスターミナルで最後に言葉を交わしてから14年振りの『再会』だった。




