卒業式の決意
3年の冬が過ぎ、
受験の結果が出そろった。
ぼくは関西の大学に進むことが決まった。
周りは喜んでくれたけど、
胸の奥はどこか空っぽだった。
(……ちゃんと、終わらせなきゃ)
彼女との関係も、
ずっと曖昧なまま続いていた。
優しい子だった。
ぼくに合わせてくれて、
ぼくを責めることもなかった。
でも、
その優しさに甘えていたのはぼくの方だった。
高校生活最後。
卒業式。
講堂に集まったたくさんの生徒。
それぞれが別々の道へ進んでいく。
昇降口の前。
春の光が差し込んで、制服の袖に当たり袖が少しだけ暖かかった。
「……話があるんだ」
ぼくがそう言うと、彼女は一瞬だけ目を伏せて、すぐに小さく笑った。
「……やっぱりか」
その“やっぱり”が胸に刺さった。
ぼくは息を吸った。
「ごめん。ぼく……ちゃんと向き合えなかった。君のこと、大切……」
そこまで言った瞬間、彼女がぼくの言葉を遮った。
「ううん、いいよ。なんか……分かってたし」
声は震えていたけど、無理に笑っていた。
「尚文くん、優しいけんさ。私のこと、ちゃんと大事にしてくれてたのは分かっとったよ。でも……なんかね、“ここじゃない”って感じ、ずっとしとった。」
ぼくは言葉を失った。
彼女は続けた。
「尚文くんの心の奥に、誰かいるんでしょ?私じゃない誰か。」
胸が痛くなった。
「別に責めてるわけじゃないよ。むしろ……そんな状態でも、私のこと雑に扱わんかったの、本当に嬉しかったんよ。」
彼女の頬に涙が一粒、落ちた。
「……ねぇ尚文くん」
彼女は少しだけ顔を上げて、まっすぐぼくを見た。
その目は、言葉よりもずっと多くのことを語っていた。
「私ね、尚文くんと一緒におれて、ほんとに幸せやったよ」
その“幸せやった”の奥に、言葉にしなかった気持ちが静かに滲んでいた。
「いつかさ・・・いつか絶対、尚文くんの心、ちゃんと向けてもらえるように……
頑張ろうって思っとったんよ」
“向けてもらえるように”
その言い方が、ぼくの罪深さを表していた。
「でも……無理やったね。勝てんかった」
その“勝てんかった”が、
あまりにもリアルで、
あまりにも切なかった。
ぼくは彼女の手をそっと握った。
「……ごめんな。本当に、ごめん。そして、こんなぼくを好きになってくれて、ありがとう。」
彼女は首を振った。
「ううん。ありがとうって言うのは私の方。尚文くんは、その人の事を大事にしてあげてね。」
その言葉は、ぼくを責めるどころか、背中を押してくれていた。
そして最後に、涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、それでも精いっぱいの笑顔で言った。
「尚文くん、幸せになってね。」
その声の奥に、“まだ好きでいてくれている温もり”が確かにあった。
でも彼女は、それを言葉にはしなかった。
春の光の中へ歩いていく彼女の背中は、
強くて、
優しくて、
胸が締め付けられるほど綺麗だった。
ぼくは深く息を吸った。
(……香織)
ぼくは、自分の心がどこに向いているのかを改めてはっきりと理解した。




