すれ違いの中で
クラス替えの名簿を見た瞬間、胸の奥がスッと冷えた。
アイツの名前が、どこにもない。
いや、ある。でも、ぼくのクラスじゃない。
(……また別か)
去年と同じ。
1年の時と違って、もう“自然に話す理由”なんてない。
しかも――
ぼくは勝手に思い込んでいた。
(アイツ……好きな人、おるんやろ?)
1年生のあの日。
アイツが同じクラスの幼馴染って言ってた男子と話していた姿。
笑っていた横顔。
2年生になっても、その幼馴染とアイツは同じクラスだった。
たまにアイツのクラスに行った時も、その男子と仲良く話しているのを見かけた。
そして3年生になってからも、また二人は同じクラス。
その全部が、ぼくには“そう”見えてしまった。
だから、話しかける理由なんてどこにもなかった。
いや、話しかける資格もないと思っていた。
廊下ですれ違う。
階段で前を歩いている。
体育館の前で誰かと話している。
そんな時、ぼくはいつも“気づかないふり”をした。
(……見らんかったことにしよう。)
胸が痛くなるから。
目が合うと期待してしまうから。
アイツは、ぼくのことなんて気にしてない。
そう思い込むことで、自分を守っていた。
でも――
すれ違うたびに胸がチクっと痛む。
(なんでやろ?……なんで、こんなに気になるんやろ……)
答えは、あのナレーション作りの日で分かっているのに、認めたくなかった。
☆☆☆
3年生になって、また別のクラスになった。
(また離れたね……)
そう思ったけど、去年よりは平気だと思っていた。
でも――
ナオが全然話しかけてこない。
目が合いそうになっても、すっと逸らされる。
廊下ですれ違っても、ナオは気づかないふりをする。
(……なんで?私なんかした?
あの日のこと、気まずかった?)
胸の奥がざわざわした。
ナオが避けている理由が分からない。
でも聞く勇気もない。
聞いて、もし本当に嫌われていたら――
立ち直れない気がした。
だから、私も何も言えなかった。
ナオが私に好きな人がいると勘違いしているなんて、私は知る由もなかった。
だから、ナオが避けるたびに胸が締めつけられた。
(……ウチのこと、もうどうでもよくなったんかな。)
そんな不安が、日を追うごとに積もっていった。
友達と笑っていても、ふとした瞬間に胸が沈む。
ナオの横顔を見つけるたび、心がざわつく。
(なんで……なんでこんなに気になるんやろ)
その答えに気づくのが怖かった。
ドクターになりたい。
小さい頃からずっと胸の奥にあった夢。
でも、それを叶えるには県外の全寮制の進学校に行くしかない。
親とも話し合って、受験することを決めた。
(ナオには……言えん。)
言ったら、何かが変わってしまいそうで怖かった。
ナオが避けている今、そんなことを言ったら、
もっと距離ができてしまう気がした。
だから、胸の奥にしまい込んだ。
受験勉強は大変だった。
夜遅くまで問題集を解いて、朝早く起きて予習して。
でも――
ふとした瞬間に、ナオの横顔が浮かんでしまう。
数学の問題を解いている時も、
英単語を覚えている時も、
胸がざわつく。
(なんで……なんで今さらこんな気持ちになるん?)
気づきたくなかった。
気づいたら終わりだと思った。
ナオは私を避けている。
理由は分からない。
私が何かして嫌われたのかな。思い当たる節はない。
そして自分は、県外の全寮制高校に行くかもしれない。
(……ウチが好きになっても意味ないやん……)
そう思うたび、胸がギュっと締めつけられた。
ある日の放課後、ナオが廊下で友達と笑っているのを見た。
その笑顔を見た瞬間、胸の中で何かが弾ける音がした。
(……あぁ。ウチ、もうナオのこと……)
その瞬間、全部が繋がった。
避けられると苦しい理由。
目が合わないと寂しい理由。
声を聞くと安心する理由。
(……好きなんや。)
気づいた瞬間、涙が出そうになった。
(なんで今なん?なんで、こんな時に?)
受験が迫っている。
県外に行くかもしれない。
ナオからは避けられている。
その全部が、恋心を否定する材料に見えた。
ナオに避けられている理由も分からない。
自分の気持ちにも気づいてしまった。
全部が絡まって、言葉にならなかった。
(……話したいのに、話せん……)
そんな日々が、静かに、ゆっくりと過ぎていった




