伝える気持ち
国試が終わった日の夜。
大学の前の道は、受験を終えた学生たちの解放感で少しざわついていた。
でも、私の胸の中は静かだった。
(……終わった)
肩の力が抜けて、深く息を吐いた。
その瞬間、
思い浮かんだのは――
彼の顔だった。
ずっと、隣で支えてくれた人。
不安な日も、
泣きそうな日も、
何も言わずに隣にいてくれた人。
(……言わなきゃ)
今までずっと、言いたい事があるのに言えずにいた。
そう。中学の時も高校の時も駅で会った時もそうだった‥‥
“好き”という言葉を飲み込んで、
すれ違って、
後悔して、
それでも言えなかった。
だからこそ――
今度こそは。
夕焼けが大学の学舎を赤く染めていた。
彼は、いつものように私の隣を歩いていた。
「お疲れ。やっと終わったな」
その声を聞いただけで、気持ちが温かくなる。
(……言わなきゃ)
でも、足が少し震えた。
言葉を飲み込む癖が、まだ身体に残っていた。
(……でも、もう逃げない)
私は立ち止まった。
「ねぇ」
彼が振り返る。
「どうした?」
夕焼けの光が、彼の横顔を優しく照らしていた。
胸が痛いほど、好きだった。
「ずっと……言いたかったことがあるの」
声が震えた。でも、逃げなかった。
「国試の勉強、
一緒にしてくれてありがとう。
支えてくれて……ほんとに、ありがとう」
彼は少し驚いた顔をした。
「いや、俺はただ――」
「違うの」
私は首を振った。
「ありがとう、だけじゃないの」
深呼吸をした。胸の奥が熱くなる。
(……言うんだ)
「私……
あなたのことが好き」
言った瞬間、胸の奥がふっと軽くなった。
今まで何年も飲み込んできた言葉。
言えなくて、
後悔して、
苦しくて、
それでも言えなかった言葉。
やっと、やっと口にできた。
彼は驚いたまま、
しばらく何も言わなかった。
夕焼けの光が、二人の影を長く伸ばしていた。
やがて、彼はゆっくりと笑った。
「……俺もずっと言いたかった」
その言葉が落ちた瞬間、アイツの胸の奥で何かがほどけた。
「好きだよ。
ずっと前から」
夕焼けの中で、二人の影が重なった。
その夜、私は帰り道でふと思った。
(……ナオ)
名前を思い出しても、胸は痛まなかった。
駅の光景も、もう霞んでいた。
ナオの影は、
静かに、
静かに消えていった。
代わりに、彼の笑顔だけが胸に残った。
(……やっと言えた)
それは、私の人生で初めての
“自分からの告白”だった。




