幸せな日常
結婚式を終えて、二人で暮らす新築の家に戻った日。
窓から差し込む春の光が、白いカーテンをふわりと揺らしていた。
「ここが、これからの家か」
彼がそう言って笑う。
その笑顔を見て、幸せをかみしめた。
段ボールを開けて、
食器を並べて、
冷蔵庫に食材を入れて。
ただそれだけの作業が、
“これからの人生”を静かに実感させてくれた。
朝は少し早い。
6時半に起きて、7時半には家を出る。
でも、朝ごはんを一緒に食べる余裕はあった。
味噌汁の湯気。
焼き魚の香り。
彼が新聞をめくる音。
(……こんな朝が来るなんて)
勤務中は忙しい。
外来、病棟、カンファレンス。
急患が入れば走ることもある。
でも、夜は19時頃には帰れる日が多かった。
「おかえり」
「ただいま」
その一言だけで、一日の疲れがふっと軽くなる。
夏になると、彼が庭に小さな家庭菜園を作った。
トマト、バジル、ししとう。
「育つかな」
「育つよ、きっと」
朝の水やりは彼の担当。
帰宅後の収穫は私の担当。
そんな小さなルールが、二人の生活にリズムを作っていった。
休日には、車で少し遠くまで出かけた。
海沿いの道を走ると、窓から潮風が吹き込んでくる。
「ここ、子どもの頃よく来てたんだろ?」
「うん。懐かしいな」
その会話だけで、胸がいっぱいになった。
秋の初め。
朝の支度をしている時だった。
(……なんか、身体が重い)
食欲が変で、少しだけ胸が張るような感覚。
仕事の帰りに、ドラッグストアで検査薬を買った。
家に帰って、震える手で結果を見た。
(……え)
陽性。
息が止まった。
夕飯のあと、勇気を出して言った。
「ねぇ……あのね」
彼が顔を上げる。
「……赤ちゃん、できたみたい」
一瞬、彼は言葉を失った。
次の瞬間、
目が潤んで、
笑った。
「……本当に?ありがとう……ありがとう」
その声を聞いた瞬間、
涙が止まらなくなった。
(……この愛する人と愛する人の子供と生きていくんだ)
その実感が、胸の奥に静かに広がっていった。




