↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
23/90

それぞれの帰郷

春の午後。

新幹線のホームに立つと、風が少しだけ暖かかった。


(……地元に帰るの、久しぶりだな)


彼の隣に立つ自分が、少しだけ不思議に感じた。


プロポーズを受けてから数日。

まだ胸の奥がふわふわしている。


「緊張してる?」

私は彼に敢えて聞いてみた。


「……ちょっとだけ」


そう言って笑いながら、私は自分の指輪をそっと触った。


新幹線がホームに滑り込み、

二人は並んで乗り込んだ。



☆☆☆



転勤の荷物をまとめて、

引っ越しのトラックを見送ったあと、

ぼくは、スーツケースを引きながら駅へ向かった。



スーツケースを引きながら、深く息を吸う。


(……今日から、また始めるんだ)


地元での新しい仕事。

新しい生活。

新しい自分。


ぼくはそんな事を考えながら、自由席の車両に乗り込んだ。


新幹線は静かに走り出した。


★★★


アイツは指定席の窓側。

彼は通路側。

ナオは数両離れた自由席。

同じ方向へ、

同じ速度で、

同じ線路の上を走っている。


でも、互いの存在を知らない。


アイツは彼と未来の話をしていた。


ナオは窓の外の景色を眺めていた。


その景色は、二人にとって同じものだった。


でも、見ている未来はまったく違っていた。


☆☆☆



彼と話しながら、

私はふと窓の外に目を向けた。


(……なんだろう)


胸の奥が、ほんの一瞬だけざわついた。


理由は分からない。

でも、何かが遠くで揺れた気がした。


すぐに彼の声が戻ってきて、その揺れは静かに消えた。



☆☆☆



ぼくは、新幹線の窓に映る自分の顔を見て、ふと思った。


(……なんか、変な感じだな)


胸の奥が、一瞬だけ揺れた。


でも、すぐに消えた。


(……気のせいか)


ぼくは目を閉じて、元での新しい生活のことを考えた。



地元の駅に着いたのは、

ちょうど夕方の光が差し込む時間だった。


春の風がホームを抜けていく。

都会よりも少し暖かくて、でもどこか懐かしい匂いがした。


(……帰ってきたんだな)


新幹線のドアが開くと、たくさんの人が一斉に降りていく。


スーツケースを引く人、

家族連れ、

学生、

仕事帰りの人。


その中に――

ふと、目に入った。


階段を下りていく女性。

横にいる男の人と手を繋いでいる。


横顔が、

一瞬だけ、

アイツに見えた。


(……あれ?)


胸の奥が、

ほんの少しだけ揺れた。


でも、すぐに思い直す。


(……違うな)


ぼくは立ち止まらなかった。

追いかけもしなかった。


ただ、静かに息を吐いた。


(……昔のぼくなら、走ってたな)


アイツを探していた頃の自分が、ふと頭をよぎった。


駅で似た人を見るたびに期待して、

落ち込んで、

また期待して、

また落ち込んで。


そんな日々が、

確かにあった。


(……でも、もういいんだ)


ぼくはスーツケースの取っ手を握り直した。


階段を下りていく“似ている人”の背中は、もうぼくの心を乱さなかった。


(……ドッペルゲンガーだったりして?)


そんなバカな事を思いながら、ぼくは改札へ向かった。


春の風が、ぼくの心にそっと吹き込んだ。


(……新しいアパート、どんなとこだろ?)


ぼくは小さく笑った。


もう、過去を追いかける必要はない。

ここから、新しい自分を始めればいい。


そう思いながら、ぼくは地元の街へ歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。