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隣にいる幸せ

6年生の秋。

国試まであと数ヶ月。


毎日、朝から晩まで問題集。

模試の結果に一喜一憂して、夜は不安で眠れない。


(……しんどい)


そんな日々の中で、彼とは“特別なこと”をしていたわけじゃなかった。


一緒に勉強して、

一緒にご飯を食べて、

帰り道を歩いて、

たまに愚痴をこぼして、

たまに笑って。


ただ、それだけ。


でも――

ある日、ふと気づいた。


(……あれ?)


彼のいない自習室が、やけに静かに感じた。


ページをめくる音が、いつもより大きく響く。


(……なんでこんなに落ち着かないんだろう)


不安が胸に広がる。

集中できない。

時計ばかり見てしまう。


「今日は来ないのかな……」



その瞬間、胸の奥が痛んだ。


(……あ、これ)


ようやく分かった。


“いないと不安になる”

“いると安心する”


それはもう、ただの友達じゃなかった。


ある日の夜。

二人で黙って勉強していた。


会話はほとんどない。

ただ、同じ机に向かって、

同じ光の下で、

同じように疲れていた。


ふと、彼がため息をついた。


「……疲れたな」


その声を聞いた瞬間、胸の奥が温かくなった。


(……ああ、同じなんだ)


同じ不(・)安(・)を抱えて、

同じ未(・)来(・)を目指して、

同じ場(・)所(・)で踏ん張っている。


その“並んでいる感じ”が、言葉にできないほど心地よかった。


そして気づいた。


(……この人と一緒にいたい)


特別な出来事なんてなかった。

手を握られたわけでも、優しい言葉をかけられたわけでもない。


ただ、隣にいることが当たり前になっていた。


その“当たり前”が、恋に変わっていた。


その想いを知った帰り道、夜風が冷たかった。


彼が何気なく言った。


「国試終わったらさ、どっか行こうな。ずっと行きたかった場所があるんだよね」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが静かに落ちた。


(……ああ、もう戻れない)


駅の光景は、もう思い出せなかった。


ナオの名前は、いつしか思い出さなくなっていた。


代わりに、

彼の横顔だけが、

はっきりと残った。


それは、

静かで、

深くて、

逃れようのない確信だった。


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